「はぁ??アンタ方が行きたいのは『グラッセ』だろう??」
「違うってば。僕らが行きたいのは『ズラッセ』!」
「…参ったなぁ。この船は北西にある町『グラッセ』に向かってるんだぞ。今更方向転換をしてくれといわれても困るな」
「困るって言われてもこっちだって困るんだよ。あんた船長だろ?もうちょっと知恵とか働かないわけ?」
翼のマシンガントークと髭が立派な船長の言い合いはかれこれ十数分も続いている。
はそんな二人をあたふたしながら見つめることしかできなかった。





「くっ黒川くん…どうしよう」
「翼があーなったら止められる奴はいねーだろ」
と、一言呟いた後、柾輝は無責任にも長いすにゴロンと横になってしまった。
「黒川くん〜(涙)」
「ほっとけほっとけ」








「あーうるせぇガキだな!じゃあ代金はいらねぇから此処で下りてもらおうか!
この大陸を東の方角に進めばお前の行きたがってる『ズラッセ』は見えるからな!」
「それはこっちの台詞だね!、柾輝!とっとと下りるよ!こんなボロ船からはね!」
「クックソガキ〜〜〜!!!」





真っ赤になって怒る船長をよそに私たちは船を下りた。
「翼君…本当に大丈夫なのかなぁ」
「なに?僕を信用してないわけ?」
「いや、そういうわけじゃないけど…ただ」
「ただ?」
「ここから東って言ったら…ここを渡らなくちゃならないんだよね…?」
の言葉に翼と柾輝は同時に東の方向を向いた。
「…ゲッ…」
柾輝の落胆の言葉が漏れる。
それもそのはずたちの目の前に広がったのは…





「おい翼…確か"砂漠"エリアって普通よりも強いモンスターが出るんだよな?」
「ま、ね…」
あの翼の表情が蒼白していた。






このゲームで一番通りたくない場所。
それは"砂漠"エリア。
砂漠エリアはとにかくモンスターが桁外れに強い。
ただでさえ素人メンバーなのに…
が悩んでいるのにも構わず、翼は『まぁ進んでみようか』と軽く言い流し、砂漠に足を踏み入れた。
それに続いて柾輝も進み始める。
「ちっ…ちょっと待って〜!!」
そんな二人に取り残されないようには必死に二人の後に着いていった。
内心、『チャレンジャー過ぎるよ二人とも…』と思いながら。










「あちぃ…!」
柾輝の今にも倒れこんでしまいそうなほど弱弱しい声が三人の中に響く。
でも柾輝の気持ちも分かる。本当に…暑い(汗)
さすが砂漠地帯。なんか歩いてるだけで肌が焦げちゃいそうだよ。
「…翼、水…残ってるか?」
「だだでさえ港で買出しをしてなかったんだから、あるわけないだろ」
怒り気味な翼だがいつものような覇気はない。
ジリジリと太陽の熱が私たちの体力を奪っていく。
後ろの方を見ても砂漠だらけ。
だいぶ進んだって言えば聞こえはいいけど…
実際目の前も砂漠が広がる一方で、一向に先が見えない。
まぁ、敵が出現してないのが唯一の救いなのかもしれ…
!前
「…え!?」







シュン!と、体をくねらせて私の前に出現したのは、
「サッサソリ!?」
「そんな生易しいもんじゃねぇよ!コイツはデスシンガー」
「デス…シンガー??」
私を狙って目の前に現われたモンスターは、見た目はサソリそっくりの生き物。
「柾輝、戦闘準備!」
「チッ分かってる!」
翼は腰に隠したナイフを素早く準備し始める。
柾輝もまた拳を前に突き出し戦闘準備の構えに入った。
「えっと…」
私はそんな二人の後ろについて一生懸命"冒険初心者の為のモンスターズブック"(定価150G)を開き、
デスシンガーについて調べ始める。






