これは悲しくて切ない恋愛物語。
COMPLEX LOVER
「ねぇねぇさん、今日ヒマ?」
「ヒマだけどなんで?」
「合コン行かない?」
「絶対に行かない!!!」
……の、はず(汗)
さっきのやりとりを見ていた親友のが眉間に皺を寄せながら尋ねる。
「ってば、なんで彼氏作らないわけ?」
「欲しくないから(キッパリ)」
「だってさ、うちら大学2年生よ。来年はバタバタするし、今のうちしか彼氏作れないんだよ」
「彼氏なんかいらない」
「どうしてよ」
「男なんて女の顔しか見てないバカ野郎だから」
「……(冷ややか)」
そう。私は男が嫌いだ。
男はみんなそうだ。うっかり合コンに行ったときもそうだった。
可愛い女ばかりに目がいって、結局は自分にこびる女に夢中になる。
そういう女も嫌いだけど、そういう女に騙される男はなおさら嫌いだ。
そんな荒波に飲まれたくないから私は女子大に来たっていうのに。
「そろそろだよ」
がつぶやく。
「何が?」
「私が20歳になるまであと少し」
「だから?」
「20歳で彼氏がいなかったら、それってもうターニングポイントだと思う」
「…そんなに彼氏ほしいなら逆ナンでもなんでもして捕まえればいいじゃん(しれっ)」
「うわ、ひど!」
私の心は歪んでると思う。
それにはそれなりに理由があったのだけど、それを直そうとも思わない。
むしろその出来事は忘れたいぐらいだからだ。
これが、一週間前の話。
「じゃあここまでとします」
2コマ目の授業が終了。
今日は2コマの授業しかなかったからとても楽だ〜。
「―!」
「ん?」
振り向くとの姿。
「なに?」
「今日バイト?」
「ううん。はいってないけど」
「じゃあヒマ?」
「ヒマだよ。なに?もしやお誘い?」
「うん、お誘い!」
「マジで!?なんでも付き合うよ。カラオケもショッピングも…」
「広域公園にいこう!」
「…はぁ?」
「今日サンフレッチェの公開練習日なのよ」
「へー」
「だから……ね!(ウインク)」
「…嫌だね。なんでそんな行っても得にもならんとこに行かなきゃならんのさ。絶対にやだ。やだやだやだ。私を動かそうってもんならテコでもないと動かないよ」
「へぇ。そういうかぁー」
「…な、なにさ」
「さー。3日前何の日だったか覚えてる?」
「3日前?」
…3日前。
なんかあったか?(ん?
………ぁあ…(滝汗)
「えーと。はい。我が親友、さんの誕生日デスネ」
「はーい。よくできました」
「じゃ、今日は親友のプレゼントを買いにいかなくちゃいけないから失礼するよ(スチャ)」
「やだー。プレゼントなんていらないよ」
「え。なんで?去年すごいねだってきたじゃん…」
逆に怖いな。
「プレゼントの変わりに……ね★(ニッコリ)」
「次はー、広域公園前――」
アナウンスが響く。
「…私さー、野球好きなんだわ」
はしゃくれた口でささやく。
「知ってるよ。試合見に行ってたもんね」
「まーね…てか、サッカー興味ないんだよねー」
「さっかー(そっかー)」
「ギャグかよ!」
嫌々な私の左腕をがっちりガードしたままはアストラムラインから下りた。
「てか、あんまりないんだよ。サンフレ選手がこっちで練習するの」
「へーへー」
「ふるいし!!(汗)いつもは吉田公園だからねー。でも吉田公園遠くてなかなかいけないんだわ」
「てか、ってサッカー好きだったっけ?」
「…実はね、好きな選手ができちゃったのです!しかもファンレター出したら帰ってきたのよ。まさにミラクル、まさにフォール イン ラブ!」
…ごめん純粋に、キモイ。
「そりゃ楽しみだー(棒読み)」
「やる気ないね。出していこーよ!ハッスルハッスル」
「そのやる気の出し方もどうかと思うが…」
半ば足は引きずられ状態で向かう。
「おおお!見えてきた!」
「ふーん?」
のおおハシャギの興奮の先にはサッカーをしている人たち。
やだな。久々に見たよ。
こんなにたくさんの男。
「、近づこう!!あんなハイエナみたいな女性ファンを蹴散らして」
「…」
はとても可愛い顔をしている。
言葉はありえんぐらい悪いけどな…(お前もな
でもまぁ、近づいてみるとすごい迫力だ。
意外と選手との間も近い。
この中に好きな人がいるとなったら興奮もすごいだろうな。
サッカーかぁ。
もう二度と生で見たくないナンバーワンのスポーツだったのに。
「やだやだ」
ふぅっと、は誰にも気づかれないほどの小さなため息を吐いた。
見てみると、ちょうどチームは休憩に差し掛かってる感じで、選手はまばらになろうとしていた。
もっと多いと思ってたけど、意外とファンの人は少なく、数えれるほどしかいない。
まぁ平日だもんな。
そんなことを考えながらボーッとしていたその瞬間。
「城光さぁーーーーーん!!」
がグラウンドに向かって大声で叫んだ。
近くにいた数人もこちらを振り返る。
中にいる選手も振り返る。
やめろ。やめてくれ。
一体なにをするの、さんったら。
てか、城光って?
