もしも私の人生に唯一汚点があるというなら、きっと私はこう答える。
彼とあの子を会わせてしまったことだって。

















... ~始まりの話~

















始まりは今年の4月。
ちゃん!」
「あ、冬ちゃん」
私の元に駆け寄ってくる一人の女の子。
それは、私の親友『如月冬留』
「今日は珍しくうちのクラス、速く終わったんだよ〜」
「そうなんだー。良かったねー」
「うん」



愛くるしい笑顔が本当に可愛くって。
恋愛にも、友情にも、いつも素直に向き合ってる。
私と正反対の女の子。
そんな彼女はいつも私の憧れだった。




「そういえば、ちゃんのクラスはもう決まったの?」
「何が?」
「今日って委員会を決めたんじゃないの?」
「あー。委員会かぁ。私は風紀委員になったよ」
「風紀委員か〜。しっかりもののちゃんにはピッタリだね」
「そ、そうかな?」
「で、パートナーは誰なの??」
「パートナー?」
「相手の男の子だよ」
「あー。相手はシゲだよ」
「…シゲ?」
「あれ?知らない?」
「うん」
コックリと下に顔がうずまるほど頷いて。
こちらにゆっくりと視線を移す。
「だってシゲだよ。有名人じゃん」
校内で唯一の金髪にピアス。
それにサッカーまで上手いときたもんだ。
それで知らないはずが…(汗)
の言葉に、冬留は両手をブンブンと振りながら、
「だって私、クラスの男子の顔もあんまり覚えてないんだよー」
と、口を尖らせて反論した。
あー…そういえば冬ちゃんは昔から人を覚えるのが苦手なほうだったっけ。
「そっかー…」
「どんな人なの?かっこいいの?」
「うーん…かっこいい…かな?モテるし」
去年のバレンタインは水野君といい勝負だったっけ?
「そうなんだぁ…ちょっと見てみたいな」
「明日の放課後なら委員会があるから見れるかもよ。ついてくる?」
「え!いいの??」
「うん。構わないよ」



そんなことを言いながら帰り道の会話は続いていって。
近い家同士、私たちは手を振って別れる。
これがいつもの日常で、平和な日々。
けれど、そんなささやかな日常が壊れるなんて、このときは思いもしなかった。

















『ピンポンパーンポーン♪今から風紀委員会をはじめます。各クラスの風紀委員は…』







…そろそろ始まるなぁ。
そう思いながら、チラッとはシゲの方を見た。
窓際には風祭君に『今日は委員会で遅れるさかい適当に出るわー』と笑って言ってるシゲの姿。



トクン…



小さく鼓動が連動する。



窓から入る風で彼の髪の毛がサラサラと綺麗になびいていた。
なんだか宝石みたいに綺麗。





ちゃん!」
「…ぁわ!?」
突然後ろからポンッと肩を叩かれた私は思わず気の抜けた言葉を発してしまった。
「あ、冬ちゃんかー。びっくりさせないでよー」
「えへへ。ごめんごめん」
と、もう一度視線をシゲのほうに持っていく。
すると、彼もこちらに気づき、ゆっくりと私の方に向かってくる。
、そろそろ行こか〜」
「うん。そのほうがいいかも」
そして小さく冬留の耳に耳打ちする。



―これが例のシゲって奴だよっ



と。



「…」
「…?」
反応がない。
は首を傾げながら冬留の方を見てみた。
すると、彼女の目は大きく見開き、一人の男性を捕えている。
「冬…ちゃん?」
「…あ、ごっごめん!」
いきなり顔が真っ赤になったと思ったら、
「わっ私先に帰るね!」
と、言っていきなり廊下を走り始めた。



「なんやねん。あの子?」
「あ、私の親友」
「ほー。さよか」
「…可愛いでしょ」
「そうやなぁ。素直そうやし…でも俺はの方がタイプやで」
「ばっ変なこと言わないでよ!////」
「冗談やないって(にっこり)」
「もう!私先に行くからね!」
は可愛いなぁ〜v」
「馬鹿シゲ!」



私とシゲはいつもこんな感じで。
人から見れば『喧嘩するほど仲がいい』ってやつらしいけれど。
でもシゲのことを想ってる自分からすればちょっと嬉しいようで複雑な気分。



「でも珍しいね。授業もサボるような人が委員会に出るなんて」
「それはと一緒やからやで」
………なんでそんなこと冗談で言えるかなぁ
私はシゲに聞こえないように小さな声で囁いた。
「え?」
「イヤ、何でもない」
「なんやねん。それ」
「別になんでもないってば」
そんなことを言いながら教室に入ると、私たちは窓際の椅子に腰をおろした。
窓から二列目が私。
窓際はシゲ。
またさっきのようにシゲの髪の毛がサラサラと風になびく。
「…シゲって凄い髪の毛綺麗だよねぇ」
「え?」
「すごいキレー…」
は目を細めて微笑むと、シゲは窓の方を見つめた。
「…どしたの?シゲ」
「なんでもあらへん…」
あれ?なんか耳が赤い…
「もしかして柄にもなく照れてるの?」
「…あー。とおると調子が狂うわ〜」
「わっ!何それ」





─ガラッ





「それでは今から風紀委員会を…」



委員会が始まって、さっきまでずっと話してた私たちはしばしの沈黙。
それがなんか楽しくてウケた。



















そして、帰り道…







いつも通りの道に、誰かが立っていることに気がついて、私は少し目を凝らした。
電柱の横には冬ちゃんが立っていて。
何か今にも泣き出ししそうな顔をしてる。



「ど、どうしたの冬ちゃん」
「あ、あのね…」



少し力拳を握って、彼女が「すぅっ」と深く呼吸する。



「私…シゲって人のことが好きになったみたい」



「…え?」



一瞬。
目の前が真っ暗になった。



「一目惚れって…言うのかな?なんか…その…」
「…」



言葉にならない何かが喉の奥を押し込んでいて何もいえない。
そういえば彼女はあの時…
目を見開いてシゲのことを見てたっけ?



「お願い…!ちゃん協力して!」



冬ちゃんは何事にも前向きで
いつもそれに向かってまっすぐに伸びていく性格。



もちろん恋愛も…



「え?」



口元が引き攣る。



「お願い!私、話した事ないから…」



その瞬間、今まで築き上げてきたものが音を立てて崩れている気がした。