「姫様!あれほど砂漠内を歩き回ってはならないと言ったではないですか!!」
城に入った早々、年老いた軍曹が怒鳴り始めた。
「悪かったわ。下がりなさいトシリ…」
「姫様!!??」
軍曹が言った姫様って!?ちょっと待って…イリアってもしかして…
「イリア…貴方は一体…さっきは住民って言ってたよね?」
「ええ。住民ですよ…ヴェラーニ帝国の国王『フラセイ』の娘ではありますが…」
「それって…やっぱりお姫様ってことだよね?」
「…黙ってて悪かったわ」
申し訳なさそうな顔をするイリアに思わず私の方が「あっゴメンなさい」と謝ってしまった。
それにしても…なんでだろ?
翼君ったらさっきから一言も口を聞いてない。
それにこのお城なんだか静かだなぁ。






「…ん?姫様?後ろの方々は?」
トシリは睨みつけるようにと翼を凝視した。
「この方たちとは先ほど砂漠で出会ったのです。
メンバーの一人の方が熱射病にかかってしまわれたので城で安静にしてもらうように頼んだのですよ。ご無礼がないように」
「ハッそうでありましたか。かしこまりました!」
何だかイリアってスゴイ人のような気がするんだけど。
だってあんなに怖そうな軍曹さんが、すっごく低姿勢なんだもん。






「こちらですよ。着いて来てくださいね」
「あっはい」
私たちはイリアに連れて行かれるまま、大広間をくぐり彼女の部屋と思われる大きな部屋に案内された。



















「これで大丈夫よ」
柾輝をベッドに移したイリアは満足そうに言葉を漏らした。
「…すみません。迷惑かけちゃって…」
「いいのよ。それに退屈してたところだし…」
「退屈??」






「…あのさ、突然なんだけど聞きたいことあるんだよね。いい?」
今まで黙っていた翼が突然口を開いた。
「何ですか?私が答えられることでしたら…」
「じゃあ聞くよ。なんでこの城には子供がいないの?」
「…!!」
急に顔色を変えたイリアを、翼が見逃すはずがない。
「それは…」
「さっきからさ、ずっと気になってたんだよ」
「…」
顔が曇り始めるイリアとは逆に、不敵な笑みを浮かべる翼。
「…気づいて…いらしたのですね」
「そりゃあね。気づくよ。とは違うから」
「え!?」
って翼君…何気に酷いよね?それ。
「生贄…として…行ってしまったから」
「生贄?」
「そう…です」
「ふーん。あのさ、柾輝が目を覚ますまでまだ時間もかかると思うから、これも何かの縁だと思って話してよ」
ニッコリと笑みを浮かべる翼の姿を見たは、『この笑顔に勝てる人はいない』と思っていた。
イリアは少し考えたあと、決意を固めたような表情に変わった。
「それでは…お教えしましょう。子供たちが生贄にされた理由を…」
ゴクッと生唾を飲む。
「…その前に、喉は渇いていませんか?ここには水ぐらいしかありませんが…」
「あっ!私欲しいです」
「僕もね」
喉がカラカラだった為に私たちは遠慮なく申し出た。
こんな大事な話の時も喉が渇くなんて、ちょっと不謹慎かもしれないけどさ。








私たちが水を飲んで一息ついたとき、イリアは口を開いた。
「先ほども言いましたが、この国は…戦力に乏しく、世界からも見放された国です。
そんな私たちが生きていくための必要な食べ物や水…それらを砂漠であるにも関わらず与えてくださったのが、太陽神『アッラー』です」
「太陽神?」
「そうです。今は出ていませんが、この地帯には二つの太陽が昇るのです」
「二つの…太陽?」
何も言わずにイリアは頷いた。
その姿にウソは一つも無い。
信じられないけれど、きっとこれは本当のことなんだ。
「一つの太陽は、太陽神『アッラー』の司るものです。その太陽は不思議な力を持っていて、
城が敵から逃れるために昼間は城ごと移動が出来るようになっています。
そしてアッラーの力はそれだけではなく、作物や水…自然の恵みを与えてくださいました」
「移動する…ね。そりゃあ地図にも載らないわけだ。いつも移動してるんじゃあね」
「でも…移動…してませんよね?今は」
「………」
私の言葉にイリアは黙りこくってしまった。
もしかして…言ったらタブーだったのかな、今の言葉…
「急にアッラーはお変わりになりました。何かにとりつかれたように…ある夜、アッラーの声が城中に聞こえてきたのです」
「アッラーの声?」
「そうです。『帝国の娘一人を差し出さなければもう太陽が昇ることはないだろう。
だが、それを拒むのならば四十人の子供を一人ずつ生贄にせよ』…と」
「ふーん。それで子供がいないんだ。けど、もう子供は一人もいないはずだよね?なんで太陽は一つしか昇ってないんだよ?」
翼は彼女の言葉に何も反応せず、言葉を返す。
「ごめんなさい…」
「…え?」
いきなり涙を流し、懺悔するイリアの姿に思わず首を傾げる。
「ごめん…なさい…ご…めん……なさい」
途切れ途切れに言葉を繰り返す。












…あれ?
目が霞む。
どうしてだろう…?
目の前にいるイリアの姿が…どんどん…遠くなって…