COMPLEX LOVER(コンプレックス・ラバー)













「たっぷり今日の話、聞かせてもらうよ」
夕食だとおばちゃんから呼ばれ、階段を下りていたら、ドアの前には翼が立ちはだかっていた。
…まぁ、絶対に聞かれると思ったけどさ。
朝は翼を置いてさっさと行って、昼は屋上行かなくて、しまいにゃサッカー部もほったらかしで帰ったもんな。
「…なんでしょう?(微笑)」
「分かってるよね?僕が聞きたいこと(にっこり)」
「ええ…(汗)」
といっても。
翼に言うフォローを考えてなかったのが本音で……さて、どうしようか。
「私さ、こっちに越してきて2週間ぐらい経つじゃない?」
「ああ、経つね」
「それでね、そろそろ翼の協力を借りなくても毎日生きていけそうなわけよ」
「は?」
「つまり…。やっぱり毎日こんな生活じゃ、友達もできないし」
というか、あんたのせいで女友達作れるか不安になってきたがな。
でもこれじゃ翼は納得いかないだろうし。
そうだ、おだてよう。そうしよう!
「翼、私に気を遣ってくれてるし、優しいじゃない?面倒見がいいっていうかさ」
「…ふーん。僕をおだてて話をスムーズに進めようってわけ?」
「…」
ば、ばれていらっしゃる。さすが、頭脳明晰ね…
「でも、それは本当に感謝してるの。でもあと1年弱ここで生活するわけだし、それじゃいけないって思ったのよ。翼にこれ以上迷惑をかけたくない」
むしろ迷惑をかけられたくない!(強調)
翼の優しさは昔からのことだから分かってるつもりだ。
でも…、もうその優しさを好意で受け取れないんだ私。
自分に引け目を感じてるから。
翼に対して劣等感感じてるから。
すべてを善意で受け取れないんだ。



「だから…お願い…!」



何度も頭を下げて、翼の顔なんて見れなかった。
今翼がどんな表情をしてるのかなんて見る余裕もなかった。




「…わかったよ。ただし、条件があるよ。まぁ、許すっていってるんだから、聞かないわけがないよね?」
「……はぁ…」
これはもう、逆らうわけにいかないでしょう?
なんかかなり理不尽だけどね。
「昼飯は一緒に食べること。あとは仕方ないけどお前の言うとおりにしてやるよ」
「う、うん。わかった」
「どっちにしろ、そろそろ予選が始まるから朝練あるし、一緒にいくつもりはなかったけどね」
「…!!」
じゃあさっきの私の命乞いは一体…!!?(うぉおあおあ!!!
てか、大会か。
「大会あるんだ」
「まぁね」
「頑張ってね。応援は行かないけど」
「お前、ほんっと可愛げないね。応援にきたら玲が帰りになんかおごってくれるかもしれないのに。まぁ、それ考えたら来ないほうがいいけど」
「…お、おごり…」
「本気で揺らぐなよ…」



とまぁ、そんな感じで私は翼離れの一歩を踏んだ。
早速次の日わたしは黒川にそれを告げることにした。






「ってわけで、昼ごはんを一緒に食べる以外は、友人づくりに専念させていただきます」
「どんな報告だよ、それ?」
ククッと笑いながら黒川が言う。
そういう眉をひそめて笑う顔、好きだなあ。


…て、普通に何思ってんだ私!!(汗)


でも、黒川ってば前に言ってたよね。
顔は関係ないって…まぁ、それは別の話だったけど。



「黒川は…どんな子が好み?」
「あ?なんだよいきなり」
「いや、普通になんだろ、青少年の実態が知りたくて」
「お前ほんっと突拍子もねーな」
そういってまた笑う。
今心がすごく穏やかなんだ。
教室に入る前とか、辛いとかやっぱり思ってるんだけど。
でも、なんだろ。
黒川がいるって思うだけですごく元気もらえる。




「マサキは顔より性格重視だぞ」
「うぉあ!」
後ろから顔を出したのは畑だった(弟のほう)
「畑さ、なんでそんな辺鄙なところから顔を出すかな」
「いや、お前らが楽しそうな話をしてるからさー、混ぜてもらいたくて」
「畑も性格重視?」
「俺はもちろん顔重視。ここのクラスでいうと高野とか?」
うげ。私のことをあざ笑った女じゃないか。
「畑、趣味わるー」
「ぇえ!すっげー可愛いじゃん!あ、お前勝ち目ないからって卑屈になるなって」
「なってねーよ!(怒)」
そうでした。
そうですよね。
これが本来の青少年の実態だよな…(ケッ
「つーか、顔は関係ねーだろ?」
ようやく重い口を開いたかのように黒川が言った。
「え…?」
思わず振り返ってしまう私。
「顔とか性格っつーよりも、なんか」
「ああ。マサキの場合は好きになったやつがタイプって奴だろ?」
「あー。そうかもな」
黒川と畑の会話。
やばいぐらい聞き耳立ててます…
そうか、そうか。好きになった奴がタイプか。
んでもって、顔は関係ないって?



…それって…私にも脈があるんだろうか?



「…なんてね!」
思わず声に出てしまった。
二人とも不審な顔をしてこっちを見ている。
「な、何手ね…、そう、何手ね!五手だ!
意味不明な台詞を吐きながらその場を離れる。
てか、平常心じゃいられない。



認めてしまおう。
好きでしょ?
そうだ。
黒川のこと、好きだ、私。






「うわぁ。顔あかぁー」
トイレの鏡には真っ赤な顔をした私の姿。
まるでゆでタコ。
しかも嬉しいことにトイレには誰もいない。
「…えへへ。顔とかって関係ないんだって…!えっへへぇ〜!!」



容姿は関係ない。
これは、私にとっては天にも昇るほど嬉しい言葉で。
ましてやそれが好きな人の言葉だったりするとありえないぐらいハッピーな気分だった。



そして嬉しいことは連続してやってくるものらしい。






翼との交流を絶った途端、女の子が声をかけてくれるようになった。
まぁ、あの時トイレで罵声を浴びせた奴らじゃないけれど。
普通のクラスの女子たちが声をかけてきてくれたのだ。
ま、時々…



「今度家に遊びにいってもいい?(翼先輩のいるときに)
「今度遊びに行こうよ!(翼先輩を連れて来い)



的な発言をする人たちはいるけれど(ゲッソリ)






ようやく光さす一歩が進めた、そんな5月の初めの出来事だった。