西園寺から言われた言葉が頭から離れない。
翼が死ぬ?
そんなこと…ありえない。
そう信じたい…でも…
久しぶりに再開を果たした私たち。
でも現実はそんなに甘くないね…
LIES AND TRUTH
「また、好きって言わずに離れちゃうのかな…」
まだ恋愛感情を抱いている私の心。
もちろん翼はそんなことは知る由も無い。
きっと離れていた八年間、彼の周りには私じゃない女の人がいたんだ。
私も付き合ったりはした。
けれど…本気で人を愛せなくなってしまった。
すごく好きで愛しい人が遠くに行ってしまったんだもの。
どんなに思っていても叶わないものは叶わない。
そのことが知らないうちに心の中に引っかかってて…
私は深い闇から抜け出せずに今まで生活してきたんだ。
本当は愛なんて持ってないくせに作り笑顔で患者さんと接して、
翼と離れてから、私は一番大切な心の部分が欠けてしまったのかもしれない。
「痛い!痛いって!本当にソレあってんの!?」
翼の言葉にハッと現実に戻る。
「え?」
そう言い注射中の彼の腕を見てみる。
「…ゴメン翼、刺すところ間違ってたみたい(汗)」
「何やってんのさ…(怒)」
さすがにこれには翼も呆れ顔を見せた。
「でもまさかが看護師になるとはね。本当に人生って何があるかわかんないよね」
「それって誉めてるの?」
口をへの字に曲げながら問う。
「…ねぇ、。俺、いつ退院できるの?」
「―――え?」
一瞬私の顔が凍てつく。
そんな私の表情に翼が気づかないわけがない。
「どうしたの?」
「な、何でもない…!」
私はそう言うと素早く病室から出ようとした。
が、翼に力強く引っ張られてしまったせいで私は彼のベッドに横たわってしまった。
「翼!?」
恥ずかしさと怒りがこみ上げた私は素早く起き上がろうとした…けれど、
彼の顔があまりに近くて私はシーツに顔を埋めてしまった。
「こんなにと近づいたのってキスしたとき以来だよね」
「何言ってるのよ…」
彼の意外な言葉に恥ずかしさはすでにピーク…ますます顔は上げられない。
そんな私の姿に翼はフッと優しく笑いそのまま私の髪の毛に優しくキスをした。
「つっ翼!?」
すると彼は私の体をグイッと押し寄せて抱きしめた。
「俺、死ぬんだろ?」
「…え?」
耳を疑う。
思わず知ってたの?と聞きたくなるほどの驚き。
「な、なんで?」
「自分の死期ぐらい分かるさ。ただの骨折じゃないって知ってたしね」
そんな……
パッと顔を上げ、彼の目を直視する。
何もいえないまま彼をジッと見つめる。
「ねぇ覚えてる?僕の誕生日」
「…え?」
「覚えてないの?」
「うっううん。覚えてるよ。4月19日だったよね?」
「は5月23日だったね」
「覚えて…たの?」
「まぁね。だってお前よく言ってただろ?『あ〜良かった!翼の方が年上で』って」
「そういえば…言ったような記憶も…」
彼の声を聞くと昔に戻ったような気持ちになる。
お互いに変わってはしまったけれど気持ちはあのときのまま変わらずに…いる。
あのときよりも大きくなった翼の手に触れてみた。
まるで恋人同士だったころのように。
時間が麻痺してしまいそう。
─コンコン
突然のノックに私は急いでベッドから離れた。
少し乱れた髪の毛を直し始める。
「失礼します」
入ってきたのは翼の担当医でもある西園寺。
「よぉ操」
翼は手馴れたような雰囲気で西園寺先生に話しかける。
「病院では西園寺先生って呼びなさい」
「分かってるよ。でも玲も呼び捨てだったし西園寺って呼び難いんだよ」
「全くもう。あ、さん悪いけど席外してくれない?」
「え?あっはい」
私は彼女に言われるままに病室から出た。
手にはまだ翼のぬくもりが残る。
私まだ翼のことが…好きだわ
ううん…前以上に好きになってる。
「気づくのが遅すぎたのかなぁ」
小さな声を漏らす。
もしもあのとき『私待ってるから!』って言ってたら…私たちどうなってたのかな?
最悪だよね。
過去に未練を感じるなんて…
私の誕生日まであと二日
ねぇ翼、私もう二十二になっちゃうんだよ…?
─コンコン
誕生日がやってきた。
けど私は相変わらずいつもどおり翼の病室を訪ねる。
もちろんそれは私的な用事じゃなくって朝の訪室なんだけど…
あれ?人の気配がしない…
「…翼?」
私の声に誰も応答しない。
「トイレにでも行ったのかなぁ?」
はそう思いながらベッド周囲を整えていく。
するとベッドの上になにやら小さなメモを発見した。
「何…これ?」
首を傾げながらは呟く。
「『俺たちが付き合い始めた場所で待ってる』…えぇ!?」
う…ウソでしょ!?
私はその紙をもって西園寺先生の元へ向かった。
「先生っ!!」
私の異常な様子に西園寺先生は真剣な表情で、
「どうしたの!?」
と、私に負けないぐらいの大きな声を出した。
「こっこれが、彼の病室に…」
そう言いながら紙切れを見せる。
「なんてこと…彼の体はもう動けるほどの力は残ってないはずよ」
「…え?」
「今無理したらすぐにでも死んでしまうような体なのに!何やってるのよ!あの子は!!」
西園寺先生の今まで見たこと無いほどの顔に私は体をビクッとさせる。
「ちょっと…まって…無理したらすぐにでも死んでしまう…?」
その言葉を聞き、私は病室を飛び出した。
私たちが付き合い始めた場所!?
