卒業してから何度も、何度も夢を見た。
笠井と笑いあってる夢。
けれど現実は厳して高校に入学してからは一度も会うことはなかった。







それなのに…







「知り合い?」



どうしてこんな形で再会してしまったんだろう?








?」
設楽君は笠井の顔をジロジロと見ていた。
「え?ああオレはの中学時代の友達」




─ズキンッ




「そっそう友達…」
笠井につられて続く言葉。
「ふ〜ん…そう」
少し不機嫌そうな設楽君。
、さっさと戻ろ」
グイッと彼は無理やり私を引っ張った。
「ちょっちょっと…痛いっ」
あまりに強引に引っ張る彼の力はシャレにならないくらい強かった。
…嫌がってるじゃん…」
笠井は設楽君の手を強い力で払いのけた。
「かっ笠井…?」
ムスッと設楽君をにらみつけてる笠井。
なんかしばらく見ないうちに…
かっこよくなってる。





「なんだよ。彼氏がいるなら来なかったらいいんだよ!」
設楽君は足早に去っていった。









「…」
…今の奴と付き合ってるの?」
「…えっ!?違うよ!」
「そう」
「…」
どうしよう…言葉が出てこない。















「あ!竹巳見つけた!」



―え?


「あぁゴメンゴメン有希」



―え?



笠井を目指してこっちに走ってくる女の子。
髪はセミロングで…服は武蔵森の制服…






「もう!急にいなくなるからビックリしたじゃない!」
「ゴメンって(汗)」















これが…





―笠井の奴にしては上玉じゃねーの?





これが三上先輩が言ってた…彼女?







目がパッチリしてて、クルクル表情の変わる、とっても元気で可愛い女の子。
「この子誰?」
「え?ああ中学の友達の
「へえ〜さんかぁ。いつも竹巳がお世話になってます」
「あ…どうも…」
すると彼女は私のほうへ向かってきた。
「ねぇ本当にさんと竹巳ってただの友達なの?」
笠井に聞こえないくらいの小さな声で囁く。
「え?そうだよ」
「そっかぁ〜」
「あなたは…えっと…笠井の彼女?」
「え!?違うわよ!!」
彼女は目を見開いて否定した。
「え?」
少しホッとしてる自分がそこにはいた。
「でも…竹巳が好きよ!皆からカップルに見えるってもう言われてるんだけどね!
まぁ後は竹巳の言葉次第ってところ」
「そっそうなんだ」
どんどん下がっていく私のテンション。
すっごく辛いのに…すっごく悲しいのに…。
涙が出てくる気配はなくって。
ただ、今は胸に大きな穴が開いてしまった感じ。
「ねぇそろそろ行こうよ」
「あ?あ〜…オレはここで帰るよ」
「え!?」
「じゃあな」
そう彼女に告げると、笠井は…
「もう帰るんだろ?一緒に帰ろうか?」
と、私に優しく囁いた。
「…」
どうしよう。
すごく嬉しいのに…
けど…けど、
「好きでもないのに…優しくしないで…」
涙が出るのを押さえ、歩き出す私。
せっかく久しぶりに笠井に会えたのに…全然幸せじゃない…!
胸には"イタイ"…この一文字だけ。
「おい!ちょっと待てよ
「…だめだよ笠井。彼女がいるのに友達を優先するなんて」
「…」
「有希さんだっけ?可愛い人だね。明るいし、さっぱりしてるし…」
「…」
「ほんっと笠井にはもったいないよ。」
「彼女じゃないよ」
「だったら…だったら何で一緒にいるの?」
「有希は女子サッカー部で…部長に買出しに行ってくるように言われて、スポーツ店に付き合ってる最中だったんだよ」
「私に言い訳しなくてもいいよ」
「なっ…」
「ただの…中学の友達ってだけなんだし…」
「…」
「別にテレなくていいじゃない。友達なんだから自慢とかすれば…」
「だからアイツはそんなんじゃ…」
ふっと会話が止まった。
一体なんでこんなに言い合ってるんだろ?
これじゃまるで…
「オイオイこんなところで夫婦喧嘩かよ〜」
若い男の人がヤジをとばしてきた。
「…っ」
やだ…これじゃあまた中学の時と一緒じゃない…?
「…とにかく誤解しないでくれよ…」
そういうと、笠井は歩き去ってしまった。







どうしてあの人は私の心に入ってくるんだろう…
笠井は…私がまだ笠井を好きって分かったのかな?
分かったよね?
あんなにヤキモチ発言しちゃったし。
あーあ…何でこうなっちゃうんだろう…?
「…ひっく…ひっく」
なぜか急に涙が溢れた。
この二ヶ月充実してたよ。
でもなんだか心の満たされない毎日だった。
なんで相ちゃんみたいに忘れることができないんだろう?



