“私は英士が好き”



そういった瞬間、英士はより強くを抱きしめた。
でも私見ちゃったんだ。 英士、いった瞬間、目を丸くしてた(苦笑)



でもなんでだろう。
涙がポロポロこぼれてくるんだ。
悲しいからじゃない。
つらいからじゃない。
嬉しくて泣くっていうのはきっとこういうことなんだって思った。


英士を好きになってよかった…


本気でそう思えた。














COMPLEX LOVER(コンプレックス・ラバー)














涙もようやく止まりかけてきた頃。


「落ち着いた?」
「…うん」
英士が優しくささやいた。
「ていうか、昨日から泣きすぎだ…やだやだ。前はこんなことなかったのに」
まぶたに手を当てながら呟くと、予想以上に熱いことに少し驚いた。
がそれだけ成長しようとしてるってことだよ」
「…そーなのかなー」
チラリと横目で彼を見る。
あ。目が合った。
うわぁ。そんな穏やかに微笑む英士の顔が隣にあるなんて。
嬉しいというか、恥ずかしいよ。




「もう大丈夫?」
「え?あ、うん」
何の疑問もなく肯定すると、英士の表情が少し険しくなった。
「そう…じゃあ聞くけど、椎名とってどんな関係?」
「は!?」
大丈夫ってそういう意味?
「ど、どんな関係って言われても」
は椎名のこと、名前で呼んでたでしょ?」
「あー、うん」
だって従兄弟だし…
内心そう思いながら英士を見つめる。
言ってたよね?男の人を下の名前で呼んだことがないって」
「…え?」
あ、あぁ。確かにそんなことを言った記憶がある。
よく英士覚えてるなぁ。
「あと、なんで椎名はあんなこと言ったの?」
「え、そんなのこっちが聞きたいよ」
「普通の知り合いならそんなこと言わないでしょ」
「…」
思わずムッとしてしまった。
なんか。なんだ?
すごい英士がイライラしてるのがわかる。
なんで私がこんなに責められなくちゃいけないのさ。
「なんか英士怖い。いつもの余裕はどこにいっちゃったんだか」
フンッと顔を背けると、グイッと顔を引き戻された
「好きな女が絡むと男は余裕がなくなるもんだよ」
「……っ!」
顔が真っ赤になったのが自分でも分かった。
焼けるように顔が熱い。
っていうか、なんでこんなことを恥ずかしげもなく言うわけ?
しかも英士ってば、表情一つ崩さない。
…でも


嫌な気分じゃないっていうのが本心で。
落ち着くようなチクチクするような。
それが、何故か心地いいものに感じた。




もう大丈夫。
心で言い聞かせて、すぅーっと息を吸い込んで。
英士の目を直視した。




「私と…翼は従兄弟なんだ」
「従兄弟?」
「そう。従兄弟」
英士は怪訝そうな顔をする。
てか、分かり易すぎなんですけど?(苦笑)
「意外って顔に書いてありますよ?英士さん。確かに私なん…」



“なんかって言葉使うのやめてくれる?俺、その言葉一番嫌い”


一瞬でかかった言葉を、ゴクンと飲み込んだ。



「…あー…翼は可愛い顔してるから」
思わず小さくなってしまった言葉で続けた。
すると、英士は優しく微笑んで、
「よくできました」
って言ってくれた。




ギュウっと胸が締め付けられる。
私、本当に英士のこと好きになってしまったんだ。
今更ながら実感した。






「…もしかして前の恋愛と椎名は関係してる?」
「え!?」
英士がまっすぐに私の目を捉える。
相変わらず察しがいいなぁ、なんて思いながら苦笑いを浮かべた。
「…うん…私、中学2年から中学3年に上がるまで親の単身赴任で翼の家でお世話になってたんだ」
「…え?」
また英士の顔が歪んだ。
「…黒川って知ってる?さっきいたんだけど」
「知ってるもなにも、中二からサッカーで関わりあってるよ」
「……へ?」
「椎名と黒川、東京選抜だったでしょ?(あと髪の毛がモジャモジャな奴も)」
「…も、しかして…英士も?」
「ああ」
うわぁ。なにそれ…
そんな偶然普通ありえますか!?(いや、ありえない)
「世間って狭いなぁー」
苦い顔をしながら言う。
「いや、それは俺の台詞だよ」
「確かに…」
「…」



