... ~今の二人 これからの二人~














私は自分が思っているよりも心に仮面をかぶるのが上手らしい。
だから大好きな彼と親友の冬ちゃんが付き合い始めて二ヶ月が経っても誰にも私がシゲのことが好きなのだと、バレることはなかった。










変わったことといえば



私とシゲはあまり話さなくなったこと。
帰り道、冬ちゃんと帰らなくなったこと。(彼女はシゲと帰るから)



残されたのは私一人だけ。







「…」
日曜日。一人、は街中の人ごみの中にいた。
今日は珍しく冬ちゃんと二人でお出かけ。
彼女がシゲと付き合い始めてから二人で出かけるのは初めてのことだった。



「…遅いなぁ」



待ち合わせ時間が刻々と過ぎていく。
けれど一向に現われない冬ちゃん。



…どうしたんだろう?
さすがの私も不安になってくる。
そう思っていた時。



「よぉ
「…え?」



振り返ると、そこにはシゲが立っていた。



「どっどうしたのシゲ!?」
「どうしたもなにも、お前携帯家に忘れたやろ?」
「え?」



急いでバッグの中を探り始める。


…あれ?


朝は入れたはずなんだけど…なぁ(汗)



「う、うん。忘れたみたい…」
「せやろ?」
「で…なんでシゲが来るのよ…?」
「あ、それ言うの忘れてたな」
「うん」
「冬留な、急に風邪ひいてもうたんや」
「え!?かっ風邪!?」
「そや。そしたら冬留から電話あってに伝えて欲しいって言われて来たんやで」
「そっか…伝言ありがとう」
「どういたしましてってか?」



ニカッと笑う。



…あ、そういえば…



シゲとこうやって話すの久しぶりだなぁ…



少し胸がドキッと音を立てた気がした。



「そっかぁ…」
「そうや」
「…」
「…」
「…シゲ?帰らないの?」
「そやな。せっかく此処まで来たんやし、二人で遊ばへん」
「…え?」
「別にやましいことなんてあらへんのやし」
「…そう…だよね」



別にやましいことなんてないんだし。
確かにシゲの言うとおりだと思った。



「ほな、行こか」
「あっうん」



スッと出された手に思わず戸惑ったけれど、"まぁいいかな"なんて思った私はゆっくりと握り返した。



「…最近なんか部活に燃えてるらしいね」
「は?誰がそんなん言っ…」
「風祭君」
「ポチか…」
「風祭君が言ってたよ。シゲさんはサッカーの才能があるって」
「さよかー…」
「もしかして照れてる?」
「そんなわけあるかい(焦)…ただな、なんでカザはそんなに純粋に人を誉められるんかなーって思ってな」
「あー確かに…。あ!そういえば、なんか冬ちゃんと似てる気がする」
「そやな。確かに同じ系統かもしれんな」
「だよね」
「…」
急にシゲは黙り込んでこっちを見つめてきた。
「どうしたの?」
「こんな風にと話すん久しぶりやなーって思ってな」
「…私もさっき思った」
「最近避けてるやろ」
「え?」
「何で避けるんや?」
「…避けてないよ」
「じゃあなんやねん?」
「だって…シゲはもう…」






冬ちゃんの彼氏だから。



私がそう言うと、またシゲは黙り込んだ。



「…私…」
「なんや?」



押しつぶされそうな人ごみに紛れながら言葉を必死に発しようとする。



「シゲのことが…ずっと好きだったんだ」
「…は?」
「でもシゲは冬ちゃんのことを選んだから…」
「何言ってんねん!」
シゲの強い言葉に、周囲の人々は少しこちらを横目で見てきた。
「俺はずっとのことが好きで…」
「…え?」
「でもがあいつのこと泣かせたら許さへんって言ったやろ?せやから…」
「…!?」














あるところに



女の子がいました。
男の子がいました。
女の子は男の子のことを想い。
男の子は女の子のことを想っていました。











ただ、それだけだったのに―







壊してしまったのは全て自分―









「バカみたい…私」
…」
「…私は…私はずっと…ずっとシゲに片思いししてたんだよ!」
「俺は今でも…が好きやで」
「今さら…何言ってんのよ…」



今さら何を言っても遅いでしょ?
だってもうシゲは冬ちゃんと付き合ってるのに。
それでも、それでも…心の奥で。



「シゲを諦めたくない」



今にも零れそうな涙を溜めながらは言葉を漏らした。



「でも…冬ちゃんを裏切るわけにはいかない」



いつも私を支えてくれた大切な子だから。
一番幸せになってほしいと願っていた子だから。



「それでも…シゲが好き」
「…なぁ
「…?」
「俺と危険な恋愛せぇへん?」
「…え?」
「お前が俺と冬留が別れてほしくないっちゅうんなら俺は冬留と別れへん。
でも本当は俺の本命はお前や。せやから俺と付き合ってほしいねん」
「…シゲ。それがどんなに危ないか分かってるの?」
「俺もそこまで阿呆やないで」
「…知ってる」



ゆるく掴んでいた手を離してバッと手を広げる。
せかせかと歩く人々がそれを避けていく。



「俺と危ない恋愛しようや。
「…っ」



私は彼の胸に飛び込んだ。



もしもこの先が地獄でも。
それでも構わない。



ゲームオーバーは周囲の人一人でも知られたとき。
ラストエネミーは冬ちゃん。
それがどんなに危険な賭けかはわかってる。



それでも今はこの暖かい彼を放したくは無い。



。好きやで」
「…私も」



どんなに最低な人間でも、このぬくもりだけは事実。