─ガサガサ…



私は鞄からキーホルダーを取り出した。
小さなクマのぬいぐるみ。
これは笠井のホワイトデーのお返し。
高校に入ってから、これをお守りかわりにしてた私。
この時点で私がまだ笠井をふっきれてないってバレバレだね。












私はクマをギュッと胸に当てて抱きしめた。





―これからどうすればいいの?





学校も離れてるのに、本当に未練たらしい。









…ん?
なんか前の方がガヤガヤしてる。
一体何?何事?







「あっちょっと通して下さい」
「え…?」
聞き覚えのある声。
すると目の前には先ほど別れたはずの笠井が現れた。




「…なんで?どうし…」
「…ハァッハァッなっなんで泣いてるんだよ」
「え?」
彼は私の頬に手で触れた。
にとってオレは…何なの?」
「は!?何よ!急に…」
「友達?」
「…友達」
私はそうつぶやくと、コクンとうなづいた。
「オレ…っハァッハァッ」
真剣な顔で直視する彼。
そらせないよ…。心臓がドキドキしてる。
「オレ、のこと…好きみたい…なんだけど…ハァハァッ…」
「え…?」






え?今…笠井は…何て?
「高校に入ってからずっと考えてたんだ…。
クラスでも話したいと思う女子はいないし、帰り道でもを探してるし…」
「でも…有希さんと親しかったじゃない!」
私は思わずムキになって問いかけた。
「うちの部活は先輩も後輩も下の名前で呼ぶのが規則なんだよ!」
「うそだぁ…」
「いやっオレも好きって確信したのは…ついさっきだし…」
「え?」
「…さっきの男がのこと…""って呼んでた時…腹が立った…」
「……」
「今まで…女友達って言い続けてきたけど、もうダメみたいだ…」
「…」
「…はもう好きな奴とかいる…の?」
「いるよ…」
「…そう…だよな…」
沈んでいく笠井の顔。
バカ笠井!!
そんなの誰か決まってるじゃない!!
ずっと…ずっと前から…
「ごめん…いきなりこんなこと言って…」
そう言うと彼は背を向けて歩き出した。
「え?ちょっちょっと待って…」
静かに振り返る笠井。
「バカ!気づきなさいよ!」
「…え?」
「今も昔も好きなのは笠井一人だけだよ!好きでもないのにこれを大切に持ってるわけないじゃない…」
そう言って、私はクマのキーホルダーを彼に見せた。
「それ…」
笠井は私の指差すソレに気がつくと、安心したように微笑んだ。





変わらなかった想い。
終わらなかった私の想い。
けどあなたへの想いに気付いてよかった。
「ホントに?」
びっくりしてる…笠井…
「こっこんなことでウソなんてつけないよ!」
どうしよう…また涙が出てきちゃった。
「ずっと…ずっと忘れられなかったぁ…」
やだ…涙が止まらない。




笠井が一歩…二歩と近づいてくる。



─ポンッ



彼の手が私の頭をなでる。
「ごめんな…もっと早く気付けば良かったんだよな…」
「でも…嬉しい…嬉しいよ…!」
止まらない涙。溢れ出るあなたへの想い。
「オレも嬉しいよ」
すると、彼は優しく私を抱きしめた。
人ごみの中で抱きしめあう私達。
けれど、なぜか恥ずかしいとは思わなかった。
互いの鼓動。二人とも…すごく脈が速いや。
笠井も緊張してるのかなって思うと、もっともっと嬉しくなった。
「絶対ずっと片思いだと思ってた…」
今だ涙が止まらない私に彼はつぶやいた。
「大丈夫だよ…」
今まで聞いたことのないくらいの優しい彼の声。
が好きだよ」
きっと…私、今一番の幸せ者だ。
二人はやっと結ばれた。








遠回りした二人の時間を二人で少しずつ埋めていこうね?