私はどこかでボタンのかけ違いをしていたらしい。
好きになるのに顔は関係ない…イコール私を好きになってくれる。
そんなことはあり得ないのに…
私はとんだ大馬鹿者だった。
COMPLEX LOVER
「…」
気づけば朝の3時だった。
さすがに隣の部屋は静かになってる。
ああ。いつの間にか帰ったのか。
さすがに帰るよね、こんな時間だし。
「フラれた…んだ」
何故か心の中で確かめるように反復する言葉。
黒川から言われた後、すぐに眠りについてしまったせいで妙に現実感がなくて。
何度もため息を漏らした。
とりあえず下に降りてお茶でも飲もう。
そう思ってベッドから降りると私は静かにリビングへ向かった。
「…うぉ!!」
下に降りると、電気もつけずに一人テーブルに座っている人影発見。
「な、なにやってんの。玲おねえちゃん」
「あら、。どうしたの?こんな遅くに」
「いや、それはこっちの台詞だよ…」
そんな会話を交わしながら、私は静かにお茶をコップに注いだ。
「、次の土曜空いてるかしら?」
「え?」
「空けておいてほしいの。そうしたらおいしいパフェのあるお店につれてってあげるわよ(ニッコリ)」
「パフェ…!」
土曜って確か…
翼がいってたよね。土曜に学校に来いって…面白いものが見れるからって。
でも…
今は黒川に会いたくない。
そりゃ普段会うけど必要以上に会いたくない。
ていうか会えない…でしょ。
「うん、大丈夫。空ける」
「そう。じゃあその日、学校が終わった後職員室に来てちょうだい」
「わかった」
そういって私はリビングを出た。
今週の土曜といえばもう明日のことだ。
パフェか。
失恋した後にパフェか…汗
なんだかやるせない。
そして土曜日。
「玲おねえちゃん、話違うんだけど」
私は怒りを込めてそう呟いた。
「え?なにがかしら?」
どうして私、玲おねえちゃんと学校の2階からグラウンド見下ろしてるわけ。
しかもなんか見知らぬ中学の奴らがぞろぞろ集まってるし…
翼の言ってた面白いことってコレ?
なに、今からケンカでも始まんの??
「…ん?」
どうやらサッカーが始まるらしい。
一人の男の子がジャージ姿で出てきて、ゴールを正面に立っていた。
翼と畑はディフェンスをし、あと一人知らない人がゴールキーパーのようだ。
…で、あと一人…黒川も翼の横に立っていた。
やっぱり、アレだ。
フラれたけど、私たちはクラスメイト。
教室で接してたり。昼休みご飯を一緒に食べたり…
感情をすべてあらわにして生きていくことなんてできっこない。
普通の態度で接したら、きっと彼も普通の態度で接してくれる。
だから、何もなかったように接するしかないんだろう。
今遠くから見える彼の姿を見ると、ズキンと心が悲鳴をあげた。
「で、玲おねえちゃんさ、私は何をしたらいいわけ?」
「ああ、あの人数分のね、ジュースを買ってきてもらおうかと思って」
「パシリじゃん!!(怒)」
そういいながらも玲お姉ちゃんから3000円ほど預かる。
ていうか、持てるはずない。
約20人分のジュース…(ブルブル
とりあえず買いにいくか。
「よしっと」
変な声を漏らして意気込みをいれ、売店に向かった。
それにしても、たくさんの人だったなぁ。
あれって昨日の翼と黒川が電話して来てくれた人ってことでしょ?
二人とも人徳あるんだ。意外だな…(遠い目)
ガシャン………ピッ…ガシャン
1000円入れて、ジュースを押して、取り出しては押して、取り出しては押してを繰り返す。
「つーか…絶対に持てねぇ」
ジュースの数およそ20本。
絶対にもてるか!!この量!!
