『女子にブスっていわれて、好きな男にフラれて。もうお前にプライドなんてないはずだろ?』
今考えれば、きっとあの時から私の心は歪んでしまったんだと思う。
COMPLEX LOVER
地元の中学に帰ってきても、男の人に不信感を覚えるようになってしまっていた。
そして私は男とかかわりのない生活を送るために女子高に進学した。
けれど時間がたてば傷というものは少し薄れるもので。
「、紹介いらない?」
「え?」
「隣の男子校の人でいい人いるんだけど…!あ、メールだけでもいいからさ」
「あー、う…ん。ま、いいよ」
もう2年も経ったんだし大丈夫かもしれない。
そう思って男の人とメールしても長くは続かなかった。
「写メを送ってよ」
そう言われたらすぐに気持ちは退いてしまって。
私は不細工だから送れないって。
そう思ったらもうメールは返せなくなってた。
そしてまた男の人を拒絶してしまった。
大学もやっぱり共学なんて考えられなくて、女子大を選んだ。
「!合コン行こうよ!」
「えー、一人で行ってきなよ」
「がいないと私も行かない!それにもしかしたらいい出会いがあるかもしれないよ」
「そうかぁ?」
なんていいながら、心の中でもう一度期待をしてしまって一度だけ合コンに参加したけど。
やっぱりなんだか居心地が悪かった。
上手く話せないし、発展もないし。
ああ、やっぱりだめなんだって再確認させられた。
私、なんて思いあがりしてたんだろうって何度も何度も後悔して。
ボロボロだった心は、もうこれ以上ないほど傷ついてしまってた。
自分の身の程を知ったほうがいいって、翼に言われてたのに。
なのに、期待して、傷ついて…
そして、どんどん歪んでいってしまった心。
もう修復不可能なぐらい意固地になってた私。
そんな私が出会った人。
それが英士だった。
彼といると楽しい。
気持ちも元気になる。
話しやすいしこんな自分のキャラを受け入れてくれた。
歪んだ醜い私なのに、友達になってくれた。
そして…
『俺がに構うのは、が好きだからだよ』
こんな私を好きだといってくれた。
でも、英士が私のことを好き?
そんなの…信じられない。
でも、信じたい。
どうしてこんなに悩んでしまうんだろう、私。
本当は、もうきっと答えなんて出てた。
私、英士のことが好きなんだ。
でも、容姿と恋愛を好きになれない自分がそこにはいた。
恋愛として英士が好きなのかどうかがわからなくて。
どうしていいのかわからなかった。
『ブルル、ブルル』
携帯電話が震える。
着信画面には「」と表示されていた。
「…新幹線って電話とっていいんだっけ?」
とりあえず席を離れ、公衆電話のある通路まで歩く。
――ピッ
「あ、もしもし」
『?』
「うん、どーした?」
『いや、ね。昨日郭さんとデートだったじゃん?』
「…デートじゃないし」
『何かあった?声暗いけど』
「え…?あぁ…うん」
『…もしかして…告白されたとか?』
「…はぇ!??」
図星すぎて声が裏返る。
『あー…図星かぁ。そっかぁー、へぇー』
「なんか怒ってますか?しゃん?(びくびく)」
『いや。報告してくれなかったのが寂しいなって』
「あぁ、ごめん」
『で、はどうするの?』
「…」
思わず口ごもってしまう。
『…は男性不信なんだよね?』
「だ、男性不信!?」
いや、そっか…
言われてみれば、そうともいえる。
『郭さんのことも、嫌い?』
「…嫌いじゃないけど」
『だよね?だってそうじゃなかったら一緒に遊んだりメールしたりしないもんね』
「そーなのかなぁー…」
『私の勘は当たるから言わせてもらうけど、それは絶対郭さんのことが好きだよ』
「…へ?」
『だから、もちゃんと向き合って欲しいの、自分と』
「…。つーか今日熱いけどどうしたの?」
『え?あー、うん。実は城光さん…』
「え?城光さん!?」
なんだ…もしかして付き合い始めたとか?
まぁ二人ともいい感じだったしな。
『…フラれちゃったんだ』
「…え?」
『だから、には頑張ってほしくて』
「ちょ…ちょっと待って。なんで?」
『…また詳しくは学校で話すよ。でもいいんだ。ベストは尽くしたから』
「…え?」
『ふられたけど、私後悔してないの。ちゃんと自分が出来ることはしたから』
「…」
『、逃げてばっかじゃダメだよ』
「…」
『てか、そっち煩いけど今どこにいるの?』
「え、新幹線で…もうちょっとで東京かな」
『東京!?なんで?』
「あ、うん。親戚の家に行かなくちゃならなくてさ」
『なるほど、そういうことね。じゃあお土産宜しくね』
「…ハイハイ(苦笑)」
『ちゃんと郭さんにメールしなさいよ!』
「…う、ラジャ。わかった」
『よし!じゃ、今からバイトだから』
「うん。じゃ、また学校で」
――ピッ
なんていいタイミングにから電話がかかってくるんだろう(汗)
でも、ビックリした…
「あの二人がダメなんて…」
城光さんと絶対に付き合うもんだと思ってたのに。
ほんと、人ってなにがあるかわからない。
…逃げてばっかじゃダメ、かぁ…
つーかに言われてしまったよ、5年間逃げてたこと。
「あの頃とは違うってわかってても…なかなか成長できないもんだなぁ」
思わず落胆の声が漏れた。
逃げてばっかじゃダメだっていうのもわかってる。
向き合わなくちゃいけないっていうのもわかってる。
自分が嫌いだからって意固地になってちゃダメだっていうのもわかってるんだ。
けど…今までわかっててもきっかけがないからって逃げてた。
でも、きっかけは突然やってきた。
「…うん、逃げてちゃだめだ…」
5年ぶりの東京。5年ぶりの翼。
自分の弱さに負けたくない。
このままじゃ英士にメールも打てないもの、私。
「頑張らなくちゃ…」
小さく息を呑んで席に戻る。
「、あと10分もしたら着くわよ」
「うん、わかった」
止まった5年分の時間が、少しずつ動き出す予感がした。