─俺はお前のこと好きだなんて思ったこと一度もねーよ。マジ勘弁してくれよ
COMPLEX LOVER
「…!!」
急いで布団から飛び起きると時刻は朝の5時だった。
「…夢見わるいし」
最悪だ。
よりにもよってフラれたシーンからかよ。
ありえんな。てかまだ引きずってんのかな。
いやいや、多分昨日サッカーの練習風景なんかみちゃったからだ。
もう6年も前のことなのに。
「…もーやだなぁ」
いい加減成長したい。
そう思ってるのは百も承知。
「――vv」
「さんすげぇテンションで今日もご機嫌麗しゅうですね(ケッ)」
「うーわぁ今日も酷いな。てかさ、みて見て!」
「ん?」
眉をしかめて目の前に出された携帯をみる。
「あれ。城光さんとメール始めたの?」
「うん!!前に城光さんに教えてもらってたんだけどね。メールにしようって言われて」
「そーかそーかおめでとさん」
ポンッとの頭をなでると、は少し複雑そうな顔をした。
「さ、本当に恋愛できそうにない?」
「…さぁ〜」
頭に載せておいた手を頬に移動させてつねる。
「痛い痛い!!」
「それ、おなじ事言ったら次はグリグリだよ」
「ごめんごめん。だってさー…」
「だって、なに?自分も幸せになったから次はにも幸せにって?」
「…!」
の顔が引きつる。
あ、やば。
今のは自分が悪い。
「ごめ、ん。いや、今のは、なしで(汗)」
「…う、うん」
う。ギクシャクムードじゃん。
やだな。
はぁ。これだから嫌なのよ。
男が絡むと本当にロクなことがない。
今日みたいな日はバッティングセンターにいってストレス解消だ…って、今日バイトだった。
やるせないな、畜生。
そう思いながらも、学校が終わると同時に私は急いでバイト先に向かった。
私のバイト先はファミレスだ。
キッチン希望で入ったのに何故か配属先はホールだった。
あのフリフリ服を着るのには勇気がいる。
勇気もいるしプライドも捨てないといけない。
女同士の客は私の顔を見ると、勝ち誇ったかのような顔をするし。
男同士の客は私の顔を見ると、期待はずれみたいな顔する。
とにかくろくなことがない。
でも自給もいいし、賄つきだからなぁ。
これは譲れない…(ゴクリ)
それに。
私のプライドなんてあってもないようなもんだ。
「…」
バイト先に着くと、お客さんが面白いぐらいいなかった。
ヒマなんですけど。
─ガチャ
おっと。お客さんだ。
「いらっしゃいませー」
そう言いながら、明らかな作り笑顔を振りまき、頭をちょこんと下げる。
再び頭を上げると目の前にいた男の人と目が合う形になる。
「…」
「…」
えーと。
見たことあります。
めちゃくちゃみたことあります。
黒髪の、スラっとした。
か、く、さ、ん、だ!!!汗
うわぁああああ(発狂)
昨日の今日であった人にバッタリ出会っちゃったよ。
「何名様ですか?」
平静を装いながら尋ねる。
「1人だけど?」
「……か、かしこまりました。喫煙席ですか?禁煙席ですか?」
てか男一人でファミレスか。
割といい度胸してるな…。
「禁煙席で」
「じゃああちらのほうをどうぞ」
軽く手を添えてさすと、私はさっさと厨房近くに逃げ込んだ。
どっどっど……
動悸がすごいんだってばよ!汗
「はぁあーー…」
大きなため息を漏らす。
「ほら、さん3番テーブル鳴ってるよ。みてきてー」
「…はいよー」
て、お前がいけよ…斉藤!!チッ
同じホール担当のくせにさぼりっぱなしだな、コイツ。
しかも斉藤は自分に自信過剰の中途半端綺麗さんだ。
中途半端っていっても私よりは全然可愛いけど。
て。
3番テーブルって郭さんのとこかよ…。
早いんだよ。オーダー決めるの!(汗
「…」
無言でそばによる。
大体の人は近づいたらこっちが何も言わなくても注文を始めるからね。
「…昨日、来てた子だよね」
「…へ?」
次は私の目をしっかりと捉え、彼は言葉をもう一度言った。
「城光と一緒にいた人でしょ?」
「そうですけど…」
よく覚えてるなぁ…。
「すごいですね。ファンの子って全部覚えてるんですか?」
少し低い声で言い放つ。
「冗談。そんなわけないよ。ただ、君は雰囲気が違ったからね」
「雰囲気?」
「…さんか」
視線が少し下にずれたことに気づくと、私はすぐに名札を抑えた。
「サッカー好きなの?それとも男目当て?」
「…両方外れ」
「え?」
「私は別に選手目当てだとかそういうので行ったわけじゃないから。しかもサッカーなんてワーストランキングに乗るぐらい大嫌い」
思わずにらみながら言う。
「城光の女につれていかされたってわけ?」
「…」
何もいわずにただ頷く。
「そっか。豚キムチ定食」
「……は?」
「注文」
「あ、はい、豚キムチ定食っと」
なんだろう今の。
なんか拍子抜けというか。
頭を傾げながら戻ると、斉藤が何故か私をにらみつけている。
「なにか?」
「ちょっとさんさぁー!3番の人がかっこいい人って知ってたんでしょ!?なのになんで教えてくれないわけ?さっさとオーダーいっちゃうし。本当、自己中ー」
「…は?」
自分中はお前だろうが!
