自分は笠井に恋をしているのかもしれない。
そんなことを考えながらは一人で下校していた。
そういえばサッカー部は雨が降ったら体育館で活動をしているはず。
私はバスケ部だったから見放題だったのに…
なのにあの時は全然見ようともしなくって。
はぁ、なんで引退する前。
ううん、それよりももっと早くに笠井のことを好きにならなかったんだろう?
笠井のことを考えると、胸の辺りの鼓動が速くなっていくってわかる。
残り二ヶ月で、私の心はどう変わっていくんだろう…?
「…あ」
誰かが声を漏らした。
「ん?」
それに気づいたは無意識に顔を見上げた。
「…かっ笠井!」
そう。笠井が立っていたのだ。
「なっなんでここに!!?」
「いや、体がなまってきたからランニングしようかと思って…」
「そっそうなんだ」
確かに、笠井はウインドブレーカーを着てる。
実は笠井の制服以外の姿をまじまじと見るのは今日が初めてだったりする。
今まで体育の時間も意識とかしてなかったし。
また彼の知らない一面を知ったみたいで。
すごく嬉しい。
「あっそういえば今日アンケートがあったね!」
「あぁ。そういえばあったな」
「あれにさ、怒ったら恐そうな人っていう項目があったの覚えてる?」
「え?うん」
「あれね、あとでこっそり冊子係の人に見せてもらったんだけど、結構票が入ってたわよ」
「え?誰に?」
「笠井…あんたのことよ(笑)」
「は!?マジで!?」
笠井はそう言うと少し怪訝そうな顔をした。
その瞬間…私はDの問題が頭によぎった。
"あなたの好きな人は?"
笠井は誰を書いたんだろう?
もしかして…私?
なーんて…あるわけないよね(あはは…)
でも…ひょっとしてひょっとしたら。
「ねっねえ、笠井」
「ん?」
「あのね、笠井は…私の名前を書いたところある?」
「え?…あるよ」
その言葉を聞いた瞬間…
私の鼓動はより一層速くなっていった。
「なっ何の項目?」
私は平然を装いながら問いかけた。
もしかして…
もしかして…
ひょっとしたら?
千分の一の可能性。
"向こうもに気があるんじゃないの?"
透子の言葉がリピートされる。
「えっと…」
私の全神経が彼の言葉を逃さないように敏感になる。
止まらない鼓動の高まり。
徐々に赤らむ顔を必死に隠そうとする。
そして笠井が口を開いた。
「Aの気軽に話せる人ってところ」
サーッと熱い熱が冷めた。
「…そう…なんだ」
「はさ、俺の名前を書いたところあるの?」
「え…?」
「のことだから怒ったら恐い人ってところにでも書いたんだろ?」
口の端を少しだけ持ち上げて彼が笑う。
その姿がなんだかとても切なくて。
私は言葉を発してしまった。
「違うよ…」
「…え?」
笠井は言葉を止め、首を傾げる。
「Dの…ところだよ」
自分が何を言っているのか分からない。
なんでこんなことを言っているのか。
理解ができないけれど、言葉は簡単に漏れてしまった。
「…Dって…」
彼はそう言いかけると、
途中でハッとした表情になり俯いた。
…沈黙が流れる
「俺…のことはいい友達だと思ってるから、こんなに仲良くなって、
それに加えてまだ仲良くいたいって思ったのはだけだから」
沈黙を破ったのは笠井の方だった。
彼はスウッと息を吸い込むと、また言葉を続けた。
「だから、友達でいよう?」
まるで目隠しされたかのように目の前が真っ暗になった。
やっぱりこれってフラれたんだよね?
私…今、フラれたんだよね?
でも…
でも、彼は私のことを友達って言ってくれた。
クラスメイト以上に思っててくれたんだ。
うん…
それでいいじゃない?
うん…
まだ発覚して間もない気持ちなんだし、すぐに忘れられるよ。
友達…か。
大丈夫だよ。
うん。大丈夫。
友達以下になるんだったら、友達のままがいい。
「うん。突然ごめんね。変なこと言っちゃって」
「…」
「ちょっと黙らないでよね!忘れて、本当に。…うん。友達…ね!」
「うん。友達…がいい」
笠井は罰が悪そうな顔をした。
そんな顔は見たくなかった。
だから私は笑った。
「うん。友達ね!」
あえて明るく振舞って。
私は泣かなかった。
涙は出なかった。
「じゃあ俺、行くな」
「うん。頑張って」
走り去っていく彼に手を振りながら私はその背中を見送った。
友達…かぁ。
まだ話し出して間もなかったしね。
しょうがないのかもしれない。
明日学校で会ったら…
うん。今までどおり友達で!