「今日人少ないなぁ…」
私は思わず独り言がもれてしまっていた。
私たちの学校から、そのまま武蔵森高等学校へと進む人は大体2分の1ぐらい。
私も透子も外部受験なんだよね(汗)
─キーンコーンカーンコーン
一限目の終了のチャイムが響いた。
確か次の授業は図書館で自習だったはず。
もっていくものは…筆箱と、英語のワークでいいかな?
そういえば透子はどこにいるんだろ?
さすがに一人で移動は寂しいもんね。
「…っち!」
「ん?ああ相ちゃん」
突然の声に振り返り相ちゃんと分かった私は思わず大きな声が出てしまった。
相ちゃんっていうのは「相田有里」のことで、二年の時透子がクラスで一番仲良かった子のこと。
透子の友達ってことで少〜し話す知り合いってところかな?
美人!ってわけじゃないけど、アクがなくって整った顔をしてる。
身長は162センチって結構高いほうなんだよね。
「どうしたの?」
「あのね、これ読んで!」
「え?手紙?うれしーい!」
「えっ?うっうん」
「ひゃー初だね!」
「あはは〜。じゃ!チャイム鳴るから!」
「あっうん。」
彼女は少し微笑み去っていった。
相ちゃんから手紙って初めてだぁ。
なんかちょっと嬉しいなぁ〜。
私はウキウキしながら手紙を開いていった。
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DEAR っち
突然手紙ゴメンね!
でも、やっぱり黙ってるのは悪いと思うから全部話すよ。
実は、あの合同体育の日から笠井君のことラブになっちゃって…。
っちは笠井君のことどう?もし今も好きだったらゴメンね!
本当にゴメンね!私最悪だよね。本当にゴメン!
―二枚目に続く―
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…………は?
何?これ?何?この手紙?え?え?
あっ相ちゃんはつまり…笠井のことが好きってことで…
え?…え?うそぉ…
私は平然を装うことができず、引きつる顔で二枚目に差し掛かった。
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あの体育の日、実は笠井君にアメをあげたの!
あっでもアメをあげたってだけだよ!
笠井君って全然女子と話さないじゃん?
だから今ね、頑張って話し掛け中なんだ〜
まっそーゆーことなんで、返事お願い!
お互い頑張ろうね!
相田 有里
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全身に小さな震えを感じた。
驚いたし、悲しかったし、とにかく何が何やらわかんない状態。
チャイムが鳴ったことにも気付かず私は、その場にしゃがみこんだ。
運良くチャイムがもう鳴り終わったせいで生徒は廊下に誰一人いなくて。
広い廊下は、私一人だけのものになってしまっていた。
相ちゃんが…笠井を?
私と…相ちゃんには差がありすぎるよ…。
私はもう一回告白しててフラれてて…。
でも彼女は違う。
チャンスがたくさんある。
笠井がもし相ちゃんを好きになったら…?
あんなに相ちゃん可愛いんだもん。
絶対好きになっちゃうよ。
たったそれだけを考えただけで、目には溢れんばかりの涙が溜まった。
"アメあげたの"
"合同体育"
あの時私にくれたアメは…相ちゃんからもらったものだったんだ?
私の知らないところで…二人は一体何を話してたんだろう?
あぁー!どうしたらいいの!?とられたくないよ〜!!
そりゃ私と笠井は付き合ったりとかしてる関係じゃないけどさ…。
あっ返事…書かなくちゃ…どうしよう…?
なんて書けばいいのよ??気にしてないよ〜とか?
