あの合コンから一夜あけた。





「…いったぁ…」
頭がものすっごい痛い。
二日酔い、今までなったことなかったんだけどなぁ。
そうか。私昨日、人生で一番激しく飲みすぎたんだ…


「しかも真田君の前で」


なんていう汚点!!って前までの私なら思っただろう。
でもねぇ…
「彼の性格もわかったしおあいこだろうなー」
独り言をボソボソ呟きながらパジャマを脱ぎ捨てた。



…会社で私から話しかけたら、アイツどんな顔するのかな。


……




…うわっすごい楽しそう…
会社でもあんな感じで顔を真っ赤にしてくれたらすごい面白いんだけど…!!
「楽しみだなぁ(にやり)」
は今までにないぐらい嬉しそうな顔をした。















会社に入ると早速真田らしき後姿を発見した。
首を回しながら歩いている。
昨日の酔いがまだ残ってんのかな。



「…」
少しだけ息を吸い込んで。
ちょっと早歩きで彼の元へ向かった。


コホンと小さく咳払い。
「おはようございまーす」
少し高めの声を出して、真田の肩に手をポンッと乗せて人差し指を立てる。
「え…」
振り向いた瞬間、私の人差し指が真田の頬に刺さった。



…プッ!!
「…な、なん、な…(真っ赤)」
「なんて予想通りの反応をする人なの!真田最高だわ、あんた」
さ…!や、やめろよ!」
「ごめんごめん。反応が見たくてしょうがなくて」
「…って、本性これ?」
「本性これって?」
「だから、そういうこと、すること…」
「ああ。うん(爽)」
ていってもこんなこともうやる年齢じゃないけどねー。
そう付け加えると、真田は怪訝そうな顔をした。
昨日のこの時間までならすごいムカついてたよ、その顔(フッ
「本当、仮面かぶりうますぎなんだよ」
彼は大きなため息をついた。
「そう?真田には負けるよ。あんたがそんなにピュアボーイとは誰も知ら…」
「わ、わっわ…!」
あわてて私の口を押さえる。
「アンタのあわてっぷり、本当いいよねー」
「そこ、笑うとこじゃねーよ!」
真田もそういいながら少し顔を歪ませて笑った。










さん、これコピー10部ずつとってきて」
「あ、はい」
男の上司に言われ、返事をする。
「…」
なんかすごい見てきてるんですけど…
さん、今日いいことあった?」
「…え?」
「いつもより笑顔がいいよ」
「そ、そうですか??」
いつもより笑顔がいいって…
私の普段の笑顔はどうなんだろうって思っちゃったけどさ(怒
でも。そっか。笑顔がいいって。
「…悪い気はしない…かも」
少しだけ口元に笑みを浮かべ、軽やかなステップで歩き始める。
曲がり角に差し掛かった瞬間。


─ドンッ


誰かとぶつかってしまった。
同時に散らばる数枚の資料原稿。



「すみません!」
顔を見ずにしゃがんで原稿を集めようとすると。
「ああ、こちらこそ」
そういって彼もしゃがんだ。
…。今の声、そしてなまり。
めちゃくちゃ聞いたことがあるんですけど。
ていうか。雰囲気ですぐに分かった。


ヨシさんだ…




「…」
なるべく下を向いて、顔を上げないように心がける。
今日は運良く髪の毛も下ろしてるし、もしかしたら気づいてないかもしれない。




「久しぶりやな」
そんなわけもなく。
口を開いたのはヨシさんだった。
「あ、ひ、久しぶりです」
「元気にしとったか?」
「元気にしてたってまだ一週間ぐらいしか…」


  パッと…、思わず顔を上げてしまった。


なんだかすごく久しぶりに彼を見た気がする。
胸がドキドキする。



「元気、でした…」
もう一度俯いて、ヨシさんが持っていた原稿を、引っ張って受け取る。
「じゃあ、仕事あるんで」
私は立ち上がると、まだしゃがんでいるヨシさんを無視して印刷室まで走り去った。






心臓が激しく脈を打つ。
全身にハリが刺さったようにちくちくする。


「はぁああ〜…」
コピー機に体を預けながら、何度もため息を吐いた。
別れたのに引きずりすぎだよね、私。
だってまだ好きだもん。
一方的な別れだったし、仕方ないけど。



─ガチャ



「…ん」
ドアを開けて入ってきたのは真田だった。
しかも印刷室には今私しかいない。
グッドタイミングだよ、真田クン。
そしてなぜか私の顔を見て急に挙動不審になる。
「そんな、とって食ったりはしないから怯えないで、ね、ぼうや」
「ぼうやってなんだよ…(汗)てか…今、、」
「ああ。ヨシ…城光さんに会った?」
「…あぁ」
「やっぱりカッコイイよね。やだな、引きずってるのって」
「そんな別れてまだ時間たってねーし、仕方ねーだろ?」
「うん、ありがとう…」
「…か?」
「は?なに?」
「だから、今日、メシ食いにいくか?って」
「…あら。デートのお誘いですか?」
「ち、違う!俺はただ、お前が落ち込んでるから」
「…ですよねー。そんなのわかってるよー(ケラケラ)」
「…!!(ハメられた)」
「うん。食べにいきたい。それに明日は土曜で仕事も休みだし、うん」
「だな。付き合うから」
「ありがとう。じゃあ今日は居酒屋ハシゴコースで」
「…いや、一つでいいんじゃ」
「付き合うんでしょ、私に(ニッコリ)」
「…あぁ(涙)」



