「今年も日生の誕生日がやってきましたぁ!」
「おー…」
「私、は今年こそは告白を!」
「あーはいはい。聞き飽きたっつーの」
「煩いなぁ!今年は本気だって!」
「去年も同じこといってたくせに。なんだっけ?日生が転入して一ヵ月後に『友達以上になりたい』とか言って?
そんで『ハチマキを貰いたい』とか体育祭には言っちゃって?」
「…そうだけど…」
「結局どれも実行してないくせに〜」
「うっうるさーい!でも今年の日生の誕生日には絶対に好きって言うもん!」
「去年も言ってたよね〜。結局三個無駄にしてんでしょ?日生のために作ったお菓子」
「グッ」
「去年の誕生日にクリスマス、そしてバレンタインデーだっけ?
それも芸がないったらありゃしない。ぜーんぶガトーショコラ?」
「だって去年日生が美味しそうって雑誌を見ながら言ってたんだもん」
「今年は変わってるかもしれないでしょーが。それにどうせ今年も告白できないでしょ?」
「絶対にします!」
「はいはい」








こんな感じで今年もまた日生の誕生日がやってきます。








東北地方に位置するこの場所では、もう雪が降ったりしてスゴク寒い。
こういうときってやっぱり恋人同士が肌寄せ合ってるもんでしょ?
だから今年こそ日生と…











「何ブツブツ考え込んでんの?」
「ひゃっ」
突然声をかけられたせいで、は意味不明な声をあげてしまった。
「あっ日生…」
「何読んでんの?お菓子の本?」
「あっうっうん」
有紀に芸がないって言われたからちょっと気にしてるんだよね…。
「ふーん。お前って結構お菓子とか作るタイプなんだ」
「え?そーゆーわけでも…ないけど」
「…俺、こーゆーのが好きだな」
ビシッと指をさした先には…
「ガトーショコラ…」
「そ。まだ一度も食ったことないけど」
ニコッと笑顔を向けてくる。
彼の笑みのせいで私の体温は上昇中。
んもう、周りの雪が溶けるんじゃないかって勢いで…(それはないって)
「俺、誕生日が今月の14日なんだ。だからさ、もしよかったら作ってよ」
「…えぇえ!?」
「いや、ダメなら構わないけど」
「ううん。作る作る!」
「マジで!?楽しみにしてるな!」
「…あのさ、実は私14日に図書館に行くつもりなんだけど、確か日生ん家って図書館から近いよね?」
実は要チェック済みだったりする。
「え?そーだけど」
「だったらそのついでに持っていこうかな…ダメ?」
「全然構わないぜ。あっ!部活が始まるから…じゃあな」
手を振りながら去っていく日生の姿を、は笑みを浮かべながら見つめていた。
そして、今にも零れそうな想いを確かめる。
「やった…」
チャンス到来。
神様ありがとーーー!!












「ってことで、今年こそは告白してまいります!」
「まぁ〜本当に実行するとは思ってなかったけど…。じゃあ頑張りなさいよー」
「分かってますって(ニヤニヤ)」
「あんた気持ち悪いわよ」
「わっ最悪!」
「あ…見て!アンタの大好きな日生が廊下歩いてるわよ」
「…え?どこどこ!?」
教室で毎日会うのに、好きな人って何回見ても飽きないもんだよね
「あそこ」
私は有紀の指差す方に視線を向けた。
そこには日生…と……一年生の女の子…?
後輩の女の子が真っ赤になって日生に挨拶してる。
日生は少し気まずそうにペコッて頭を下げてて…
……はい?
あの〜どういう関係で?お二人は?






「あっあのコ知ってるよ」
「…え!?」
「先月、日生に告ったコだよ多分」
「はぁ!?なっなんで知ってんのそんなこと!?」
「あのコ坂井の妹でさ〜。私って坂井と仲いいでしょ?だから」
「そういえば顔が似てる気がしないことも…ない」









─ガラッ










さっきまで廊下にいた日生は早くも教室に到着していた。
「………」
思わず視線を彼に向けてしまう。
日生はそんなの行動に気づき、彼女の方に向かって歩いてきた。
「何だよ?俺のことジッと見てたけど…。もしかして俺のこと好…」
「さっきのコに日生って告白されたの?」
「…え?なんだよ見てたのかよ」
「答えてよ」
「先月…な。断ったけど…」
「でも挨拶されてたよね」
「だって雄大の妹だしな。でもやっぱりあーいうのは気まずくなる…」
少し困ったような顔をして日生は呟いた。









あーいうのは気まずくなる…










何かが頭にぶつかって、スーッと冷めていくような気がした。






「そっか…」








好きって気持ちを伝えれば少しは現状が変わるような気がしてた。
けど、今守ってきた『友達』が壊れてしまうのなら…
何もしないほうがいいのかもしれない。
なんだか気持ちが揺らぐよ。























「うっわ大雪…だ」
日生の誕生日12月14日。
まさに天気予報どおりだね。






『プルルルル…プルルルル…』
窓に手をそえていた私は急いで受話器に手をかけた。
「はい、もしもし」
『あっ日生だけど』
「ひっ日生!?」
『今日来るって言ってたけど、大雪だし危ないからやめといたほうがいいと思って』
「…そ…そうだよね。うん」






─ガチャ








「淡々と会話しちゃってさ。大雪だから…やめといたほうがいいってさ」
少しホッとしてた。
友達として会話ができなくなるんじゃないかって思ってたから。
「うん。きっと告白するなってことなんだよ。今は時期じゃないってね」
独り言を呟きながら自分に言い聞かせる。
キレイにラッピングされたガトーショコラが少し寂しそう。
「…本当にこれで…いいのかな?」







外は大雪。
気持ちも沈み気味。
彼からは「やめとけ」っていう電話。
そして…気まずくなりたくないっていう本音。
このままの状態でいたいからって。
だから自分の気持ちにフタをしてた。
でも…それで本当に後悔…しない?






「……っ!」
無意識に受話器をとってた。
「あっもしもし日生!?私、だけど…今から行っていい?…ううん。行くから!」
『は!?ちょっとま…』
─ガチャ








気づいたら走ってた。
舞い降りる雪がなんだか日生への想いを確かめているようで







今なら分かる気がする…
あの子が日生に告白した気持ちが…















っ!」
前の方から強い声が聞こえてきたので私は思わず立ち止まってしまった。
「日生…」
「ガトーショコラなら別に学校でもいいだろ。なんでこんな雪の中…」
「会いたかったから…」
「…え?」
「これ…渡したかったから…」
震える手を抑えながらラッピングされたガトーショコラを手渡す。
「好き…だったから」
真っ赤になる鼻。
ズズッと鼻水をすすりながら私は呟いた。
雰囲気も何もないよ。
それでも…貴方に会えて、それだけで今は幸せ。
「これ…食ってもいい?」
「え?あっうん」
「パクッ…うん。うまい」
「…あ、ありがとう…///」








今なら分かるかもしれない…
フラれるかもしれない不安を抑えながら告白した彼女の気持ちが…










「なぁ…、俺…雄大の妹に告白されて断ったって言ったじゃん」
「…うん」
「あの時な、好きな人がいるからって断ったんだ」








うん。今なら分かる。
好きだという気持ちを伝えたかった彼女の気持ちが…







「誰だと思う?」
「…え?」








振り向けば、不思議そうな顔をする私とは裏腹に満面の笑みを浮かべた日生がいた。







「それは……」









彼の唇が動くとき、雪は粉雪となり私たちに優しく降り注いだ。
それはこれからの二人をまるで祝福しているかのように。