ふと目を凝らすと、一人の男が手を振りながらこちらに近づいてきてるじゃありませんか。
しかも遠めでもわかるぞ。
オス臭い匂いがする。
「…」
「なに?」
「あんた、好きな芸能人、妻夫木とか山下君とか言ってなかった?」
「あ、うん、大好き大好きvv」
「…あれは?」
そっと城光と呼ばれる男を指差す。
「もっと好き!」
「今、確実に山下ファンを敵に回したぞ、君」
「は!?意味分かんないって…」
「いや、なんでもないです…」
そんなことを言ってる間に、彼はもうすぐそこまで来ていた。
「えと、初めましてやな」
「あ、ど、ど、どもう!です」
「どもう」ってなんだよ…!!!
ツッコみたいけどなんか二人の雰囲気に入っていけない。
二人を会話を聞いてるとどうやら二人は文通っぽいことをしていたらしい。
なぜメールじゃないんだ…。
確かにはメールが嫌いだったけど、文通はないだろう、文通は…。
でも近ければ近いほどこの人、オスくさいな。
腕なんてムキムキしてるし。
すると、くるっと向きをかえて、城光さんは私のほうを向いた。
「あ、すまんな。えーと…」
「あ。です」
「さんか。俺の名前は城光与志忠っちゅうんじゃ」
「はぁ」
「…」
「…」
会話終了しました。
「ったら…普段はすごい喋る子なんだけどね…汗」
「ん?ああ。気にしとらんよ」
「…」
ああ。そうだよ。普段はすごい喋るよ私。
でも、男の人の前だとてんでダメなんだよ。
女子大だからかくしてこれたけど、にバレたな…今ので確実に。
てか、サッカーしてる男なんてちゃらちゃらしててロクな奴いないよ、。
まぁいえるわけないけど。
「城光」
仲良く話をしている二人をボーッと見ていたら、後ろから声が聞こえた。
城光って言う人ほど低い声じゃない。
少し華奢な声。
振り返るとそこには、サラサラの黒髪で、スラッと背が高い、顔の整った人が立っていた。
サッカー選手にもこういうタイプいるんだ。
「そろそろ休憩終わりだよ」
二人のいいムードなど関係無しに言う。
「おお。ほーか。じゃあ、またっちゃね」
「うん!城光さんがんばって!!…あ。郭さん。ごめんなさい。ここまできてもらっちゃって…」
申し訳なさそうにが頭を下げる。
「…かく?」
今はなんていったんだ…?
拡散?一体なんでそんな単語を今…。
そんなの様子に気づいた彼はこっちを振り返った。
「郭。郭英士っていうんだよ、俺」
「郭英士?変わった名前ですね」
「そう?まぁ、よくいわれるけど」
「ああ、やっぱり」
…。
やっぱり会話は続かない。
こういう空気苦手だ。
だからだろうなぁ。
男の人が苦手なのも。
「まぁ、今きたばかりみたいだしゆっくり見ていきなよ」
英士はそういうと、城光とともに背を向けて少し小走りで行ってしまった。
「ほぁー。郭さん、さすが。かっこいいわー」
が少し興奮した様子で笑う。
「いやだねー。城光さんはポイですか」
「違うし!(怒)」
ホイッスルが鳴り響き、また選手が練習を始める。
「てか、郭さん、よく気づいたよね。私たちが来たばかりってこと」
「あー。言ってたね。そういえば」
『今きたばかりみたいだしゆっくり見ていきなよ』
「郭さんは相当な女遊びが激しいんだな」
「おい…まぁ珍しくもに同感ですね」
「だしょ。あれだけ整った顔してりゃキープさんも何人もいると見た」
心の中で『やだねぇ、モテる奴は』とささやく。
サッカーの練習風景は、あまりに懐かしくて何故か胸がギュウっと締め付けられた。
「」
「ん?」
「はさ、ほんと、なんで彼氏作らないの?」
「いらないんだって」
「好きな人も?」
「うん」
「…なんで?」
「…なんでっていわれてもなー」
「…」
一瞬沈黙の後、が口を開いた。
「お前みたいな不細工な奴、好きになるわけないじゃん。マジ身の程を知れって感じ。ちょっと優しくされただけでブスはつけあがるからなー」
「…へ??」
の驚いた表情と視線がに向く。
「これ、昔大好きだった人に言われた言葉。みたいなもん。私、そのとき二度と人なんて好きにならないって思ったよ。それからは一度も好きになったことはない」
なりかけたことはあるけど、どっかでこの言葉が歯止めをかける。
だから恋をするどころか、その時点で終わってんだよ。
そう私が言うと、はバツが悪そうにうつむいた。
「そんなことない。可愛いじゃん。のことをブスっていうやつどこのどいつよ!」
「…」
ありがとうっていいながら心の中でまたつぶやく。
女の友情の成り立ちは「可愛い」からだからなぁ。
ブスな子にも可愛い子にも分け隔てなく友達ならば「可愛い」という。
私、信じられないんだよ、その言葉。
「でも…なんで言ってくれたの?今まではぐらかしてたじゃん。」
「あー…うん。そいつサッカーしてて、思い出強かったから」
目の前の練習風景を見て私は眼を細めた。
懐かしいなぁ。
でも。
もうサッカーを見るのは最後。
もう二度とみない。
あの辛さを思い出したくないから。