「あーあ…やっぱりダメかぁ…」
合格発表のボードの前で、は一人落胆の声を漏らしていた。
周りでは「キャーキャー」と受かったとか、ダメだったとか言う声が入り混じる三月半ば。
私は試験番号の書かれた紙をギュッと握り締めると、背を向け家路を急いだ。
ダメだろうってのは解ってた。
でも少しでも近づきたかった。
あんなヘタレのことなのに凄く切なかった。
「あーやっぱりダメだったの〜。まぁの頭じゃあ無理だったのよー!」
ケラケラとお母さんは笑いながら私の頭を叩いた。
「まぁ他の私立が受かってるんだし落ち込むことはないわよ」
「うん。分かってる」
近くにあるソファに背負っていたカバンを下ろすと、は無造作に座った。
「まぁ残念だけど、一馬君との縁もこれで終わっちゃったのねぇ」
「…うん」
一馬ってヘタレのくせに頭も良くてサッカーも上手い。
だから大学だって推薦ですぐに受かっちゃってさ。
私をどんどん追い越していった。
けど、少しでも近づきたくて。
少しでも一緒にいたくて同じ大学を受けてみたんだけどやっぱり無理だった。
「辛いだろうけど一馬君に報告しておきなさいよ〜。一馬君、アンタのことが気になって昨日の夜胃薬を飲んでたみたいだから」
冗談っぽくハハハと笑いながら。
お母さんは私にお茶を注いでくれた。
「うん。分かってる」
本当は言いたくなかった。
なんで好きな人に、今から貴方とは離れ離れです…だなんていわなくちゃならないんだろう。
「まっまぁ上がれよ」
いきなりやってきた私を一馬は自分の部屋へと案内してくれた。
何気に一馬の部屋に入るのは三年ぶりなんですけど…ι
まぁヘタレだ。
何もしないに違いない。
「…」
中に入った途端始まった沈黙を、最初に破ったのは私。
「…え?」
「だから落ちたの」
「…マジで?」
「ギャグでこんなことがいえると思うの?(冷)」
「いや、そういうわけじゃなくて…」
「残念だけど、アンタとの縁もここまでね」
強がって笑って見せた。
「…そうなのか」
「やめてよ。そんな顔しないでよ…」
私のこと、ただの幼なじみにしか思ってないくせに。
「…あっそういえば、いつ頃出発するの?」
「え?あぁ…多分あと二週間ちょっとしたら…」
「そっか…」
小さく頷き、一馬のベッドの上で体育座りをする。
「…なぁ」
「…何?」
一馬は真っ赤なままうつむいていた。
「…あっあのさ…」
「…何?」
「キス…したい」
「…え?」
彼は私の返答を待たずにグッと私を抱き寄せて。
そして小さなキスをした。
一馬の手は震えてた。
まるで小さな子猫のように。
そんな一馬が好きだった。
そんな…頼りにならない一馬がなぜか無性に好きだった。
「…」
「…」
「なんでキスしたの?」
「…わからねぇ…」
「わからないって…ιまぁいいけど……私初めてだったんだよね」
「…っ」
一馬…顔がゆでタコみたいに真っ赤だよ。
「俺もはっ初めてだった!///」
「うん。知ってる」
その反応を見ればなぁ。
「かじゅま…私のこと好きなの?」
「…えっ??」
うわ…
目を泳がせて、手を上下に動かして。
挙動不審になってるよ(汗)
「今だから言うけどさー、私、かじゅまのこと好きだったよ…つーか、今も好き」
「…え?」
「もう離れちゃうから今さらなんだけどね」
…一馬?
凄くびっくりしてるんですけど…
そんなに意外か?
そんなに意外だったのか?
私の告白は…ι
「離れるって言っても…新幹線で一時間ちょいの距離だろ…」
「…うん」
「そんなの離れたうちに入らねぇよ…」
一馬はの視線を外しながら答えた。
「なんかそれ…私のことを好きって言ってるみたいだよ」
「…!?」
顔を真っ赤にさせながら驚く一馬。
「あーいや、ごめんごめん」
もういいよ一馬。
そんな反応、期待しちゃうから。
もう叶わない思いに振り回されたくない。
「俺は…」
「私そろそろ帰るね」
「俺は…」
「今日の夕飯は赤飯なんだよねぇ…いや、受かってないって話で…」
「!」
「…なに?急に大きな声出して…」
「俺はお前が…好き…なんだと思う」
「…は?」
「お前は多分…同じ大学に受かるって思ってたし…」
「滑ったよ」
「いや、そうじゃなくて…だから……」
「…」
「ずっと側にいるもんだと思ってたから…」
「やめてよ」
「…?」
「もう離れちゃうんだよ!?」
ねえ神様。
返して下さい。
私と一馬のすれ違いで過ごした十何年もの時間。
「今さらじゃない…そんなの…」
私の目には涙が溢れていた。
流したいわけじゃないのにボロボロと流れ落ちる。
「ぜ…絶対に浮気しねぇ!」
「……」
「それに…ヒマなときは絶対に戻ってくるから…だから」
「…戻ってこなくていいよ…」
「…え…」
「…そしたらサッカーの時間がなくなるじゃない。だから…だから私が会いに行く!」
「――えっ…?それって……」
「じゃあ私そろそろ本当に戻るね。お母さん待ってるから」
「ちょ…っ…!?それって…」
「さあね。自分で考えてみそ」
フッと笑って一馬の部屋を後にする。
ご機嫌な私と反対に、一馬は一人ずーっと固まってたとか…
これからも宜しくね、へたれ君?