自分はどうして可愛くないんだろうってずっと思ってた。
でも半ば諦めてる自分もいた。
お父さんに似た目も、お母さんに似た口も。
それは直しようのないものだったから。
COMPLEX LOVER
「…目、やっぱり腫れたか…はぁ」
昨日たくさん泣いたわりに、その日は数十分で泣いた跡が残ってなくて安心しきってた。
まさか次の日の目に影響出るとは…卑怯だな(汗)
「おい、いつまで洗面所占拠してるわけ?後が詰まってんだけど」
朝から毒舌を広げる翼。
今一番会いたくない人。
でも会わないと絶対にいけない人だから仕方ないんだけど。
「…ごめん。すぐ退くから」
タオルで目を少し隠しながら翼の横を通り過ぎようとする。
「ちょっと待てよ」
「…!?」
急にタオルを引っ張られ、翼と面と向かう形になる。
「目腫れてるよ。なんかあった?」
「あー…。昨日うつぶせて寝てたから、それでだ」
明後日の方向を見ながら呟く。
「泣いたんだろ?」
「…は?泣くわけないじゃん。てか、泣く理由がないし」
もしも翼が私の涙の理由に気づくとしたら。
それは翼の熱烈ファンが私に何か酷い罵声を浴びせたって分かったときだけだ。
そんな惨めなこと、絶対言えるわけない。
絶対にバレたくない。
「俺には言えないわけ?」
「だって、翼に関係ないし」
「やっぱり泣いたんだな」
「…!」
ハメられた…っ!
「どっちにしろ、翼に関係ないことだから」
バッとタオルを翼から奪い取ってリビングに向かった。
翼、やっぱりきれいな顔してるわ。
通り過ぎながら、少し落ち込む。
リビングには翼のお母さんと玲おねえちゃんがいた。
二人ともキレイな顔をしている。
なんで私だけこんな貧乏くじを引かされてしまったのだろう。
だめだ。
考えたらきりがない。
そんなこと、自分が一番分かってるのに。
なのに頭の中がグルグルとそのことばかり。
眩暈してしまいそう。
「ちゃん、朝ごはんはパンとご飯どっちがいい?」
「…あー…き、今日はいいです」
苦笑いして私は手を合わせた。
「え?どうしたの?いつもは食べるのに」
「ああ。今日はちょっと食欲がなくて」
ていうのは冗談で。
翼と一緒にいたくなかった。
私が遅かったら翼は私を待ってくれるから。
それなら私が早く行けばいいんだ。
そんなことに気づくのが遅すぎたんだ、私。
「そう…。体調は大丈夫なの?」
「あ、大丈夫でっす!」
精一杯の笑顔で、私はリビングを後にした。
そして急いで2階に上がり、すばやく着替え、玄関に向かう。
「いってきます!」
振り向かずドアをバタンと勢いよく閉める。
後ろから「え?もう?」って声もしたけど聞こえないフリをした。
昼休みはどこか一人で食べれる場所を探そう。
それか翼のファンに属してない子に話しかけて食べるようにしよう。
て、あ。
弁当忘れた…。
やばい。翼が教室に届けにきて…くれ…る?
「…あれ…?」
なんだろう。
翼の面倒見のいいところが、こうやってみると結構浮かんでくるもので。
「私のために気を遣ってくれてたんだ…」
翼が昔から優しいってことぐらい知ってたつもり。
ただ、自分のことばっかりで気づこうとしなかった。
もし翼がもっと平凡な顔をしてたらこんなことにはならなかったのに。
なんて変なことを考えてしまった。
「…うん。昼は購買でパンを買って、一人になれる場所を探そ。で、放課後はサッカー部にいかないでそのまま帰ろうっと」
学校に着いたら黒川にそれを言おう。
黒川ならきっと分かってくれると思うし。
でもそれをしたら…
黒川ともいる時間が少し減っちゃうってことなんだ。
少し胸の奥が痛くなった。
まるでトゲが刺さったかのような。
「あれ?」
後ろから聞き覚えのある声。
「…黒川!」
び、びっくりした!!!
今ちょうどあんたのこと考えてたところだよ!…なんていえないけど。
「早いな」
「いや、あんたに言われたくないし」
「…目、意外と腫れてんな」
「…あー、うん。自分でもビックリした。やだなぁ、これ見てあの女子達が嬉しそうな顔をするのが想像できて悔しいわ」
はぁ、と肩を落とすと、黒川はククッと肩で笑い出す。
「黒川?笑うところじゃねぇっすよ?」
でも。
黒川の珍しい笑顔を見た瞬間。
少しだけモヤモヤが飛んでいく気がした。
「あ、黒川」
「なんだ?」
「頼み、あるんだけど」
「なんだよ?」
「実は…今日から昼と放課後は翼といるのを避けようと思うんだ。昼休み、私普通にどっかいなくなるけど翼にはいわないでいてほしいなー、なんて思って」
「あー…。お前ドコで食べんだよ?」
「普段は教室。でも今日は弁当を忘れたから、購買にパン買いに行った後どっか一人になれる場所探すよ」
私がそういうと、黒川は私の頭に手を乗せた。
突然のことに、一瞬胸が跳ね上がる。
「な、なに??」
「俺、お前のそういうとこ悪いとは思わねーけど、無理はすんなよ」
「…」
黒川って優しいな。
パッと見は本当、怖そうな奴なのに。
「うん。大丈夫。目の前に理解してくれてる人がいるからね」
黒川の目を見て笑った。
─ガラ
教室に入ると女子からはいつもどおりの冷たい視線と、あざ笑うかのような嘲笑が体にまとわりついた。
「おはよう」
腫れた目で思いっきり微笑んでやる。
「…え、お、おはよう」
私の意外な行動に、少し躊躇しながら一人の女子が反射的に挨拶をする。
なんかスッキリした、かも。
うん、頑張らなくちゃ。
このままでいいはずないから。
だから。
強くならないと。
頑張らないと。
大丈夫。私には…
かすかな視線を黒川に向ける。
それに気づいた黒川は、ふと私のほうに視線を向けた。
「どうした?」
「ううん、なんでもない」
安堵の笑みを漏らして。
私は黒川を見つめる。
この感情に私は覚えがある。
でも。
心のどこかで「やめておけ」って声が聞こえる。
私みたいなブスを好きになってはくれないだろうし。
それに、黒川の優しさは、友達だからっていうのと。
翼のいとこだからっていうのがあるだろうから。
期待はしちゃだめなんだ。
何度もそう言い聞かせて私は前を向いた。
─キーンコーンカーンコーン
チャイムと同時に席を立つ。
そして軽く黒川のほうを向いて、「あとは宜しく!」
そういって教室を後にした。
廊下を走って向かう先は購買。
生徒は早くも大勢つめかけていた。
うわ、まるで人がゴミのようだ…(by天空の城)
っていってる場合じゃない。
つ、突っ込まなければ後れを取ってしまう!