というわけで。
二日続けて飲みだぜイェーイ★
しかも今日は真田と二人。
昨日の今日のくせに、うちらよくやるよ、ホント(笑)




「よし、今日は飲んで飲んでどっちが吐くかレースで!」
「ちょっと待て!なんだそれ!!」
真田が本気で青白い顔をしてる。
「ウソだよ。冗談通じない奴ー」
「…ほんと、、お前たいした奴だな…」
「あはは!そうかな!」
「褒めてねーよ(ゲッソリ)」



というわけで、二人で乾杯。
真田の奴最初からアプリコットサワーだよ。



「昨日ビール飲んでたのは無理してたの?」
「…まー、うん。苦いから苦手なんだよ」
「可愛いのね、真田君ったら」
「なにキャラだよ…」



んなことを話しながら食べ飲みしていたらいつの間にか時間は11時半を廻っていた。
「結構な時間になってきたけど、は帰り何で帰るんだよ?」
「え。電車」
「電車って、ちょっと待て、終電は!?」
「そろそろなくなるねー。あー、おかわりください」
「おかわりじゃねぇって!!ちょ、帰るぞ」
「いやだ!」
「いやだって…」
「そうだ、明日休みだし、真田の家に泊まろう!」
「…な、な、なにいってんだ!!」
「アハハハー真田顔赤い!トマト、いや、リンゴー」
「意味わかんねぇ…」
真田の心中は後悔に溢れていた。












そんなこんなで午前1時半。
もう電車なんて当然ない。
どうしようって状態になった二人に残された道は。


「…、頼むから自分の限度を知りつつ飲めって…!」
「足がふらふらするよ…」
の肩を抱きかかえながら真田が軸になって歩く。
「次どこいく〜?」
「…俺の家」
「え?」
「…変な意味じゃなくて!つーか、ほら、もう終電ねーし」
「…そ、そうだよね、ご、ごめん!」
「…ああ」
「う、うん…」



なんか。妙な沈黙というか。
変な空気じゃありませんか?(汗)








――パチッ



部屋の電気をつけると、真田は私をベッドに座らせた。
「ちょい布団とってくる。あ、そのベッド使っていいからな」
ネクタイを緩めながら上着を脱いで彼は部屋の向こうに去っていった。
「…」
だんだん正気になってくる自分。


ん?んん!?
つーか、なにしてんの私…(汗)
いくらなんでも非常識すぎますよね??誰か答えて!!(涙)



ていうか。
やっぱり男の人の部屋って似たようなもんなのかな。
ヨシさんの部屋と少し似てるつくりに、物を置かないこざっぱりとした部屋。




初めて結ばれたのはヨシさんの部屋だった。
なんだろう。酔ってるからだろうか。
ヨシさんとの事をどんどん思い出してしまう。
まさか欲求不満とか?それ余計笑えない、わ…




「…あ」
声が聞こえ顔を上げると、もうネクタイも外してYシャツにズボンのラフな格好な真田が何かを持って立っていた。
「その格好じゃ寝苦しいかもしれないし、ほら」
ゆっくり投げつけてきたものは、Tシャツとハーフパンツ。
「それならも履けると思う」
「ね、真田」
「ん?なんだよ?もしかして吐く気か…?(汗)」
「…しよっか」
「…え?……は!??」




なんだろう。ヨシさんを好きな気持ちがどんどん溢れてきてて。
今にもこぼれてしまいそうだ。
誰でもいい。誰でもいいから、誰か、私に構って。
あの人のことなんて考える余裕もなくなるぐらい。




「真田にとっても嫌な話じゃないと思うけど」




シーツとギュッと握り締めたまま、平然を装いささやく。
チラリと目線を彼に向けると。
彼はゆっくりと私の目を見つめた。
さっきまでの真っ赤な顔ではなかった。



「…そんなことできねーよ」
「…え?」
「城光さんのこと、まだ好きなんだろ?」
「…」
「なのに抱けるかよ」
「…しょうがないじゃん。だって…もう、あの人は私のとこには来てくれないんだし」
「…自分を傷つけるようなこと、やめろって」
「…っ!」
「俺は、そんな気持ちでを家に入れたわけじゃない」
初めて見る真面目な顔で、彼は言った。
「お前飲みすぎたんだよ。俺は…食べに行ったり飲みにいったりは付き合えるけど、そこまでは無理だ」
「ですよね。真田、好きでもない女とヤルのは嫌だよね」
「そういう意味じゃねーって…それは、お前が本当に望んでることじゃないっていうのはわかるから」
「…真田…」
「とにかく今日はもう寝ろ…。俺、リビングで寝るから…」
彼はそういうと、「オヤスミ」と小さく呟いて、ドアを閉めてしまった。



「…」
静まりかえった部屋。
一人になると頭の中が冴えてくるもので。
自分が言った言葉に後悔をたくさんした。



そして。



「真田、なんであんなに優しいのよぉ…」
思わず涙が一粒こぼれた。
彼の優しさが胸に染みて、それが傷口を締め付けた気がした。