私の知ってる城光与志忠は幼馴染の一つ上のお兄ちゃん。
誠実で頼りがいがあって。
顔はそんなにかっこよくはないんだけどなんだかかっこよくて。
この思いはずっと続いていくものだと思っていたし
与志忠はモテないタイプと思って安心してたんだけど、
「キャーー!城光先輩ガンバレ〜〜〜!」
「城光くんカッコいいっ!!」
与志忠が選抜に選ばれてからグラウンドでは黄色い声援が止むことはない。
「チェッ何よ…今まで見向きもしとらんかったくせに」
グラウンドとは程遠い窓越しからはつぶやいた。
けど自分も今はあの人たちと同じ立場か…と、内心思う。
そう、中学に入ってから与志忠と私は一言も会話を交わしたことがない。
学年も違うからすれ違うこともないし。
登下校も与志忠が部活一色なもんだから時間が合わないので会うことはなかった。
「あっ見つけた!はよ来んかい!お前文化委員やろ?打ち合わせあるって言ったやん」
教室のドア越しからクラスの男子の声が響く。
「ゴメン。すぐ行くけん!」
そういい残し教室を後にする。
「最悪、もうあたり真っ暗やん」
変な雑用を散々やらされたの帰っている時間は七時。
中学生にとって七時は結構キツイもの。
怖いなぁ、そう思っていた瞬間だった。
"スタ…スタ…スタ"
誰かの足音が後ろから聞こえる。
真っ暗だから何も見えないし振り返る勇気もない。
やだ、怖い!!
"スタスタスタスタ"
思わず早歩きになる。
すると向こうも…
"スタスタスタスタ"
……向こうもはや歩きになってるじゃんよ…!!(汗)
その瞬間、
─ポンッ
誰かがの肩をポンッとたたく。
「ギッギャーーーー!!!」
びっくりしたは思わず叫んでしまった。
「久々なのにギャーとは失礼なやっちゃな」
え、久々…?
「へ…?」
聞き覚えのある声に急いで振り返る。
「与志忠!」
「久々やね。元気にしとったん?」
表情の少ない与志忠だけど笑ってるというのはすぐにわかる。
この顔は幼馴染の私だから分かるのかもしれない。
「うん。元気やった…」
あれ?緊張しすぎて上手く言葉が出てこない。
「でもどうしたん?」
「え?」
「いや、がこんな時間に帰るのって珍しいけん」
「あぁうん。文化委員の仕事が長引いちょったけんね」
「そっか」
「……」
沈黙が流れる。
聞きたいこととかたくさんあるはずなんだけど…
緊張のせいでうまく言葉が出てこない。
変だなぁ、前はそんなことなかったのに。
「でもが中学に入ってからは始めてやろ?こうやって話すん」
「そ、そうやね。小学校のときはよう遊んどったのにね…それにしてもバリびっくりしたよ」
「なんが?」
彼は少し首を傾げながら聞き返す。
「だって与志忠モテモテなんやもん」
少しうつむきながらは答える。
「ほうか?」
「そーだよ。よう女子の人たちが見とおやん。与志忠のこと」
「ほうか…でもよく知っちょったな。」
「え!?」
しっしまった。
今の言葉、私も与志忠を見てましたって言ってるのと同じやん(汗)
よっよし。話題を変えよう!
「あっ!そういえば与志忠はサッカーいつからしよん?私の記憶だと一緒に遊んでたときにはサッカーやっとったよね?」
わざとっていうくらいの笑顔で彼に言う。
「確か…四歳のときからっちゃね?」
「え、そんなに長かった?すごい…よう続くなぁ」
「まっ好きでやったことなんやし大丈夫やけど」
「そっか…昔からそういう一途なところは変わってなかね」
「ほうか?」
「そうやん。昔から」
緊張がすっかり解けたは思いっきりの笑顔を与志忠に見せた。
「やっと見せたな」
「…え?」
「の笑顔ってなんか元気がでるっちゃね」
「なっ何言っとるん!?」
恥ずかしさのあまりカバンで顔を隠す。
与志忠の言葉…というよりも、その言葉を言ったときの彼の顔には真っ赤になっていた。
そのとき見せた彼の顔は学校では見たことのないくらいの笑顔。
恥ずかしい…
もう彼の顔が見れないくらい。
でも聞きたいことがにはあった。
家まであと少し。
その時間までに、
「…ねえ、与志忠」
「ん?」
「こっ恋人とかできたん?」
「はぁ?何言っとん?」
あっけらかんと返される言葉。
「本気で言っとおとよ。私は本気やけん!真面目に答えて?」
私の真剣な顔に与志忠は鼻をかきながら答えた。
「出来とらん。それ以前に作ろうとも思っちょらんよ」
「本当に?」
「本当や」
…どうしようこのまま言っちゃおうかな?好きだって…
「ねっねぇ…」
「だって今はサッカーの方に夢中やけんね」
の言葉を遮って言う彼の姿には静かに落胆した。
あまりにも強い言葉だった。
「そ、そう」
「で…?」
「…何?」
「今なんか言いかけてたやん」
「あっ、ううん。何でもない…」
今更言えるわけがない。
心の中で波打つ波紋を抑えながらは与志忠に背を向けた。
「じゃあ好きな人は…おると?」
「…おるよ」
「え?おるん…?その人に告白とかしないの?」
さっきみたいに面と向かってない分、言葉はスムーズに出てくる。
「ん〜できん」
「なんで?与志忠なら大丈夫やろ」
半ば突っ張ったような口調になっていく。
「そいつ他のやつが好きみたいなんや」
「なんで分かると?」
「その子、よう窓からグラウンド見とるんよ」
「…へえ」
「多分俺のこと見てなかと」
「でも告白してみたら変わるかもしれんやん?」
心とは裏腹に思ってもないような言葉が次から次へと出てくる。
「…その子とはずっと一緒にいる分、それで気まずくなったりしたらイヤやしね」
「ずっと…一緒?」
「幼馴染の子なんやけど中学に入ってからは話さんようになったしな。これ以上話さなくなるのも辛いやろ」
「そ…それって」
その続きが気になりは思わず振り返ってしまった。
すると彼は、
「俺はのことが好きやけど」
と、真剣な顔をして言った。
「ほんと…に?でもさっき彼女は作らんって」
「あぁ、お前以外の彼女は別にいらんと」
「本当に…私でいいの?」
「がええんよ」
彼がそう言うと、私は涙を浮かべながら与志忠に抱きついた。
長い時間を遠回りしながら結ばれた私たちを月夜は優しく照らし出していた。