「…うーわー。あの人、マジ悪魔だ」
ため息をつきながらお金を自販機に入れる。
「まだ時間かかってるわけ?」
振り向くと、そこには翼が立っていた。
「うわ。意外とこれ、時間かかるんだよ。てか、ちょうどよかった。これ持ってって」
「そのために来てやったんだろ」
「そうなんだ。アリガトウ」
「さ」
「ん?」
「…マサキに告ったんだろ?」
「…」
ボトッ
ジュースが手からすり抜けて落ちる。
そうか…黒川、言ったんだ。
二人仲いいもんね。
そうか…
「…そうだよ」
一瞬冷えた感情に負けないように声を絞り出す。
なんだろう。
まさか慰めてでもくれるのだろうか。
「へぇ。本当だったんだ。マジ馬鹿だよね、お前って」
「…え…?」
予想もしなかった言葉に、私は無表情のまま振り返った。
「マサキは面食いなんだよ。お前みたいな不細工な奴、好きになるわけないじゃん。マジさ、自分の身の程知ったほうがいいよ。ま、ブスってちょっと優しくされただけで付け上がるからね」
「…な、にそれ」
「俺が何も知らないとでも思ってたわけ?」
「…」
もしかして…
「不細工ってわかってたんだろ?あれだけ酷いこといわれたなら普通大人しくしてるよね?」
「…翼…なんで知って…」
あのときの女子に言われたこと。
なんで翼が知ってるの?
だってそれは…
黒川にしか…
黒川に…しか?
…黒川は全部喋ってたの?
「驚いたって顔してるね」
「…」
「あれだっけ?机の中に画鋲も…」
「…!!それ以上いうな!!」
「…へぇ、にも触れられたくないことってあるんだ」
「…ある、わよ…」
「女子にブスっていわれて、好きな男にフラれて。もうお前にプライドなんてないはずだろ?」
「…!」
女子に罵声を浴びせられたこと。
翼に言わないことが私の守ることができた唯一のプライドだった。
今私は確かに上手くいってた。
クラスの女子とも普通に話すようになった。
友達もできた。
真っ暗だった毎日を明るくしてくれたのが黒川だった。
なのに。
黒川は私のこと、面白おかしく翼に喋ったのだろうか?
二人で「あいつバカだよな」って笑いあったんだろうか。
「…っ!」
気づけば涙は溢れるほど溜まってた。
――ダッ!
翼の横を通り過ぎようとした瞬間、翼が強い力で手を掴む。
それと同時に勢いよくはそれを振り払った。
「待てよ、!」
「嫌だ!絶対に待たない!!」
「!」
「絶対に追ってくんな!!翼なんて嫌い!大嫌い!!」
一瞬、翼が口をつぐんだ瞬間、は無意識のうちに走り始めていた。
離れた途端に目からは無数の涙が零れ落ちる。
「…う…ぁあ…!!」
もう何も知らない。
何も見たくない。
目の前が真っ暗だ。
信じてた人はもう誰もいない。
ううん。そんなもの、最初からいなかったんだ。
自分で勝手に決め付けてただけだ。
私は…、本当にピエロだったんだ。
「うわぁああああ…!!」
その場にしゃがみこんで、嘔吐するほど泣いて。
泣いて泣いて泣いて。
楽しかった日々は一瞬にして崩れさってしまった。
それからは…
毎日抜け殻のようだった。
昼ごはんは教室で食べるようになった。
黒川も翼も、もう何も言わなくなっていた。
そして、いつの間にか部活にも行かなくなって、マネージャーは辞めてしまった。
毎日が、24時間が過ぎるのが、こんなに遅いと思ったのは始めてのことだった。
日々は過ぎ、翼は中学を卒業した。
3月に入ると、5泊6日で合宿に行くと言い、家を出て行った。
翼に合えない時間が、黒川に会えない時間が…
こんなに心穏やかなものだったなんて知らなくて。
一人になった部屋で、私はまた泣いた。
「ちゃーん電話よー」
「…あ、はい」
それから数日後にかかってきた電話は、私への最後の選択肢だった。
「もしもし」
『あ、?』
「…お母さん」
『元気?』
「…う、うん。まぁ、それなりに」
『、広島戻りたい?』
「…え?」
『お父さんの海外赴任の任期が急に短くなったの。だから今月にはもう広島に戻れそうなんだけど…あんたには高校に入学するまでっていってたのに…もうそっちの生活のほうが慣れたわよね?』
「…ううん。帰りたい!」
『え?』
「早く帰りたい!!早くここから出たい…!」
『…わかったわ。もうこっちの話は済んでるからあと3日したら広島に戻れると思うけど…、本当に良いの?』
「…うん」
これは逃げの選択だ。
一番しちゃいけないことだってのは知ってる。
でも、もう、これ以上考えることが嫌で。
「1年間、お世話になりました…」
私は翼に会わず、そのまま東京を後にした。
「…あれから5年かぁ」
5年って言葉に出すと長いのに。
私にとってはつい昨日のことのよう。
私は相変わらずのブスで。
それにくわえて翼と黒川のおかげで拍車がかかって、ついでに性格までブスって言われて…
「ふぅ」
ため息を漏らし、新幹線から見える風景を見つめた。