COMPLEX LOVER
「え!?バイト先に郭さん来たの?」
「うん。しかもブスっていわれた」
「…うわ(汗)」
「しかも意味不明なんだけど、アドレス書いた紙渡されてメールくれとか言われた」
「え!!?で、どうしたの?(ドキドキ)」
「知らん。ムカついて捨てたから!」
そのとき、の表情が固まったことは私でもわかった。
「あのさー…そんなにいいお知らせだよ!」
「…ほー。楽しみだ」
「これ見て!」
バンと私の前に見せたものは…
「高速バス、往復券?」
「そう!しかも2枚」
「…んん!?2枚?」
「うん!私との!」
気持ちが悪いほどの笑顔で私と自分に指をさす。
「…ユーとミー?なんで?がおごり?気持ち悪い」
「違うし!!城光さんから!」
「はぁ?ますます気持ち悪いし」
「前に言ったでしょ!普通サンフレの練習って吉田公園が主なのよ。そのこと城光さんにいったら、チケット送ってくれたのーvv」
「下手したらストーカーですな」
「首絞めるよ、?(ニッコリ)」
「あはは。冗談って…もしかして…」
「もちろん、一緒にいってくれるよね??」
「いやいやいやいや、無理無理無理無理」
「そっか…」
ほっ。いやに諦めが早いところが胡散臭いけど。
「ダメかぁ。私ね、言ってなかったけど、あの時、、私の誕生日忘れてたじゃない?あれがちょっとトラウマになっててね、今でも人を信じられないっていうか…」
「おーーーっと。その日ちょうど空いてるわ。奇遇だねー(壊)」
というわけで、高速バス(むしろ拘束バス)に揺られること1時間半。
せっかくの休日に私は何をしてるんだ…
「もうサッカー見ないって決めたのになぁ」
チェッと小さく声を漏らす。
「着いたよ!――」
太陽に負けないぐらいの笑顔でこっちに話しかける。
思わず顔をそらしてしまう。
「ちょっと。なんで顔逸らすわけ?」
「いや、太陽って見たら目に悪いから」
「…意味わからないんですけど」
さすが人里離れたところにあるだけあってファンの数も激減。
こりゃ選手と仲良くなるには絶好だわ。
よかったね、。
そして私はその間何をしてればいいんだろうね…(遠い目)
「おお、来てくれたんやな」
城光さんがうれしそうに笑いながら近づく。
「さんも来てくれたんやね。遠いのに悪かったの」
「イイエー」
口を尖らせて愛想なく答える。
「今日は郭さん一緒じゃないの?ていうか郭さん元気?」
が城光に聞く。
Oh!触れるな、その話題!!
「郭?あいつなら最近…不気味やぞ」
「…不気味?」
「ぇ!?」
とがそれぞれ反応する。
「ああ。やけにイライラしとるしな。ここ4日間ぐらい」
4日っていったらファミレスに来たときじゃん。
てかなんでイライラするのさ!!
こんなブスなメールが来ない時点でなんでイライラ…あぁああ!!
わ、わ、わかった…。
きっと不細工な女のくせに、「俺のこと無視しやがって」って意味で怒ってるんだ。
………。
「ね、」
「ん?」
「私、今から帰ろうと思うんだけど、どう思う?」
「どう思うって今きたばっかりじゃん!!」
「そうだけど…」
帰りたい。出くわす前に帰りたい。
「…私、練習が始まるまでそのへんの木に隠れてるから始まったら教えて」
「…う、うん。わかった(汗)」
練習が始まるまで10分の間。
私はただジッと木の後ろに隠れてた。
ハタからみたらそりゃ変人だろうよ。
「ピィーーーーー!!」
ホイッスルが鳴った。
多分練習が始まったんだな…
…テンテンテン
「ん?」
目の前にはサッカーボールが。
そっとしゃがみこんで触れてみる。
懐かしい触り心地。
「…取りに来ないってことは少し借りててもいいかな…」
は独り言をつぶやくと、木から離れ、練習場が見えない場所まで小走りでやってきた。
中学校のとき、リフティングを練習してたよねー。
そんなことを思いながらボールを軽く蹴ってみる。
少し衝撃を感じたと思ったら、ボールは前のほうに転がっていった。
「あの時はちゃんと上に上がったんだけどなー」
苦笑いをして取りにいく。
ボールが意外と遠くまで転がっていく。
おいおいと思いながら、いつの間にかそれだけに視線が向かっていた。
すると、
ボールは目の前に立っていた人によって持ち上げられた。
「あ」
声が漏れて顔を上げて。
きっとその瞬間の私の顔ってまさに「絶句」って感じだっただろう。
だって目の前には郭英士が立っていたから。
「こ、これはこれは郭さん。奇遇ですね…」
後ずさりをしながら話しかける。
「これ、さんの?」
ボールに指をさしながら彼がいう。
無表情で強弱をつけない言葉。
怒ってる風にも受け取れる。
「いや、さっき転がってきたから、だから…」
私がそういうと、彼はボールを右足でポンッと軽く蹴った。
そのボールは宙に舞い、次に頭、そして足、そしてひざと、器用に当てていく。