─………。
多分飛葉中のサッカーグラウンドだわ…
彼に告白された場所はあそこだったから…
は彼の体に何かある前に!と今にも溢れ出そうな不安をこらえながら走った。
「はぁ、はぁ…」
ようやく着いた飛葉中。
私は急いでサッカーグラウンドを目指した。
八年ぶりということもあり校舎の色は真っ白に塗り替えられている。
まるで違う場所にいるみたい…
「あ…」
なにやら人影を見つけ、私は目を凝らす。
「翼…!」
グラウンドには確かに見知った人物が立っている。
それはまぎれもなく翼の姿。
「翼!何やってるの!?あなた自分が動ける体じゃないってことぐらい…」
私はどんどん翼に近寄り強い言葉を浴びせていく。
が、そんな私の様子も気に留めずに彼は私の腕をグイッっと引っ張った。
「キャッ!」
彼の胸に抱き寄せられる。
「俺さ、と別れてからずっと考えてたんだよ。あのとき、俺たち別れてなかったらって」
「…え?」
「あのとき、俺のこともう好きじゃなくなってた?」
「…翼?」
「だから…!ハァ…ハァ…」
急に荒くなる彼の吐息。
「つっ翼!?大丈夫!?しっかりして!!」
「だ、大丈夫だよ。これぐらい…」
「無理しないで…早く病院に帰ろ?」
震えている声にも気づかないで私は眉間にしわを寄せながら翼を説得する。
けど彼は一向にこの場から動こうとしない。
「…俺はもう無理かもしれない。でも最期に聞きたかったな、の本当の気持ち」
「…え?」
「八年間、ずっとのことが忘れられなくって…病院で会ったときは、正直驚いた。はどうだった?」
「……」
思うような言葉が出てこない。
「私…は…」
その先を言おうとするんだけど…
今にも倒れそうな彼を見ていたら言えなくなってしまう。
「はぁ…はぁ」
どんどん荒くなっていく翼の息。
「翼!?大丈夫!?しっかりして!!」
その瞬間、
─ズルッ
私の腕から翼はスルリと抜けてしまい地面に倒れこんでしまった。
なんとも鈍い音がグラウンドに響き渡る。
「やっやだ!翼しっかりしてよ!」
「…俺、のこと…好きだった…」
「翼!もう言いからっ…しゃべらないで…」
「お前に…会えて…俺本当に幸せだった…」
意識が朦朧としているのが見ていても分かる。
「最期をの手に抱かれて死ねるなんて…もしかしたら幸せかもしれないね…」
彼はそう言うと、静かにまぶたを閉じた。
そこには生気のかけらも何もなくって、
「やっ、やだっ…」
ただでさえ白い肌がますます白さを増していくようで。
「やだ!私も翼のことが好きなんだからっ!!今でも好きなんだからっ!!だから目を覚ましてよっ…!」
今自分がどんな顔をしているのかなんて分からない。
とにかく涙が止まらなくて、後から後から溢れ出てきて。
翼の顔がどんどん霞んでいく―
その瞬間、
─パチッ
「へ?」
まるで豆鉄砲をくらったような私の声。
だって、だって!!
「つっ翼が生き返った…?」
ぼーっとしながら私は呟く。
「はぁ〜〜〜やっと言ってくれたよな。全く」
「…へ?」
「病気のフリをするのって結構大変だったんだよ?」
「つ…翼?」
「何?あっちなみに俺は小脳梗塞じゃないから死なないよ」
「あのぉ…(汗)」
未だに状況を把握できない私は表情を出さないまま翼に問いかける。
「…実はね、操に相談されてたんだよ。お前のこと」
「私の…こと?」
「そ。患者に対するときのお前の態度が表面上はニコニコ笑ってるのに一番大切な愛情があの子には欠けてるって」
「…?」
「だ〜か〜ら、が本当の気持ちを言ったとき、愛情を隠さないで接することが出来るかもって操が言ったからその誘いにノったんだよ」
「ちょっと待って…」
「何?」
「私、騙されてたの?」
「え?」
「翼が私のことを今好きって言ってくれたのも全部ウソ?」
「…」
何も言わない翼の姿。
あぁ、そっか―
しょうがない…よね、私のためについてくれたウソだもの。
が、彼は一瞬の隙に、私の唇を自分の唇とで重ね合わせた。
「ふんん!?(翼!?)」
「シッ」
「ふっんふっふん!(ちょっと待ってよ!)」
唇を塞がれてもなお離そうとする私の態度に翼はスッと唇を離し、
「お前、ウルサイ」
そう言って、もう一度私の唇を塞いだ。
次は何の抵抗もしないで目を瞑る。
八年ぶりのキス。
あの時と同じように翼を感じる。
この優しいキスだけでさっきの翼の言葉が本当かどうかなんてすぐに分かるのに…
欲しいものがあっても手に入らないものは手に入らないって思ってた。
でも、諦めなかったら…手に入るものもあるんだ。
それに気づくまで八年もかかったけど…
でも分かることが出来て、良かった。
幸せの余韻に浸りながら私と翼は今までの穴を埋めるかのようにキスを続けた。
おまけ
「それにしてもお前さぁ、本当に国試受かったの?」
「なんで?」
「看護師のくせして何で俺が死んでるフリしてるの気づかなかったのさ?」
はぁ…と呆れながらため息をつく翼。
「そっそれはっ…(あんまり突っ込まないでください…汗)」
「でもまぁ…いいや。の白衣姿見れたし?」
「//////(またそういうことを恥ずかしげもなく…)」