亮から話があるって聞いた瞬間、何となく嫌な予感はしてた。
いつもはニヤニヤしてる亮の顔に笑みがなくなっていたから











「昨日…出撃命令が出た」
「…え?」
一瞬、彼の言っていることがわからなくて私は目を見開いた。
「ウソ」
「本当」
風になびく黒髪がとても綺麗で、時が止まってしまったような…そんな気がした。
何を言っているのだろう…。
亮は何を言っているのだろう…?













「何言ってるの亮?冗談なら笑えないよ!今回ばかりは外したね〜」
はわざと笑みを振舞いながら亮の肩をポカポカと叩いた。
だが、彼は力強くの腕を掴み、呟いた。







ごめん…と。











謝ったことなんて一度もなかったくせに。
亮が私に謝るなんて一度もなかったくせに。
どんなに私を騙しても、どんなに私をからかっても。












私に謝ることなんて一度もなかったくせに…。
それなのに、彼は今…私の目を見て囁いた。





「うそだ」











彼の強い言葉に、思わず身が竦む。






「やだよ。亮が死ぬなんてやだよ?やだ…やだ…」
一点だけを見つけながら呆然と漏らす言葉。
彼はの口から発せられた言葉を、敢えて聞かないふりをしていた。







「俺だって嫌に決まってるだろーが……」
の視線に映らないように、チッと舌打ちをして、
彼は初めて私に弱音を吐いた。











「亮…?」
顔を伏せる彼に私は思わず問いかける。







そして、次の瞬間、
私は彼の腕の中にいた。








抱きしめる力があまりに優しくて、私の目からは無数の涙が零れ落ちる。








「もう…時間がねぇから言うけどよ、俺…ずっとのことが好きだった」
「…っ」
胸が痛い。
大好きな人からの告白がこんな形だなんて信じたくない。
「私も…私も好きだったよ…多分亮よりもずっと…」










─ずっと好きだった








幼馴染である前に
同級生である前に









彼は私の好きなヒトだったのだから。











「…バカかお前。俺のほうが絶対に長いね。お前を好きだった時間」
「…やめてよぉ」
「…?」
「やめてよ!もう死んじゃうくせに…もういなくなっちゃうのにそんなこと言わないでよ…」
ボロボロと涙を流して鼻を真っ赤にしながら。
それでも私は続けた。
自分の顔が今どんなに醜いだろうが構わない。
こんなことを言っても仕方がないのだと…分かっていても好きだったから…続けた。










「どうすればいいの?これから……亮がいなくちゃ私…」






この未消化な気持ち、どうすればいい…?








…」
抱きしめる力を強くするたびに私の胸が小さく揺れる。










「俺だって…辛いに決まってるだろーが…」
私の頭上には生暖かなものが落ちてきた。
私は見上げることなんて出来ない…
今まで彼の涙なんて見たことがなかった。









それでも伝わってくる…彼の肌の温もりが暖かくて…
血の通っている同じ人間の温かみを感じることができて…
私はまた涙を流す。
彼という人間がいた証をここで…確かめるように─






初めて交わした口付けは、とても塩辛かった。







それはどちらの涙の味だったのか。




そしてそれは今まで私たちが作り上げてきた関係の証だったのか。





























未だに分からない。













































60年後.....






「貴方は昔…第二次世界大戦で亡くなった人の来世ですね」
「って最近じゃん(笑)」
「ちょっと笑わないでよ!ちゃんと本を見て占ったんだから〜」
「ゴメンゴメン那美。だってさ…」




私たちが話してる途中、



二人の男が側を通り過ぎた。








「え…」
私は思わず振り返った。
何故かって言われても…分からない。
不思議だけど…目が追っていた。









「三上!今日は絶対に寮を抜け出すんじゃないぞ」
「へーへー、渋沢おばちゃんは怖いですこと」
「…(怒)」
「うわっ悪かったって」
そこには…黒髪で背の高い男と、茶色の髪の毛が印象的な二人組みの男が笑いあっていた。












「ねぇ…那美?あの人…」
「え?あぁ、あの人?うちの学校で有名な人達じゃん!サッカー部の渋沢先輩と三上先輩だよ」
「三上…?」
「そう。黒髪の方が三上、三上亮」















「…どうしたんだ三上?」
「…ん?いや、ちょっとな」
「なんだ…また女がらみなのか…?」
「そーじゃねぇって!ただ…俺の夢によく出てくる女に似た奴がいたなぁって思って…」
「夢って…確か戦時中の夢ってやつか?」
「あーそうそう。確か…名前は…っつってたかな?」





















二人の運命は今動き始めた。









思いは時を越えても必ず伝わるはずなのだと、



二人が気づくのはそう遠くない話。