「そうそう。なんでちゃんは一人ではぐれてたの?」
歩き始めて数分たったころ、結人はに問いかけた。
「あっえっとね、何か…急に声が聞こえてきたの」
「声?」
「そう。私を見つけてって」
「今は聞こえないの?」
「そういえば…」
そういえばさっきから聞こえてこない。







―キィン!






あっまただ…来る!



私を見つけて…大聖堂に…来て



「…大聖堂?」
頭を抑えながら今言われた言葉を呟く。
「大聖堂?」
「大聖堂って確か神殿の一番奥にあるところだね」
英士は冷静に場所を把握し始める。
「じゃあ行ってみるか!ここにずっといるわけにもいかないし」
結人は大聖堂の方を指差すと先頭切って歩き始めた。
「一馬、俺は前の方を見張るから一馬は後ろを頼むぞ」
「分かってるよ英士!」
「そういえば…三人とも職業は何なの?」
無意識には一馬に問いかけた。
「えっ?おっ俺?」
「三人って言ってるでしょ」
「わっわわ分かってるよ…!/////」
明らかに分かってませんでしたというような一馬の顔。
「俺はね、魔道士だよ!この杖をかざすと『どーん!』みたいな、ね!」
結人は右手に掴んでいた杖を振りかざしていった。
「俺は侍だよ」
腰に挿していた刀を指差しながら英士は微笑む。
「おっ俺は!」
「まぁ一馬は見たとおり戦士だよ」
「えっ英士!何で言うんだよ!」
ってオイ!前見てみろよ!モンスターだぜ!」
結人の言葉に一斉に皆は前の方を見た。
するとそこには、
「コイツは…『ガーゴイル』だ。確か悪魔系のモンスターだよな?」
結人の言葉どおり、目の前には悪魔系のモンスター。
色は紫色でへしゃげた翼が生えている。
牙の生えた口元からは濁色の唾液が滴り落ちていた。
「確か悪魔系には光系の魔法が効くんだったよな」
結人はそう言いながら杖を振りかざし始めた。



「…光魔法!オーシャン!」



彼がそう叫んだ瞬間、杖の先端からは聖なる光がこぼれ始めた。
「いっけー!」
彼の言葉と共に光の玉がガーゴイルに向かって走っていく。
「グカァッ!」
ガーゴイルはその叫びとともに爪を振りかざした。
奴が振りかざした風の牙は光の玉と互角ほどの攻撃力を持っていたらしく、なかなか光の玉は敵へと届かない。
「足止めくらってるうちに英士やっちゃえ!」
「当たり前でしょ」
英士はそう言うと刀をスッと腰から抜き始めた。
スウッと小さく息を吸い始める。
そして次の瞬間、大きく目を見開いた。



斬鉄剣!!



刀をスイッスイッとガーゴイルめがけて振りかざす。
それと同時にガーゴイルの体は一気にバラバラになっていき、体液と思われる紫色の血が飛び散った



「キャッ!」
それは当たり前の如く、たちのほうにも飛んでくる。
「目ぇつぶってろ!」
一馬はそう叫ぶとを急いで抱きかかえた。



─ブシュッ!