「おぉ〜…」
思わず感嘆の声が漏れる。
何回か続けた後、彼はボールを高く上げ、そして最後に手で受け止めた。
「パチパチパチ!!」
素直に感動したは、その場で拍手を始めた。
興奮で少し赤くなった頬。
は無意識にとても嬉しそうな顔をしていた。
「サッカー好きなの?」
郭が静かに尋ねる。
「…え。前もいったけど…」
「前は好きだった?」
「…まぁ、ね」
「なんで?」
「…あのさー。郭さん。なんでそんなこと聞きたいわけ?性格ブスで顔もブスの人の話を聞いて面白いの?変な趣味」
「さんってさ、自分のことなんでそんなにブスブスいうわけ?」
「…。だって本当のことだし。それに」
「それに?」
「自分のこと可愛いと思ってるブスのほうがみてて痛い。そんなのにはなりたくないから」
「って自分のこと嫌いなんだ」
「……え、と。あの。なんで名前?」
「ああ。城光に聞いた」
「はぁ!?城光さんに!?」
「ま、それはいいとして。前も言ったけど、と知り合いになりたいんだ」
「…だから、それが意味わかんないんだって…」
「人と友達になりたいっていうのに理由があるほうがおかしくない?」
「…そうだけど。でも、あんたサッカー選手じゃん。私なんかよりも他にも」
「なんかって言葉使うのやめてくれる?俺、その言葉一番嫌い」
「…」
自分勝手なやつだ。
でも。
裏でそれを言われるほどつらいものはないし。
むしろそれを心の中で思ってるくせに普通に接せられるのもつらい。
だからこそ。なぜだろう。
郭さんのこと、微妙に信用してきてる私がいるんだ。
「…郭さんって変な人ってよく言われない?」
「言われたことないよ」
「それって多分みんな心で思ってるくせに言わないだけだよ」
「…(有無を言わせない鋭い目線)」
「ってまぁ、もちろん冗談だけど(爽)」
コイツこえー…(バクバク←心臓の音
「で、なんで俺にメールくれなかったの?」
「え?だって、あの…その…」
「まぁいいや。今日メール送ってくれたらチャラにしてあげるよ」
「いや、それは、できない」
「…なんで?」
「……」
いってしまおうか。
う、うん。多分この人なら大丈夫な気がする。
「いやぁ。実は、あの時ハラがたって郭さんにもらった紙、投げ捨てちゃって(爽)」
「投げ…捨てた?」
「え、うん!(笑顔)」
「ゴミ箱に?」
「いや。深夜のアスファルトの上に」
「…」
「……ご、ごめん。出来心で…」
「…まぁいいよ。でもメールを送ったのを無視するのはいくら俺でも怒るからね?」
一瞬綺麗に微笑む。
「え?あ、うん」
「じゃあそろそろ練習に戻るよ」
「…そ、そうだった!郭さん練習中だったんじゃ…」
「別にいいよ。スッキリ出来たことのほうが俺としてはよかったし」
「スッキリ出来たこと?」
「こっちのこと」
彼はそういうと、何もなかったように練習に戻っていってしまった。
不思議な人だ。
私が今まで出合ってきた男の人とタイプが違う。
異性と向き合えなかった私。
彼なら…郭英士なら、ちゃんと上手く付き合っていける気がした(人として)
でも…
それは、あの人にも抱いた感情に似ていた。
「顔とか関係ねーだろ?」
そういってくれた大好きだった人。
結局裏切られてるから。
郭さんも結局は信用できないかもしれない。
「どっちにしろメール云々、私、かくさんのアドレス知らないしなぁー」
送られてこないのだから返せとかいう問題じゃないでしょ。そう思った。
「―。どしたの?さっきから元気ないけど」
「ううん。なんでもないよー」
「…うん。いい感じ」
「…は?一体何がでしょうか?さん」
「ううん。別に?男の人を意識して困ってるも見てていいもんだなーって思って」
「…ぶほぉ!!ちょ、ちょっとやめてくれ。そんなんじゃないから!!」
結局その日は練習を見るどころじゃなかった。
少しずつ追ってしまってる郭さんへの視線。
それに気づくことが嫌で、自問自答を繰り返して悶々して。
そんなことをしていると、時間はあっという間に過ぎてしまっていた。
「ふふふ。、家に帰ったらビックリすることがあるかもしれないよ」
「はぁ?」
が笑いながらそう言ったのに気づくのはその2時間後の話。
『ピピピ ピピピ』
「ん?メール?誰からだ?」
○月△日 16:29
件名:帰れた?
本文:
メールちゃんと返すように。
あ、ちなみにこのメールアドレスは、の想像したとおりのルートだから。
郭 英士
「ぎゃぁああ!!な、ななんで…」
私の想像したとおりのルート…?
→城光→郭→私…
決定ですね…(ぐふ)
『メールを送ったのを無視するのはいくらなんでも怒るからね?』
ふと思い出した彼の言葉。
少し胸の辺りに引っかかる不思議な気持ち。
「…後が怖いから返しますか」
異性にメールを送るのはもう何年ぶりだろうか。
少しドキドキしながら私はメールを作成した。