「…さき!?マサキ!」
ん?誰すっげえ大きな声で俺を呼んでる奴
「もうさっきから呼んでるじゃん!なんで気づかないわけ?」
この口調は…翼か?
「悪かったよ。で、何の用だ?」
かったるそうに体を起こす。
「何?用事がなかったら呼んだらいけないの?」
「…はぁ?何だよお前」
柾輝は面倒くさそうに眠い目を開け始めた。
「うわっなんだお前!?」
意味不明な叫び声をあげた理由。
それは…
翼だと思っていた人が翼ではなかったということ。
口調がそっくりなもんだから柾輝は気づくことができなかったのだ。
「お前…誰だ?」
指をさしながら呟く。
俺の目の前にいる奴。
色が白くて目はとてつもなく大きい。
睫毛なんかお前マッチ棒が何本乗るんだよっていうぐらいだ。
まあ一言で言えば可愛い。
翼と同じ系統の可愛さだと思う。
あっやべ翼に行ったら殺されちまう。
「やだ!何言ってるの?私だよ!柾輝の彼女でしょ」
「はっはぁ!?」
俺の彼女だぁ!?
何言ってるんだコイツ?
「寝ぼけてるんじゃないの柾輝?授業中にいなくなったと思ったらまた屋上にいるしさ、何やってるのよ」
やべぇ…
マシンガントークも翼と激似だ。
「でもまっいいか。ここなら他人に二人の邪魔をされなくってもすむしね」
はそう言うと俺の横に座り込んだ。
「でもこうやってると思い出すよね。初めて言葉を交わしたのも屋上だったからさ。
あのとき柾輝が追いかけてくれて本当に嬉しかった〜」
目を閉じながら呟く彼女の姿は本当にきれいだった。
「そっそうか?」
そんな記憶はないけれどとりあえず答えておく。
そんなことよりも、なんか隣にがいたら暖かい気持ちになる。
今まで女の隣にいてこんな気持ちになったことなんてなかったのに。
「あの時、柾輝なんて言ったか覚えてる?『今日は暑いなぁ』だよ。私それ聞いたとき笑っちゃった!」
彼女のクルクルと変わる表情を見ているうちに彼女に見入ってしまっていた。
「それはそうと次の授業はちゃんと出てくれるよね?私、意味ないことにハラハラしちゃってる自分がすごく嫌なんだけど」
ニッコリと笑いかける。
「ぷっ」
俺は思わず吹き出してしまった。
「何?」
「いや…」
こんなところまで翼そっくりだなんて。
「でも屋上に追いかけて来てくれたとき襲われるのかなぁってちょっと不安になったけどね」
ニヘヘっと微笑みながら彼女は笑った。
「悪かったな…悪人面で」
「ううん。その顔も性格も大好きだからいいの」
彼女はそう言って俺の腕にしがみついてきた。
「そっか…」
─ポカッ!
「…ん?」
目を開けるとそこにはいつも通りの教室の風景。
「柾輝寝てただろ!?せっかくこの教室まで来てやったっていうのになんでミーティーングに参加しないのさ」
「うわっ!?」
「?誰それ?」
「いや、俺に振られてもしらねぇよ!」
六助は手を振りながら答える。
「ゆ…夢?」
俺は独り言のように呟く。
「夢?」
翼の顔はどんどん恐ろしい形相になっていく。
「柾輝最悪だね…やっぱり寝てたんだろ!?もう戻るからな!」
そう言うと、ドアを勢いよく閉めて帰って行ってしまった。
「じゃあ俺もクラスに戻るわ」
六助も苦笑いしながらパッと席を離れる。
「おう…」
そう答えながらも頭の中にはのことでいっぱいだった。
はやっぱり夢だったんだろうか…
「俺、欲求不満なのか?」
ハァ〜と大きなため息をつく。
「あっ先生が来た」
隣の女子は急いで席に戻り始めた。
やっぱり夢か。
そうだよなぁ。
翼そっくりの女なんて……
「今日は突然ですが転入生を紹介します。さん入ってらっしゃい」
「…はい」
聞き覚えのある声。
「初めまして。といいます」
?
クラスの奴らは『かわいい』とか『椎名先輩に似てる!』とか、そう言う声でいっぱいで…
けれどはそんな場には慣れていないのか恐怖を感じて、目には涙がにじんでいる。
─ダッ
「あっさん!」
そんな面白半分の教室の空気に耐えられなくなったは教室を飛び出した。
あの時柾輝が追いかけてきてくれて本当に嬉しかった─
夢で聞いたその言葉を信じて俺もまた走り出した。
別に占いとか信じてるわけじゃない。
別に運命とかを信じてるわけでもない。
でもまたお前の横にいたいと思ったんだ…
「…あなたは?」
屋上でうつむいていた彼女は俺の顔を見て呟いた。
「…俺は黒川柾輝」
会話がとまる。
「今日は暑いなぁ」
そう言って彼女の横に座った。
彼女は笑った。
あのときと同じように。
きっとここから…俺たちの日々は始まったんだ。