ガーゴイルの血液が一馬の体に飛び散る。
の体には彼が体を張って守ってくれたため何の被害もなかった。








ちゃんっていい匂いしてるなぁ。
一馬は一人、幸せに浸っていた…




ん?なんだか冷たい悪寒を感じる。














「アンタ、U−14の真田だよね?に何やってんの?」
…聞き覚えのある声。
「つっ翼くん!?」
は真田を突き放して叫んだ。
「迷子になったと思ったら何抱きしめあってるのさ?」
笑顔なんだけど明らかに怒りマークの表情。
「ちげーよ!一馬はガーゴイルの血が飛び散らないようにちゃんの体を守ったんだよ!」
後ろから結人のフォローの声が飛び交う。
「そっそうだよ!いかがわしいことなんてしてねぇよ!」
「ふーん、それにしてはしっかりと抱きしめてたよね?」
「…(ギクッ)」
「まぁ翼、いいじゃねえか。も見つかったことだし」
「あっ黒川くん」
翼の後ろから、ヒョイッと顔を出したのは柾輝だった。
「で、たちは何処に行こうとしてたの?」
翼はグイッとの腕を引っ張り、一馬から離しながら問いかける。
「俺たちはちゃんが『大聖堂に…』って言うからついてきてただけだよ」
結人は英士と一馬から体を乗り出して答えた。
「大聖堂?」
「うん。さっきから頭に女の子の声が響いてるの。"私を見つけて"って」
「でもなんでにしか聞こえねぇんだ?」
柾輝はあくびをしながら独り言のように呟いた。
「分からない…けど何か気になって…」
私がそういった瞬間…また「キィン」と頭に響いた。



早く…来て…



その声は今までよりも悲壮感に溢れていた。
胸にまで浸透してきて、いつの間にか自分の目にも涙がたまっていた。
「…ちゃん?どうしたの?」
英士の言葉にはハッと意識を取り戻した。
「早く…大聖堂に行かなくちゃ…」
彼女の異様な様子に皆は息を呑み、彼らは一つの決意を固めた。
「じゃあ急ごうぜ!」
翼の声と共に皆は「おう!」と声をあげ、走り始めた。





















「多分この道を抜けたら大聖堂だよ」
英士は冷静に言葉をもらした。
私たちが通っている道は薄暗く、周りには人骨と見られるものが転がっていて不気味な雰囲気が漂っている。
電灯はかろうじてついてるって感じだし…
本当なら一刻も早くこの場所から立ち去りたいぐらい。
けどさっきの声が気になるから…だから逃げ出すわけにはいかない。
あの女の子は一体、私に何を言いたいんだろう?






「じゃあ開けるよ」
翼はそう言うと、その細い腕によくそんな力があるなぁ…と思うほど勢いよくドアを開けた。





─ギイッ






開かれた大聖堂には薄汚れた椅子が並べられていた。
バージンロードのように白く彩られた十字架までの道も、ホコリがかぶっているせいで台無し。






私を探して…



「…私を探して」
私は彼女が言うままに呟いた。
皆は私の言葉を聞くと「コクン」と静かに頷き、あたりを詮索し始めた。






「お〜い!出てこいよ〜!」
結人は誰に言うのでもなく叫びだす。
一馬と英士も壁をつっついたり椅子の下を覗いたりしていた。



ドカッと、勢いよくぶっきらぼうに置かれた空の箱を柾輝はポケットに手をつっこんだまま蹴り倒しながら探し始めた。
「ちょっと柾輝…もうちょっと丁寧に探せよ」
翼の言葉が飛び交う。
「俺にはどうもそういうのはダメらしくてな」
頬をかきながら柾輝は呟いた。






ねえ暗いよ。光が全然差し込まないの。それに狭い…



頭に直接響く声。
暗く手…狭い場所?
私は急いであたりを見渡した。
光が差し込まなくて…狭い場所。
それは…






「もしかして・・・」
はそう呟くと、白い絨毯の上をどんどん一人で歩き始めた。
?」
翼の声も耳に入らずに進んでいく。






もしかして・・・もしかして・・・






は小さな疑問を抱きながらそっと十字架に触れた。
「ねえ、もしかしてあなた…ここにいるの?」
私の問いに何の返答もなかったけれどきっとここだと私の中で確信した。
十字架は人が一人入るぐらいの箱。
は少し駆られる不安を抑えながら箱を開いた。
そこには…






「見つけた・・・」






…そこには、性別不明の亡骸が眠っていた。
かろうじて分かるのは頭蓋骨だけ。
その瞬間、また頭に『キィン』と響く声が聞こえてきた。






ありがとう…見つけてくれて…






暖かい声が心にまで浸透する。
「…ねえどうして…貴女はこんなところにいるの?」
はそう言い、彼女の頭蓋骨を持ち上げ、直視してみた。
彼女の額の中心には赤い宝石が埋め込まれていた。






見せてあげる…私の全てを…






彼女はそう言うと、私だけではなく大聖堂全体にこぼれるほどの光を浴びせた。