卒業して1ヶ月が過ぎた。
新しい制服。
新しい学校。
新しい友達。
毎日が新鮮な日々。
少しずつだけど友達もできてきた。
女子高って女の子ばっかりだから、結構面倒くさいのかなって思ってたけど全然そんなことなくて!
むしろ中学の時よりサバサバしてる。
私はまたバスケ部に入ったし、麻衣も弓道部に入ったの!
麻衣ったらやっぱりもう人気者なんだよね!
"カッコイー"って女の子から言われてて(笑)
そのモテモテっぷりは中学のときの渋沢先輩とか三上先輩とひけをとらないぐらい!
でも麻衣は嬉しくないみたい。
いつも私に助けを求めてくるの。
「〜!またクッキーもらったよ〜」
「いいじゃん!ラッキーじゃ〜ん!」
「嬉しくない〜!私、女の子だよ!」
麻衣とも中学より仲良くなってなんか嬉しいんだよね。
「っち〜!おはよう〜」
「あ!相ちゃん!」
相ちゃんも補欠だったけど無事合格してたんだよ。
こんな風に日常が過ぎていって。
中学の記憶が薄れていくのを改めて感じる。
「あ、。今日暇?」
麻衣は少し顔を苦くしながら問いかける。
「なんで??」
「実は今日、武蔵森の弓道部の先生のところに行かなくちゃならなくて。
でも一人じゃ心細いからさ、ついてきてほしいんだけど…ダメ?」
「…え?」
少しだけ…胸がきしんだ。
理由はわからないけれど、なんだか一瞬だけ胸が苦しくなった。
「うん。いいよ」
「良かったぁ。ありがとう!」
麻衣は安心しきったように笑いかけた。
その笑顔を見たら、何に不安を感じてたのかわからなくなっちゃったよ。
「じゃあ放課後に迎えにいくね!」
「うん」
麻衣はそういうと、廊下をパタパタと走り抜けていった。
は麻衣の背中が見えなくなるまで小さく手を振る。
武蔵森の高等部と中等部は同じ敷地内ではあるけれど、少し離れている。
何気に高校のほうに行くのは初めてだったりするから少し楽しみかも。
…笠井も…いるのかな?
胸の中で一番つっかかってたことを思い出した。
…ま、あんまり期待しないでいよっと。
放課後がやってきた。
「懐かしいねぇ!ここの道」
「うんうんっ!」
本当に懐かしいや…
まだそんなに月日はたってないっていうのにさ。
「じゃあ、私は用事が終わったらすぐに戻ってくるから、このあたりで待ってて」
「うん。わかった」
高校の敷地内に入った後、麻衣はそう言うと校舎の方へ走っていった。
やっぱり高校は中学の方と違って、少し大人っぽい感じがする。
ここで…藤代も…そして笠井も生活してるんだ…。
「あれ?じゃねーか」
「…」
聞き覚えのある声がする。
少し低くて、皮肉めいてて…。これは、
「ひ、人違いですよ。で、では私は…」
「この俺様のことを忘れられるわけがないだろうが(ニヤリ)」
「なんでそーなるのよっ!」
あ…しくった。
思わず振り返っちゃった(滝汗)
目の前には予想通りニヤニヤした三上先輩が立っていた。
何気に顔見知りなところが痛い。
中学のとき、私は美化委員に入っていた。
それも一年間だけ。
そのとき三年の委員長だったのがこの三上先輩だったってわけだ。
あー…テンションが下がる…(酷)
「久しぶりじゃねーか。お前元気でやってたのかよ?」
「あー、元気ッスよ。三上先輩はどうなんですかー?」
半ば投げやりな問いかけ。
っていうよりもむしろ投げやり…みたいな?
「お前相変わらず変わってねぇな〜(汗)」
「そりゃどうも」
ってちょっと待てよ。
ここに三上先輩がいるってことは…
「三上先輩って今もサッカー部ですよねぇ?」
「あ?それがどうかしたのかよ」
「いや…ふっ藤代とか元気にしてるのかなぁって思って」
「あー…あいつは相変わらず元気にやってるぞ」
「そっかー…」
「変わったことっていったら…あ、あいつに彼女ができたぞ」
「あいつ?」
「そ。笠井」
「…え?」
一瞬、は目を見開いた。
三上が何を言ってるのか一瞬分からなくて。
声を上げてしまった。
笠井に…彼女ができた?
うそ。
三上がにくったらしいのはいつものことだけど。
こんなことで嘘をつかないことぐらい知ってる。
だから余計にびっくりしてる自分がいて。
表情は固まったままでいた。
「っていってもまだ友達以上恋人未満って奴だけどな」
「…そ、そうなんですか」
「どうしたんだよ?急にシュンとなりやがって」
「っ!?」
「…?どーかしたか?」
「な、なんでもない。みっ三上先輩はさっさと部活に行けば?そうよ!こんなところで何してんのよ」
「うっわ…冷てー奴(汗)」
「お待たせ…ってあれ??」
麻衣は三上先輩の顔を見て明らかに動揺していた。
別にそれは恋愛感情ってわけじゃなくって。
中学校のときかなり人気のあった先輩だったからだと思う。
確かにそんな男と私が一緒に話してたら驚くよね…(苦笑)
「じゃ、私帰りますね」
「あ?ああ」
「…三上先輩」
「なんだ?」
「笠井の彼女って可愛いですか?」
「…え!?」
私の言葉に麻衣は声を上げる。
「結構な。あいつにしてはかなりの上玉だと思うぜ」
三上先輩はいつものようにニヤニヤと笑っていた。
「…そうですか」
なぜかフッと乾いた笑みが漏れた。
「笠井と藤代によろしくって言っておいてください。じゃ、また」
精一杯の笑顔を彼に向ける。
「じゃーな」
三上先輩も笑っていた。
「ちょっと…!さっき言ってたこと本当??」
少し早歩きになってる私に合わせて麻衣が問いかける。
「らしいよ。なんか変な感じだよね」
「…?」
「私ばっかり、まだ…笠井のこと…気になってたんだね…」
卒業して二ヶ月、
私の周りの風景はすっかり変わってしまったけれど。
まだ心のどこかで期待していた自分がいて。
それが余計に悲しくなった。
「バカだよね。もう会うことなんてないのに…なのに…」
こんなにショックだなんて知らなかった。
彼に好きな人ができるってことが。
こんなにショックだったなんて…
「…私たちまだ始まってもないんだよ。だから…これから頑張ろう」
「麻衣…」
彼女なりの優しさが心にしみて、少し涙が目を潤ませた。
「うん。これからだよね」
「そうだよ。これからだよ!私たちまだ高校に入学して一ヶ月しか経ってないんだから!」
「そうだよね…」
彼女のほうを向くと、夕日が大きく傾いていて。
すごく綺麗だった。
何故かそれが私のことを慰めてくれてるような気がして…
少しうれしくなった。
そうだよね。
私たちはこれからだよね!