英士が黙る。
うん、大丈夫。
もう泣かないで言葉を続けられる。



「黒川が好きで…告白して…フラれて。で、翼にもメチャクチャいわれて。もう二度と好きな人もできないし、恋愛なんてなおさらできないって思ってた。でも…」
「でも?」



英士に出会った。
英士の人間性に惹かれた。
そして、異性としても惹かれていった。



きっと…ずっと前から好きになってたんだと思う。
バイト先に英士がきたとき、すごく驚いた。
多分他の選手なら普通に接することができたんだと思う。
きっと意識してたから。だから、あんな行動に出てしまったんだろうな…



でも。
その感情を「気になる人」とさえ思うことができなかった。
過去が邪魔して英士を好きになりきれなかった。






「英士と会って、自分を変えたいって思った」
「…」
「きちんと…もっとキレイになって、性格美人にもなって、英士を好きって自信持って言いたい」
そういった瞬間、英士は何かを考えた顔をした。



「…」
「…」
…なんで沈黙?
そう思っていたら、英士が口を開いた。


「もしかして、あの時飛葉中にいた?」
「…はい?(ニッコリ)もしかして英士さん。今、人の告白を無視しやがりました?」
「11月ごろ」
ああ。どんどん無視していくつもりなんだ。
相変わらずマイペースな奴だ。
「11月?」
とりあえず考え直して11月の出来事を振り返る。


11月っていうと…



ああ、そっか。
黒川にフラれて、翼に地獄に突き落とされたときだ。




「…いた」
一番思い出したくない出来事に、思わず目を伏せた。
「やっぱり。しかも泣いてた?」
「…え!?」
「あの時、俺は勝負なんてどうでもよくて校舎を見てたんだよ。そしたら監督の隣に女子生徒がいて、そのあと彼女は泣きながら走ってた」
「………ええええ!!!」
ひ。無意識の間に奇声が出てしまった。
っていうか…最悪だ。
見られてたなんて。
ていうよりも、英士なんでそんなこと覚えてるわけ!?
そ、そりゃあ私はどこもかしこも変わってませんけど!!(涙)



「そっか。やっぱりあれはだったんだ」
「…え?」
私とは違って彼はホッとしたような、そんな安堵の笑みを浮かべていた。



「一目ぼれだったっていったよね?」



そういった彼の表情はとても柔らかく。
そして口調がとても優しかったので私はまた涙がこぼれた。



「俺は、昔のも今のも好きだから、変わる必要はないよ。それに性格ブスだっていったけど、本当のは性格ブスじゃないってわかってるから」
彼は、自分の手の甲で私の涙をぬぐい、言葉を続けた。
「遅くなったけど」
「…?」
「俺もが好きだよ」
「…!」



優しく微笑んで、また泣いてしまいそうになる。
と、次の瞬間…



「え?英士?」
英士の顔がどんどん近づいてくる。
ちょっと待って!!
私そこまで覚悟できてないんですけど…(汗)
「黙って」
黙ってって…(汗)




『ピピピ ピピピ ピピピ…』



閉じかけていた目を開けると、英士のポケットから光が見える。
「…英士、携帯」
「…ああ」
ああって。
全然聞いてねーよ!!!(怒)
「携帯だっていってんでしょーが!!!」
「…(はぁ)」
英士は諦めたように携帯をポケットから取り出した。



「もしもし?ああ。ごめん。今から戻るよ」
短く返答した後、彼はすぐに携帯を閉じた。
「…悪いけど…」
「練習でしょ?わかってるよ」
「ああ」
「英士」
「ん?」
「広島にはいつ戻るの?」
「明々後日かな」
「あ。私と同じなんだ」
「じゃあ次の土曜は広島?」
「そうだよ?」
「じゃ、その日はあけとくように」
「え?」
「一緒にどこか出かけよう」
「…うん。分かった…」
なんだか気恥ずかしくて、でも嬉しくて思わず顔が緩む。
「また連絡するから」
「え、あ、うん」
そういって微笑んで。
彼は車から降りていった。



幸せすぎてくらくらする。
眩暈で倒れてしまいそう。



「幸せってこういうこというのかな…」




目に涙を浮かべ、呟いた。