よし…!
「…とぉりゃぁあ!!」
変な雄たけびを上げて群れに突っ込みパンを死守…したいんだけど。
前の方は運動部が占領してるせいで全然パンに届かない…!涙
「お?やないか!」
「…え?」
私の隣にいたのは井上先輩だった。
…て。出会ってしまった…(翼関連に)
「パンって珍しいなー」
「…そ、そうですかい?(汗)」
「どうせ屋上に行くんやろ?一緒にいこや」
「あ、あのですね、井上先輩!」
「なんや?」
「あんたたちパンはなににするの!?」
購買のオバチャンが大声を上げる。
てか、いつの間にこんなに前に…(汗)
「とりあえずパンを買ってから…」
「そのほうがええな(苦笑)」
とりあえずパンを2つ買ったところで私は輪から抜けた。
それと同時に井上先輩も抜ける。
「で、なんや?」
「あのー。私がここでパン買ってたっていうの、絶対に翼に言わないでください!」
「なんでや?今からどうせ屋上にいくんやろ?」
「…いや、今日から訳合って違う場所で食べようかなって…」
「ほーかー。なんでや?」
「色々と諸事情があって」
「諸事情ってなんや?」
「……」
…あぁ。
黒川みたく察してくれ…この猿野郎!!(涙)
私の睨むような視線にようやく気づいた彼は、少し困ったような顔をした。
「あー。悪いけどな、俺、そういうの疎いねん。せやからちゃんと言ってくれへんとわからんで」
「…」
は小さくため息を吐いた。
「だめだ。井上先輩は絶対に翼に言うから」
「いーや。絶対に言わへんって!先輩を信じてみぃ?」
「信じれないからいってんッスよ」
「お前なぁ…まぁええ!俺も今日は屋上に行かんわ」
「え?」
「今日はとご飯食べることにするわ」
「…はぁ?」
「今きめたんや、妥協はせぇへん!」
「…(はぁああ…)」
少し重い頭を抱えながら、私は歩き始めた。
「井上先輩、どっか人が入ってこないようないい場所ってないんですかー?」
「な、なんや!?お前俺のこと…///」
「…んなわけないですよ…」
なんかこの人と喋ってたら調子が狂ってくるよ。
「ここは穴場やで」
そういって井上先輩に案内されたのは社会資料室だった。
資料に埋もれた本棚と、古い机が3つほど並んである。
確かに、ここは人の出入りが少なそうだ。
「で、なんや?お前、翼んこと避けてんのか?」
うぐ。
今まさに口に入れたパンを吐き出しそうになる。
「ま、まさにビンゴっす」
「なんでや?」
「なんでって…翼といたら何かと大変なんですよ」
「…ははぁーん。あれやろ?怖いファンクラブのやつらやろ?」
「知ってんだったらなおさら聞かんでください(怒)」
「でもなぁー、わかってやれよ」
「…?」
「翼が面倒見がええこと知っとるやろ?」
「あー、うん、まぁ」
「あいつ的に、のこと守ってやりたいっちゅーのは俺らから見てもようわかる。翼、お前のこと相当大事にしとるで」
「…うーん…」
守ってやりたいねぇ。
大事にしてるねぇ。
私には俺の所有物、みたいなジャイアン的匂いがプンプンするけど。
「翼があそこまでに執着すんの、いとこのせいだけじゃない気がすんねんけどな」
「…はあ?」
「俺の勘や!」
「なら、当たらないッスね」
「おお…俺、お前の突っ込み好きやで。マジタイミング抜群や」
「…(もぐもぐ)」
「それはそうと…翼もそうやけど、マサキもお前のことかなり大事にしてんな」
「…へ?」
「せやから…」
「い、いや、聞こえてるんで!てか、そんなことないっしょ。あれだよ。私が翼のいとこだから…」
「ほぉか?」
「確実にそうです…っ!」
一体何を言い出すんだこの猿は。
それにしても…
正直びっくりした(汗)
心臓がバクバクいってる。
「、顔赤いで」
「…き、気のせいデスヨ…」
「ほーか。お前…」
「それ以上言ったらぶっ飛ばしますよ…(ギロリ)」
私の顔を見た井上先輩は、それ以上何も言わなかった。
「…」
にしても。
そんなことあるわけないでしょ。
期待するだけ無駄だよ。
なんて思いながら。
少し期待してしまってる自分がいることに気づく。
「やばいやばい。収まれ!!」
私の思いとは裏腹に、顔はどんどん赤くなっていった。