COMPLEX LOVER(コンプレックス・ラバー)














、お前弁当忘れすぎなんだよ」
「…いやぁ。早く出るとつい忘れちゃって…」
そういいながら翼からお弁当を受け取る。
「てか、もう11月かぁ。早いねー」
気づいたら秋も深まる季節。
大会が終わって翼や井上先輩や畑先輩は引退した。
けど、東京選抜があるからって毎日翼は部活に顔を出している。
そして私はあの夏の日から。
部長となった黒川のサッカー部でマネージャーをしていた。




黒川にもらったストラップは宝箱の中へ。
そして私たちの進展は…




「マサキ、あのフォーメーションのことだけど」(翼)
「ああ、あん中に上原とか入れたほうがいいだろ」(柾輝)




全然進展してないけどね!(怒)
まぁ、選抜のせいで私が加われない会話も増えたしな…



、顔がブスになってるぜ」
畑が笑う。
「うっさいモジャモジャ!!」
私は般若に負けぬ形相で畑の頭を撫で回した。




“顔”
相変わらず私はそこに反応しすぎるんだよな。
確かに私は可愛くない。
けど、誰かを好きになれないって理由がそこにあるほど私は落ちぶれてなくて。
それに加えて黒川のタイプはそういうのじゃないってわかってからは、少しプラスに考えれるようになったんだ。






「じゃあ今日集合だよ」
「ああ」
「おう」


翼の言葉に、黒川と畑が返事をする。


「なにが?」
私の言葉に、翼がピクッと反応した。
聞いてなかったわけ?」
「えー。だってフォーメーションがどうとか意味わからない宇宙語喋ってたくせに、よくいうよ」
「お前マネージャーなんだし、サッカーのこと少しは勉強しろよな」
「…いや、だいぶわかってはいるんだよ。リフティングが難しいとか、そういうレベルは」
「…って本当頭のねじが一本抜けてるよね(怒)まぁいい。今日、マサキと六助が家に来るからな」
「あー、うん、わか……ってなんで!?」
ってすごいビビッた!!!
その前の翼の言葉のねじがどうとかっていうのも反応したかったんだけど…(汗)
「もう説明するのが面倒だからいいよ」
「翼の家に行くの久々だぜー!ピザ頼もうぜ、ピザ!」
「てわけだから、よろしくな、今日」
黒川がそういい笑った。
「お、おうよ」
うわぁ。黒川が家にやってくる(あくまで翼目的だけど)
なんか、すごく新鮮だ!




「お疲れさまでしたー!」




部活が終わってから一時間後。
翼の部屋でがちがちになりながら座っていると、インターホンが鳴り響いた。
翼がインターホンを取り、入るように促す。



ていうか。
私服の黒川って、何気に初じゃないか?私。



や、やばい。
心臓が今更ドキドキしてきた。






─ガチャ


ドアが開く音。
心臓は飛び出す直前だ。
「おじゃましまーす!」
…最初に入ったのはお前か…畑。チッ。
次に入ってきたのは黒川だった。
やっばい。本気で興奮しそうです。




「じゃそろったことだし、早速手分けして電話するよ」
「…電話?」
私が目をパチパチさせると、翼は言葉を続けた。
「今週の土曜、うちの学校で面白いことやるからも絶対見にこいよ」
「……はい?」
「おい翼、先にピザ頼もうぜ」
「勝手に頼めよ」
「やり!マサキ、どれにする?」
「六助に任せる。は?」
「え、なんでもいいよ」
「じゃあ俺勝手に決めるぜ」


とか何とか言ってる間に、翼は電話かけ始めてるし。
ボーッとしてる間にピザが届いてとりあえず私と畑が手をつける。
「くろ…」
黒川に話しかけようとした瞬間、
「マサキお前ピッチ持ってるなら手伝えよ」
「へーへー」
ああああ。
黒川はそういうとポケットから取り出した。
ていうか、ピッチ持ってたのか、こいつ…
一緒に過ごしてたくせに気づかなかったんですけどー


それに。
二人とも電話してさ。
畑なんてとうとうテレビまでつけちゃってる。


私、すっげーヒマなんですけど?


なんか。
期待して損したな。
別になにがあるとか思ってたわけじゃないけどさ…



「…」
私は無言で立ち上がった。
「どこいくんだ?」
「トイレ」
畑の言葉に即答で返す。






─ガチャ


ドアを閉めて、はぁーと重いため息を漏らす。
そして静かに翼の部屋の隣にある自分の部屋に入って電気をつけた。
「…なんか、期待してた自分がバカみたいだ」
もう一回ため息を吐いてベッドへ倒れこむ。
枕元に置いた宝箱。
その中に入ってるのはあの時黒川にもらったストラップ。


「…きれー」


ビーズが光に反射してキラキラ揺れる。
それと同時に黒川の顔を思い出してしまってなんだか胸が動いた。



「やっぱり好きだなー…」
思わず独り言が漏れた。




「…は?」
驚いたような抜けたような、そんな声がドアから聞こえた。
今の声には確実に聞き覚えがあるんですが…(汗)
「く、く、黒川!」
「あー、えっと、悪いな。ドア開いてたから覗いてみたら、ここの部屋だったんだな」
「あ、う、あうん。そうな、のです」
うわぁ。
文法メチャクチャじゃん、自分!
「…それ」
黒川の視線が私の手元に映る。
「あ、あ…え、えと、あのこれは…」
目の前には宝箱が置いてあるし大切にしてるってわかってしまっただろう。
それより今さっき言った言葉、聞かれてしまっただろうか。



「あのさ…く、黒川。さ、さっきの言葉…聞こえた…?」
裏返りそうになる自分の声を必死に抑え、つぶやく。
「…」
一瞬黙って、ちょっと頭を掻く。
「聞こえた…」
バツが悪そうに小さく呟いて、私のほうを見た。
「そ、そっか」
「ああ」
「…えっと。そういうわけで…」
心臓が動きすぎていたい。
声も指先も震える。
「私…黒川のこと…好きなんだ」
一生懸命に出した言葉と共に黒川の顔を見つめた。
「…」
一瞬目をキョトンとさせて、うつむいて。
いつもはクールな黒川が挙動不審になっていた。
「あー…わりーけど」



あ。
やばい。
やばいよ、これ。
やな予感がする。



「俺はお前のこと好きだと思ったことねーよ」
「…え」
「…マジ…勘弁してくれよ」
黒川は苦い顔をしながらうつむいた。



勘弁してくれって。
どういうこと?



「ご、ごめん」
何故か私が謝ってしまった。
「…」
黒川はバツの悪そうな顔をすると私の部屋から出ていってしまった。






「…あ、はは。俺は…お前のこと好きだと思ったことないって…」
実るか実らないかなんて…きっと実らないだろうって思ってた。
だけど、心のどこかで少し期待してたんだ。


「…ああ。そっか」
私のこと一度も好きだと思ったことないんだって。
そっか…



「…ひっ…く…」



涙がこみ上げた。
目頭が熱くて、熱くて。


「…ひっ…く」


でも。
隣には翼がいる。
黒川もいる。畑もいる。
泣けない。声を出しちゃいけない。
バレちゃいけない。





そう思えば思うほど、気持ちは強くなっていく。



「…っ…!」
枕に顔を埋めて、声を殺して私は泣いた。