TIME -あの日の君の声はもう僕に届かない-













今日は日曜日。
天気は快晴、デート日和。






「ねぇねぇ早く来てってば!早くしないと置いていくよ〜!」
「お前なんでそんなに体力があるんだよ(汗)」
「だってもったいないじゃん!今日で全部終わっちゃうんだから」








そう、



今日は地球が地球である最後の日。
一週間前のニュースのお姉さんが切羽詰った顔で難しい言葉を使いながら説明してた。
訳がわからなかった私は首を傾げてお父さんに聞くと、こういうことだと呆然としながら呟いた。



―大きな隕石が地球に落ちてくるらしい
─もう軌道修正ができないから地球の五分の四は滅びるから地球は終わりだ







接近し、衝突するまで残り十二時間。
政府とか科学者とか大富豪とかは全財産をつぎ込んでスペースシャトルで月まで避難するらしくって、
もう一昨日には宇宙に旅立ってしまった。
一般市民の私たちは何も出来ずにただ地球の終わりを待つだけ。









「苦しいね」
「当たり前だろ。死ぬんだし」
「そうだよね」





最後の日は翼といたい。
そう言った後、彼は目を点にさせたけど「いいよ」と言った。
最初で最後のデートはピクニックがいいなんて言い出したのは私から。
だって空があまりに綺麗だから、
だって景色があまりにステキだったから、
だって地球はいつもと同じように笑ってくれていたから、





だから、この場所を選んだ。









は少し息を切らせながら走ると、すぐ先に頂上があることを確認した。



「翼!もう少しで頂上だよ」
「やっと…ってか遠すぎだっての!」
「早く着いて横になろうよ!」
「人の話聞けよ(ピキッ)」



芝生が服についたって関係ない
少しぐらいチクチクしたって関係ない



だって最初で最後なんだから…









「到着!」



はゴロンと横になると、うつぶせて手足をバタバタさせた。
「お前って本当に子供じみてるよね」
「だって芝生で横になるなんて久しぶりだもん」
「まあね、僕はサッカーしてるからしょっちゅうだけどはこんな機会ないもんな」
「うん…ってか気持ちいいね」
「本当だな」



風がフワリと私たちを包んだ。



「私の誕生日…明日なんだけどなぁ」
私は空を見上げてそれとなく呟いた。




「…ん?」



彼のほうに顔を傾けて舞い降りたのは、優しく暖かな口付け。
まるで眠るお姫様を目覚めさせるかのような…



「いつも頑張ってる私にご褒美とか…?」
は少し顔を赤らめながら問い掛ける。
「バッカ。そんなわけないだろ。大体お前、ご褒美がもらえるぐらい役に立つことしてないじゃん」
「酷い…当たってるけどさ」
翼は私の言葉に優しく微笑むと、隣に横になった。
「本当にいい天気…」
「…うん」









今日で終わり
明日になったら何も残らない



全て真っ白になって、また何もかもが一からの出発になる。



怖くないっていったらウソになる。
だって自分が死んだ後どうなるのかって考えたら怖いもん。
でも、今は悩んでいるより好きな人の側にいたほうがずっといい。






「…翼」
「何?」
「このまま…時間が止まればいいのにね」
「…
「どうしたら…時間って止まってくれるのかな?」



先輩なら誉め言葉を、
政治家なら賄賂を、



世の中そんな風に、単純に循環していたはずなのに。



「どうして…こんなに上手くいかないのかなぁ」



側にいるのは愛しい人なのに、
こんなに近くにいるのに、
なのに…どうしてこんなに辛いんだろう。
どうして涙が…止まらないんだろう。






「翼ぁ…死にたく…ないよ」
…そんなの僕もに決まってるだろ」
「…分かってる」






いつだったか…サッカー部のメンバーと帰っているときに、一組の老夫婦とすれ違った。
二人とも穏やかな顔をしていて、おじいさんはちゃっかりおばあさんの左側を歩いてあげてて。
二人ともとても…とても幸せそうな顔をしていた。
だから思わず私はこんな事を呟いたんだ…





―私も…将来あんな夫婦になりたいなぁ…





なら逆に夫の左側を歩いてるって!」って笑い飛ばされたけど。
そんな日がやってこないなんてことは誰一人考えようともしていなかった。





「私…結婚願望強かったんだけどなぁ」
「誰とするつもりだったんだよ?」
「それは勿論翼でしょう」
「当然だね」
「…あれ?もしかして私をお嫁に貰ってくれる気だったの?」
みたいな頼りない奴は俺みたいなのが側にいないと生きていけないだろ」
「…うん」





地球のカウントダウン数時間前になったころ、小さな丘の上で一人の男と一人の女の影が重なった。



唇を離すと其処には愛しい人。





「翼」
「何?」
「なんかこんな感じの歌なかったっけ?」
「え?」
「あったよー…あ!あれだあれ!」
「あれって…(汗)なんだよそれ」
「えっとね…ここまできてるんだけど…」



二人で笑い会っている…瞬間だった、





――――ゴゴゴゴゴッッ





激しい地震と地鳴りが辺りに響きわたる。







「キャッ!」
「うわっ!」



二人とも体制を崩してその場に転げてしまった。



「え…??まだ…予定時刻じゃないよね??」
「…どうやら…早く到着したみたいだね」
「うそ…」



空を見上げると、そこは真っ暗な世界で、耳が割れるほどの大きなうめき声が全世界に響いていた。






「…翼、手、握っていい?」
「え?」



足元はグラグラしていて今にも地割れがおきそうだった。
自分の体を支えておくだけでも精一杯。



けれど、



「いいよ」



翼はの手をゆっくりと握り締めた。
どう足掻いても同じ運命ならば、少しでも一番大切な人の体温を側に感じておきたいから。






「私、幸せかも」
「なんでだよ」
「最期の日を…翼と一緒に過ごせるなんて」
「…バカ」



そう言ってても翼の顔はやさしい笑みを含んでいた。






「…あ!思い出した!」
「は?」
「だからさっきいってた歌!」
「ああ。どうでもいいよもうそんなこと」
「どうでもよくないよ!えっとね、歌手は…」





――
ピカッ





激しい雷が丘の近くに落ちた。
空は真昼間なのに暗かった。
午後三時七分。
それが、地球が地球と呼ばれなくなった最後の日。

















































ラララ♪









遠くで誰かが口ずさんでる…
一体…誰?
僕…死んだのかな?











こんな晴れた日は二人で丘に登ろう
港が見渡せる丘に
どんな空が思い浮かぶか教えておくれ
キスしたい気分さ



何もない午後の入り江を住く船をただ見つめていた



どうすれば時が戻る 今何処で何をしている
すべてを捨てたとしても 罪だけが増えていく



どうすれば時が過ぎる 言葉はいつも役に立たない
あの日の君の声は もう僕に届かない―――












曲を歌い終えると、一人の少女が僕の元に走ってきた。
それは、ついさっきまで側にいたはずの





『知らない?B’zのTIME≠チて曲だよ』
『知らない…っていうか歌詞全然合ってないし』
『えー…そうかな?私は合ってると思ったけど』
『具体的に言ってみろよ。どんなところが?』
『そうだなぁ…あ、最後の…』
『最後の?』



『あの日の君の声はもう僕に届かない…ってところかな?』



―…え?











緩やかな記憶はそこで途切れて、
彼女の笑顔がいつまでも記憶に残ったまま僕は星となった。
そして遠くから、黒く、くすんでいく地球を見守り続ける。



いつかが…地球で笑って、僕を呼んでくれる日まで。