私は全然気持ちとは違うことを書いた。
それが精一杯の強がりだった。
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DEAR 相ちゃん。
はぁ〜 びっくりしたよ…。
ショックじゃないって言ったらウソになる
けど、言ってくれて嬉しかったよ。
お互い頑張ろうね
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図書室で一生懸命に涙をこらえて書いた文字の一つ一つが妙に切なく感じた。
ウソばっかりだなぁ自分。
お互い頑張ろうね!だなんてちっとも思ってないくせに。
ハァ―……。
今日は楽な一日だと思ってたのに全然楽じゃないよ…。
私の生きた十五年間のなかでこんなに辛かったことは一度も無かったんじゃないかってぐらい。
今にも泣きそうな顔を廊下でそれ違う人達に顔を見られないように、うつむきながら歩いた。
この手紙いつ渡そう…。
今日はもう会いたくないよ…。
ふぅっと息を漏らした時だった。
「なんでそんなに無視するの?」
私の目の前には少し怒った顔の透子が立っていた。
「え…べっ別に何も…」
そうつぶやき追い越そうとしたとき…
「私が相ちゃんのことを黙ってたから怒ってるの?」
「え…?」
私はハッとした気分で透子の方を見た。
透子…知ってたんだ…。
そうだよね。
だって透子と相ちゃん仲がいいもんね。
なんで気付かなかったんだろう…。
なんて自分は鈍感なんだろう…。
でも…。
「違うよ!そうじゃない…」
「…え?」
相ちゃんは私が笠井のことを好きだって知ってた…。
疑いたくないけど、透子が教えたのかもしれない。
もしそうだったら…もし、そうだったら…
「ちがうから。気にしないで…」
もしそうだったら、笠井のことに関して、もう相談できない…
ホッとした透子の顔を見た私は急に罪悪感に押しつぶされそうになった。
なんだか、心と体が繋がってない。
自分で自分が分からない…。
「ごめん透子…」
そうつぶやいた私は足早にその場から立ち退いた。
明日、私はどうしてるんだろう?
透子といつも通りに接することができる?
相ちゃんに笑顔で手紙を渡すことができる?
笠井に対して…ちゃんとできるのかな?
明日、絶対に相ちゃんは笠井に話し掛けるんだろうなぁ。
笠井はどんな態度で接するんだろう?
「…笠井をとられたくないよぉ」
ボソッとつぶやくと、涙が一粒、頬を伝っていった。
「っ!起きなさい!」
「は〜い…」
どんなに辛い日があっても時間は一秒一秒過ぎていく。
昨日あったことを考えれば考える程暗い気持ちになっちゃうよ。
恋って本当に難しい。
ふと時計を見ると時刻は六時五十分。
七時四十分には透子が来る。
私…平気な顔、きっとできない。
一緒に…
一緒に行けるわけがない!
私は素早くベッドから下りて急いで制服に着替えた。
─チクタク、チクタク
時間が絶え間なく進む。
─チクタク、チクタク
いつもより早く朝食を終え。
いつもより早く歯を磨いて。
ゴメン透子…
私ね、きっと今透子に会ったらヒドイ事を言っちゃう気がするの。
疑っちゃってるから…。
私と透子の間の壁。
何も無いと思ってたから。
何でも分かり合ってたと思ってたから。
なんか自意識過剰だよね。
相ちゃんに対してすっごくヤキモチ妬いてる。
笠井のことも…
透子のことも…
「いってきまーす」
「え?まだ二十五分よ?」
「え…うっうん」
「透子ちゃんは知ってるの?」
「あ…あ〜透子が来たら朝勉強するから先に行ったって言っておいて」
「あっそうなの。分かった。いってらっしゃい」
いつもと何一つ変わらない風景。
でも何かが違う。
透子がいないから?
……
…………
一人で学校に行くって…
こんなに寂しいんだ…
─ガラリッ
教室のドアを勢いよく開けたけど…
誰もいなーい…
ちょっと早く来ただけなのになぁ…
「トイレにでも行くか…」
何の返答も返ってこない教室をあとにする。
教室を出てすぐに私は廊下の向こう側から誰かが歩いてきているのが見えた。
うーん…誰かな?
あれ?あっ!
「笠井だ……」
笠井だぁ〜!
なんかたった一日見てなかっただけなのにすごい久しぶりに見たかんじ。
嬉しいなぁ〜。
あっ昨日はどうだったのかな?
良かったのかな?
悪かったのかな?
うん。聞いちゃおう!!
「かっ・・」
「笠井君!」
私の声は一人の女の子の声にかき消され、その影は笠井の元に走っていった。
「え?」
嫌な予感がする。
だって聞いたことがある声だったもん。
「昨日どうだった?推薦だったんでしょ?」
「えっ?えっと…?」
「もう!前にアメあげたでしょ♪私の名前は相田有里っていうんだよ!」