「今日の体育は三組と合同でしまーす。
というわけで、男子はグラウンドでサッカーを、 女子は体育館でバレーをしてください」
朝、先生はやる気があるのかないのかわからない口調で生徒に呼びかけた。
「女子はバレーかぁ…楽しみだなぁ!」
「って運動…って言うよりも祭りとか好きそうだな」
「…それどういう意味かなぁ?笠井君。まっ褒め言葉として受け取っておくよ」
「まあそういうことかな(笑)」
昨日の放課後。
二人には何もなかったかのように会話は続けられてる。
うん…本当にね昨日私が笠井に告っただなんて誰にもわからないと思う。
自分でさえも錯覚を起こしちゃいそうになるもん。
「まぁくれぐれもコケないようにね」
「じゃないから大丈夫だよ。もつき指には気をつけなよ」
「あはは〜(…ん?じゃないから…?)」
でも、男子は外でサッカーかぁ。
バレーは体育館だし見れないよね?
笠井ってサッカーうまいのかなぁ?
まぁレギュラー入りしてたぐらいだからそりゃ上手いんだろうけど。
…む、そういえば私、笠井がサッカーどころかスポーツをしてるところ一回も見たことないや。
私が知ってる笠井は、いつも机に向かってボーッとしてるか勉強してるかで。
…あれ?やばい…私、本当に笠井のこと全然知らない…。
友達とか言われて浮かれてたけどさ。
私…そこらの女子よりも笠井のこと知らないんだ…
なんか凹むなぁ。
「〜!」
「ん?透子どうしたの?」
「サッカー見に行こ!」
「え?でもバレーに…」
「私たちのグループの試合はまだまだだから大丈夫だからちょっとぐらい抜けても大丈夫だよ!」
「…ははぁ〜ん(にやり)」
「なによ?(汗)」
「藤代はサッカー部だったもんねぇ…。そりゃ見たいもんねぇ」
「もっもうの意地悪!でもだって見たいくせに!」
「…え?」
「顔に書いてあるよ!私も笠井のサッカーしてる姿が見たいって!」
「え!?////でも…」
「友達だったら見に行ってもいいんじゃないの?」
「いいのかなぁ…」
「いいって!」
「いい…よね?」
「よっしゃ!行こう!」
私は透子の手に引かれ、体育館をすり抜けグラウンドへ向かった。
あれ?誰もいないと思ってたのに意外に女子がいる…。
「やっぱりみんな考えてることは同じだったんだわ…」
透子の目がギラリと光った。
「でも、これだと怪しまれないでしょ?」
彼女の表情がクルリと変わると、私は黙って頷いた。
ジーッと眺めていると、ボールを支配している藤代の姿を発見した。
「あ!いた!」
透子の感激の声が上がる。
けれど私は興奮している透子をよそに必死に笠井の姿を探した。
「パス!誠二!」
大きく響く声。
いつもとは違った声に聞こえる笠井の声に私の心は大きく音を立てた。
「オッケー!行くぞ!竹巳!」
彼がボールを勢いよくけると、その先には笠井がいた。
笠井はボールを器用に動かし一人、二人、三人…と抜いていく…。
「…すごい」
ぽつりと声が漏れる。
グラウンドには…教室では見ることができない彼がいた。
笠井って本当にサッカーが上手だったんだ…。
カッコイイ…。
胸いっぱいに溢れそうなぐらい暖かい感情が湧き出てきて、
思わず顔が緩む。
「コラ〜〜!女子!ちゃんと体育館の中に入りなさい!」
突然の大声に、思わず私たちは体をビクッと動かしてしまった。
「ちぇっあんまり見れなかったね、」
「…うっうん」
…でも、すごく心は満たされてる。
見れて…良かったぁ。
「はぁ、久しぶりに体を動かしたよ」
やっぱりサッカーは楽しいなんて言いながら笠井は椅子に座った。
「ちょっとだけ笠井がサッカーしてるところ見たよ!」
その様子には笑いながら言葉を発する。
「え?本当に?」
「うん。すごいね!!サッカー上手いねぇ!本当にかっこよ…」
言葉が詰まる。
昨日告白してフラれた女が、その男に『かっこよかった』だなんて言ってもいいんだろうか…(滝汗)
「…(汗)」
うーん…と、は唸りながら俯く。
すると、彼の人差し指が血で赤くなっていることに気がついた。
「かっ笠井!?手、つーか指!どうしたの!その指!」
「え?」
彼の視線がゆっくりと下に下がる。
「…あ、さっきブロックされて倒れたときかな」
笠井の指先はスレたようになっており、少し血が滲んでいた。
「あ!」
は何かを思いついたようにいそいそとカバンの中を無造作に探し始めた。
確かここにあったはず…
…あ!あった!
「?」
怪訝そうな顔でを見下ろす。
「はい。これ、使いなよ」
と、私は彼に絆創膏を手渡した。
「…ありがとう」
「どういたしまして♪」
すると彼はさっそくその絆創膏を自分の指に巻いていく。
自分はすごく単純なのかもしれない。
彼が私のあげた絆創膏をつけてくれただけでこんなに幸せを感じるなんて…
―コトッ
「ん?」
突然私の机の上に、黄色の包み紙のキャンディが一つ置かれた。
「…え?」
ゆっくりと視線を笠井に向ける。
すると、彼は絆創膏の巻かれた指を私に見せると、
「これのお礼」
と、笑顔で言った。
ひゃぁ〜〜〜!
ど、どうしよう。
マジでうれしいんですけど…。
初めて…初めて笠井から物をもらっちゃった…!
どうしよう…
食べるのがマジでもったいない…
保存しておこうかなぁ…(恐)
「もしかしてアメ、好きじゃない?」
難しい顔をしてアメとにらみ合っている私に気づいた笠井は、少し困った顔をして問いかけた。
「え?いや、ううん。違うの!…あ、でもなんか笠井がアメを持ってるのって結構意外かも」
私はニヤニヤして呟いた。
「それはもらい物なんだよ。さっきもらったんだけど俺今は別にほしくなかったからさ」
「あ、そうなんだ。へぇ…でも、マジで嬉しいよ!ありがと!」
「どういたしまして」
「へへっ早速食べちゃおっと!」
「食い意地張ってるなぁ」
「相変わらず失礼な奴だね…」
笑う私に、笑う笠井。
今…笠井にとって私は何番目に大切な人なんだろう?