新しい恋愛をしよう。
それが私の高校入学後、初めての目標に変わった。

















っち!」





一番端の廊下から走ってくる一人の女の子の姿。
「どうしたの?相ちゃん」
「ん?へへ。ちょっとお誘い!」
「え?なになに?」
「っとその前に、っちは今好きな人はいるの?」
「え?」
急な相ちゃんの質問に心はドキッと呼吸した。
けど、頭には誰も浮かばない。
というより、浮かんだその人をすぐに頭の隅からかき消した。




「今は…いない…けど?」
「あ〜よかったぁ!だったら次の土曜日にね上水高と合コンしない?」
「え!?合コン!?」
「そう!バイト先の人でね、上水高の人がいるんだけど盛り上がっちゃって…」
もう彼女の顔に笠井のことが好きだった時の要素は一つも残っていない。
もう忘れちゃったのかな?
相ちゃんは…もう笠井のこと…何とも思ってないのかな?
高校に入って…ううん、あの日以来笠井に会ってないなあ。
そう…二ヶ月会ってない。
結局麻衣に付き合ったときも会えなかったし。












でも…



やっぱり笠井がいなくても確実に時間は進んでるね。
向こうは私のこと、もう忘れちゃってるかもだし。







「で、っちは来れる?」
少し上目遣いで手を合わせてる相ちゃん。
「うん。大丈夫だよ。」
「ホント!?やったぁ!」
「ねえ…あっ相ちゃん」
これは中学を卒業して以来ずっと胸につっかかってた気持ち。
でも言えなかった。言う機会もなかった。
「ん?なぁに?」
上機嫌の相ちゃんの顔。
「笠井のことは…もうふっきれたの?」
「え?」
一瞬相ちゃんの顔から笑顔が消えた。
けれどすぐに彼女の顔は明るさを取り戻した。
「当たり前だよ!っちは?」
「え?うん私も!」
この言葉にウソはない。
もう新しい恋をしても大丈夫な気がする。






























─土曜日の朝





っち〜お待たせ!」
「あ!相ちゃん!」



…。
相ちゃんってば私服になるといつもと雰囲気が変わるタイプだよね。
髪の毛は下ろしてて(いつもは二つ結び)
服は白いワンピース(お嬢様風な感じ)




「相ちゃん、私服色っぽいね〜」
真剣な顔をしてつぶやく私に、
「え!?なっ何??いつもはどうなのよぉ!」
と、取り乱しながらも顔を赤くして反抗する相ちゃんはヤケに可愛い。
「えっと場所ってあそこのカラオケだっけ?」
「うん、そうだよ」
すると、もうカラオケの前には男の人が三人立っていた。
「あ!有里ちゃん!」
「あっ鳴海君こんにちは!」
その中の背が高くて髪の毛の長い男の人はこちらに走ってきた。
「どーも、え〜と…」
「あっ です」
「あー、オッケー。俺は鳴海高志よろしくな」




…。
なんか変な感じ…。
こうやって皆、友達の幅を広げてるんだろうなぁ。
「じゃあ俺のことは有里ちゃんと同じで鳴海君でいいぜ」
「あっうん。私は…何でもいいよ」
「え?じゃあ!っていうのもアレだし、そのままって呼んでもいい?」






""!