デスシンガー、デスシンガー……あっあった!
「デスシンガー。属性はサソリ部類…弱点は…」
「なんだよコイツ!チョコマカ動きすぎなんだよ!!」
、早く弱点を教えろ!」
「うっうん。じ、弱点は…物理攻撃のみだって!それと尻尾の先端には死にいたる毒が仕込まれてるって書いてある!」
「うっわ…毒かよ…やりづれぇ」
柾輝は少し引き気味に笑った。
それとは逆に翼の顔には笑みが戻り始める。
「僕だってとりあえず盗賊やってるんだからね。僕のナイフをよけられるモンスターってそんなにいないんじゃないの?」
と、二本のナイフを両手に掴み始めた。
シャ―――!!
そんな挑発しているかのような翼の態度に、デスシンガーは怒りをあらわにして翼に向かって攻撃を仕掛けてくる。
猛突進してくるデスシンガーに対し、まだナイフを投げない翼。



翼君!?



ナイフを投げない翼の態度に驚いたは思わず叫んでしまった。
「そこだ!」
ヒュッと勢いよくデスシンガーめがけてナイフを投げる。



─ドスッ!



見事ナイフはデスシンガーの中核を捉えた。









「すごい…翼君」
「当然に決まってるだろ。ほら先に進もうぜ柾…」
翼は少し赤くなった顔をから背け、柾輝の方を見ようとした…が、
柾輝!?
彼の異常な叫び声に、は慌てて柾輝の方を向いた。
「くっ黒川くん!どうしたの!?しっかりして!」
目の前には眉間にシワを寄せながら倒れている柾輝の姿。
「もしかして…毒に?」
今にも泣き出しそうなの声に、翼は素早く柾輝の体に触れた。
「柾輝!しっかりしろよ!」
急いで彼の体を抱き起こす。
が、何度名前を呼んでも彼は反応しない。
「クソッ…!」
いつもは強気の翼の顔に、焦りが見え始める。






「どうかされたのですか?」






「「……え?」」
私と翼君は目を見開いたまま声がした方に顔を向けた。
声の先には…キラキラした銀色の髪の毛に肌は色黒の少女が立っていた。
彼女の目、何だか吸い込まれそうなほどキレイ。
なんだかキレイすぎて思わず見入っちゃった。






「…あの?」






困ったように彼女は首をかしげた。
「…黒…いや、仲間が倒れちゃって…さっきまでデスシンガーと戦ってたから…もしかして毒に侵されたんじゃ…」
「まぁ!デスシンガーですって!?」
彼女は私の言葉を聞くと、素早く柾輝の腕や足を触り始めた。
「…いえ、きっと毒ではないと思います。腫れているところがありませんし…多分…熱射病じゃないかしら」
ねっ熱射病??
たかが熱射病(汗)
「ったくたかが熱射病くらいで倒れるなんて人騒がせなやつ」
翼は呆れたように言葉を吐く。けど、少しだけ安心しているように感じたのは私だけかな?
「で?」
「え?」
「アンタは一体誰?」
つっけんどんした翼の問いかけにも、少女は迷いもなく言葉を返した。
「私はイリア。砂漠の帝国『ヴェラーニ』の住民です」
「『ヴェラーニ』?」
「そう。すぐ…そこに見えるでしょう?」
彼女が指差す先には高く聳え立つ、まさに帝国が建っていた。
「こんなところに城があったなんて知らなかった…」
私の言葉に翼も頷き、
「ってかこんなところに城なんてなかったと思うけど」
と、地図を開き始めた。





「クスクス」
「…何がおかしいのさ」
「貴方たちは知らないのですね。『ヴェラーニ』は国家的な権利を手放した国です。
今は止まっていますが、普段は太陽神『アッラー』の力を借りて移動を繰り返しているのですよ」
「「……は?」」
「あっ話が過ぎましたね。あの、彼を城で休ませてもよろしいでしょうか?」
ニコッとイリアは微笑んだ。
その笑顔には裏なんて考えられないほど綺麗なものだったので私と翼君は素直に頷いてしまった。