明日から二月が始まる。
確か…笠井の入試って二月三日だったっけ?
頑張ってほしいなぁ…
そういえば…もう彼の隣の席なのもあと一ヶ月だけなんだ…
時間って過ぎるの…速いよ。
「二月って何となくあったかい感じがしない?」
「そ?昨日と変わんない気がするけど…」
私は透子の言葉に何の関心もなく答えた。
二月かぁ…
二月って言うとバレンタインだよね?
…あげようかな?
…やめとこうかな?
どうしようかなぁ。
でも私、仮にも一度はフラれた身だし(汗)
「はぁ…」
思わずため息が漏れてしまった。
「皆さんおはようございます」
先生の声がやけに響く。
「先生考えたんだけどさ、まぁ卒業も近いことだし、席替えしようか?」
―――え?
急な先生の言葉にクラスが一瞬シンと静まり返る。
まるで頭に岩が当たったかのようにズキズキ痛む。
やだ…!
私…笠井と席離れたくない…!
教室内はブーイングをする人と、賛成する人で別れていた。
私は嫌だけど…
きっと笠井は賛成なんだろうなって思う。
だってフッた相手が隣だなんて絶対にいい気はしてないよね?
でも…でも…私は離れたく…ないよ。
友達でもいいから、少しでも彼の近くにいたい。
もっと笠井のことを知りたい。
どんな些細なことでもいい。
どんな欠点でもいい。
卒業までの残された時間で、もっと笠井のことを知りたい!
お願い神様!!
「うーん…じゃあ多数決ってことでいい?」
先生は少し困惑した顔をこちらに向ける。
笠井はきっと手をあげるんだろうなぁ。
その姿、見たくないなぁ。
現に彼は私のほうを見てくれない。
ううん…一度も見ようとしてないみたい。
「じゃあ多数決をとりますね。席替えをしたい人は手をあげてください」
先生の言葉に、バラバラとみんなが手を上げだしたとき、
私は勇気を振り絞って横目でチラリと彼を見つめた。
あれ…?
うそ…?
笠井は右手で頬杖をついていた。
右手は机の上においてある…
…ねぇ笠井?
私が隣でもいいの?
私のこと、嫌ってないの?
…ねぇ、私たち、やっぱり友達以上になれないのかなぁ?
もう望みないのかな?
私、好きになってる。
あの時告白したときよりも、確実に…もっと、もっと…
「席替えしたい人は10人ね。じゃあ卒業までこの席でいいわね?」
「「「はーい!」」」
うん。決めた!
絶対にバレンタインにチョコを渡そう。
でもそれは告白とかはなしで(ぼそっ)
だってこんなに好きなんだもん。
あげるだけだったら迷惑じゃない…よね?
この、小さな…本当に小さな可能性をもう一度信じたい。
「あー…とうとう明日だ」
いつもより落ち込み気味の笠井の声が聞こえる。
「推薦入試は一般よりも早いもんね」
「はぁ…」
「大丈夫!きっと笠井なら大丈夫だって!」
「…ありがと」
彼は少し口元を歪ますと小さく微笑んだ。
それは強がりともいえるかもしれない。
ただ確実にわかることは。
彼がすごく緊張してるってこと…
明日、私たちは普通に学校があるけ、笠井みたいに高等部への推薦の人は中等部のほうには来ない。
だから今日ここで別れたら次会うときは彼の入試が終わったときなんだよね。
笠井の姿を見てると、私まで緊張してくるよ〜!
「はぁ…もう十二時かぁ」
部屋で時計と睨めっこしてた私。
時計の針は早くも十二時を迎えてる。
さすがにもう笠井は寝た…よね?
松葉寮自体すごく規則が厳しいっていってたし。
それに明日が入試だなんていったらなおさらだよね?
笠井にエールを送りたい…なぁ。
明日彼は七時に松葉寮を出るって言ってた。
さすがに朝、寮の前で待ち伏せしてるっていうのはヤバイよね。
うん。さすがの笠井も引くわ…汗
でも…
ハァ…
私がこんなに悩んでどうするんだろう…(滝汗)
―チュンチュン
「はっっ!?」
私は布団から飛び起きた。
どうやら昨日考えてるうちに寝ちゃってたみたい。
「…あっ!!」
急いで時計に目を向けると時計の針は六時五十分をさしていた。
今急いで着替えれば間に合うかもしれない。
でも…迷惑かも。
「…あぁあ!」
耐え切れなくなった私は透子の携帯に電話した。
―プルルル…プルルル…
「〜?こんな朝早くから何よ?」
「あ…!透子?」
「どうしたの?」
「実は…ね、今日…笠井の入試なんだけどね」
「うん」
「今…会って…笠井に一言…頑張ってって言いたいの」
「うん」
「でも…そんな朝早くからそんなこと言うために行くだなんてきっと迷惑だし…
でも言いたい!って感じなの!どうしよう…」
「、そりゃ自分のやりたいようにやりなよ!
自分のことを思ってくれてる人に対して嫌だなんて思う人いないよ」
「…本当に?」
「あのね、言わないで後悔するよりも言って後悔するほうが絶対にいいって」
透子の口からその言葉を聞いた瞬間…
今まで胸につっかえていたものがスーッと取れていった気がした。
「もしもし??」
プープープー…
「ったらもう電話きってるし…汗」
バタバタ!
「いってきまーす!」
「?どこに行くの!?まだ透子ちゃん来てないわよ」
「あっすぐ戻るから!」
お母さんの声を振り切って私は目の前に広がる道を走り始めた。
彼が生活している寮から入試先の武蔵森高等部までは歩いて二十分のところにある。
それまでに間に合えばいいんだけど…
「はぁ…はぁ…」
会えるかな?
いや、もう行っちゃったかも…
会いたいよ!
一言でいいから言いたいの!
頑張って!って…
はぁっ…はぁっ…はぁっ…!
白い息が止め処もなく吐き出される。
きっと髪の毛なんかボサボサでセットした意味がないぐらいだと思うし。
それでも会いたい。
「あれ??」
聞き覚えのある声が後ろからした。
少し低めで…とても落ち着いてる声。
「…笠井?」
私は祈る思いで声のするほうを見る。
「、どうしたの?こんなところで…」
笠井は同様を隠し切れない表情をしていた。
「ハァ…ハァ…あ、のね…」
言葉を必死に出そうとするんだけど、上手に言葉が出てこない。
「ハァ…ハァ……」
私は、一呼吸を置き、言葉を漏らした。
「あの…ね、一言…いいたくて…」
「…え?」
「今日…頑張って!」
「…」
「ご、ごめんね。いきなり朝やってきて」
「いや…うん。頑張ってくる」
「うん…悔いのないようにね」
「あぁ」
「……あ、マジでゴメン!じゃあいってらっしゃい!」
「ああ、いってきます」
彼は少し安堵の表情を浮かべると前を向いてまっすぐと歩いていく。
私は軽く手を振り、彼の背中を見送る。
うん。きっと大丈夫!
笠井ならきっと大丈夫だよ!
「あ、そろそろ家に戻らなくちゃ!」
私はふやけた顔を必死に戻しながら家路を急いだ。
言ってよかった…
いえてよかったぁ…