「え?うっうん」
…かぁ。
笠井は私のことって呼んでたよね。



─トクン



なんか変な痛みが心の中で走ってる。






「じゃあ紹介するぜ」
と得意そうな口調で鳴海君は言った。
「こいつが唐重秀。秀って呼んでくれ」
秀という人は、スポーツ刈りで、色黒さん。身長は…170センチあるかどうかって感じ。
「で、こいつが設楽兵助。こいつは設楽…の方がいいかもな」
「どーも」
この設楽君っていう人は髪の毛はサラサラしてて、結構な無表情な人。
けど、この三人だったら設楽君が一番いいかもしれない。
なんか、この雰囲気がいい。
「じゃあ中に入ろうか?」
相ちゃんが言うと、皆はゾロゾロとボックスの中に入っていった。
「じゃあ俺、歌います!」
マイクを一番に取ったのは鳴海君。
「何か食べたい物ある?ジュース頼もうか?」
色々と気を使ってくれてる秀。
「…」
ボーッと歌本を読んでる設楽君。
すると、コソコソと相ちゃんは私につぶやいた。
「どう?気に入った人いた?」
「え?う〜ん…」
設楽君のことは気になるけど。
まだ目に入るって程度だしなぁ。
うーん言うべきか…言わないべきか。
「相ちゃんはどうなのよ?」
思わず会話を相ちゃんにふっちゃった。
「ん?んー…」
「もしかして鳴海君?」
「え?なんで分かったの?」
「ん?なんとなく〜」
「え〜っちスゴーイ!」
「有里ちゃんとも何か歌いなよ!」
と、噂の鳴海君は言ってきた。
「相ちゃんならイケるんじゃない?」
「え?本当に?」
相変わらず恋をしてる時の相ちゃんは可愛いな〜!






「あのさ、私…思ったんだけどね。」
相ちゃんは今まで気にしてた…という風な感じでつぶやいた。
「どうしたの?」
「あのね…」
言葉を出さない相ちゃん。
ん?もったいぶってるのかな?
「ん?」
「あの…設楽君って人…」
「え?設楽君?」
急に設楽君の話だと分かった私は興味津々になってきた。
「か…」
「か?」
「…笠井君に…似てない?」
「…え?」
「ううん似てる!」
「えっ?か…顔とか髪型とか全然違うじゃん?」
「ううん。雰囲気がそっくり!!」
「…」
どうしよう…言葉が出ない。
私が設楽君に惹かれてたのは…やけに目がいったのは…
全部…笠井の面影を追ってたから?
もしかして…もしかして…
私…まだ…あの人のこと…好き…なの?
やっぱり…ダメなのかな…?
もう二ヶ月も会ってないのに…?
あの人の全てを無意識のうちに探してる自分がいる。





「ごめん相ちゃん…私帰る…」
「え!?っち!?」







─ガタン!!



急に立ったせいかイスの音は思いのほか大きかった。





「え?どうしたんだよ?」
呆然としてる鳴海君。
「ごめんなさい…」
そう言い残すと私はボックスから急いで出て行った。








ダメだよ。
こんな気持ちじゃ…全然ダメ!
笠井のこと全然忘れてない!
彼女ができたから…
二ヶ月も会ってないから気持ちは消えたんだって思ってた。
でも全然忘れてないじゃない…!
今あの人がどんな生活をして、どんな人たちと会話してて、
どういう出会いをしているのかも分からないのに…。






!」
突然後ろの方から声がした。
ゴチャゴチャした人ごみの中…必死に人ごみを駆け抜けてる人。
「し…設楽君…」
「どうしたんだよ?一体」
と、グイッと彼は私の腕をつかんだ。
「あっごめんなさい!」
「フーッ…」
静かに漏れるため息。
明らかに呆れてるって感じ。
「謝るんだったら戻ろ。男三人対女一人じゃ成り立たねーもん」
「…」
なんか…やだ…その言い方。
「やっぱり私行けない。」
私は設楽君の手を振りほどき、人ごみの中に入り込んだ。
「ちょっと待てよ!」
やだっやだ…
こんなのじゃ恋愛なんて出来ないよ…!






─ドンッ






あまりに無我夢中だった私は人にぶつかってしまった。
「ごっごめんなさい!」
すると同時に後ろからポンッと肩に手をおかれ、
…足速い…!」
と追いかけてきた設楽君はつぶやいた。
「…」
どうしよう。
もう合コンなんてやりたくないのに。
「…」
すると、ぶつかった人がこちらを見ていることに私は気付いた。
「え…?」
思わず顔をあげしまう。見覚えのある顔。
…?」
…え?…うそ。
だって二ヶ月の間、一回も会わなかったんだよ?
うっうそだ…
じゃあ目の前にいるのは誰?
髪も伸びてるし…
ブレザーの色も変わって少し大人っぽくなった気がする…。
少し身長も伸びた?






「笠井…」



でも目の前にいるのは紛れもない笠井竹巳だった。