ああ。
もう。
これだからコイツ苦手。
「はーい3番テーブルさん豚キムチ定食あがりましたー」
キッチンから流れる。
というか、出来るのはやいな。
さすがお客さんがいないだけあるわ。
斉藤を無視して私がお盆をとろうとすると。
「次はユカの番!ブスは地味な客相手してろってのぉー」
彼女は気味が悪い笑顔のまま郭さんの元に向かった。
「お、今の店員けっこー可愛くね??」
「うん。俺的に85点!」
斉藤と通り過ぎた男2人の客が会話する。
ああ。世の中理不尽だ。
女の武器をわかってるやつって本当すごいよ(ケッ)
─ガチャ
おっと。
お客様の登場だ。
この自分の般若みたいになった顔を戻さないと!!
「…あ、いらっしゃいませー(笑顔)」
一人のお客さんが入ってきたとともに、何故か次々にお客さんが入ってきていつの間にかお店は満員になっていた。
少しテンパりながらテーブルをいったりきたりする。
バタバタしていると、3番テーブルがチラっと見えた。
無意識に目を向ける自分。
「パパー!ナミね、ハンバーグがいい!」
「ナミにはまだでかすぎるだろー。じゃあお子様ランチはどうだ?」
「そうよ、ナミちゃん。これならハンバーグもついてるし、お子様ランチにしたら?」
ほほえましい家族の姿。
いつの間にか郭さんの姿は消えていた。
なんだ。
もう帰ったのか。
なんとなく微妙な気分になった。
「んー…仕事終わりっと!」
深夜21時。夜の人と交代した私は早々とお店を出た。
お店の入口を通り過ぎようとしたとき。
「さん」
「へ?」
誰かに呼び止められ、足を止める。
声のほうに振り返ると、そこには郭さんが立っていた。
「う、わあわわ。か、郭さんなにやってんですか??」
「さんを待ってたんだよ」
「…は?」
意味がわからない。
プロサッカー選手の考えてること意味わかんないんですけど。
郭さんはそういうと、私の右腕を掴み、無理やり私の右手を広げた。
「な、なんですか?」
「これ、俺のアドレス」
「…へ?」
ギュウっと握り締められた手。
中には明らかに異物を感じる。
「メール、待ってるから」
「ちょ、ちょっと待って、意味わからないんですけど」
「意味?なんで?俺はたださんと知り合いになりたいと思っただけだけど」
「そ、そうじゃなくて。だっておかしいでしょ!昨日あったばかりなのに。しかもそれが特別可愛い人ならわかる。なんで私に?な、なに?もしや城光さんに頼まれたの?とひっつけてくれとか?」
意味がわからなくてありったけの理由をぶつける。
「特別可愛い人ならわかるって?どういう意味?」
「だって男は女の顔しか見てないじゃん!!可愛い子とか綺麗な子が郭さんも好きなんでしょ?マジ冷やかしなら勘弁してよ」
興奮して思わず出た言葉。
言った後、ハッとなってサーッと頭が真っ白になる。
「さんってブスだね」
「…!!!わ、わかってます。いわなくても」
「そうじゃなくて。性格が」
「…え?」
性格が…ブス?
顔もブスだし性格もブス。
あはは。
もうそれ破滅的じゃん。
直しようがないし。
あれだよね。
自分でわかってることでも、他人に言われたら結構くるね。
涙?
出てこさせてなんてやらない。
悲しい気持ちの前に沸々と湧き上がる怒りの感情。
「…郭英士の阿呆!死んじまえ!!!」
20歳とは思えない幼稚な台詞をはいた私は背を向けて走り始めた。
彼は追ってこなかった。
当たり前か。
当然なのだけど、なんかそれがまたむかついた。
「…はぁ、はぁ。意味不明なやつ…!メール?絶対に送るもんか!!」
手に無理やりねじ込まれた紙切れを私は思い切り地面にたたきつけた。
そうですよ。
ブスだよ。
ブスですよ、私は!!
「ち、くしょー…」
泣きそうだったけど泣かなかった。
これで泣いたら負けな気がした。
私はこんなことじゃ泣かないんだ。
プライドなんてもう捨てたんだから!!!