今日はドッキドキの合格発表!
なんだけどなぁ…
「はぁ…」
ため息を一つ。
そういえば笠井を好きになってから極端にため息の回数が増えた気がする。
まぁそれだけ笠井のことが好きだったってことだよね。
「いや〜〜〜!目が腫れてる!」
顔を洗おうと、ふと鏡を見ると腫れてる私の目。
ぶっさいくー!!
「あぁ!早く冷やさないと…」
私は急いで濡れたタオルを目の上に乗せた。
こんなに泣いたのは何年ぶりだろ?
こんなに好きって思える人に出会ったのは初めてかもしれない。
今は後悔しか残らないけど…
好きでよかった…好きになってよかった。
片思いだったけど…忘れないよ。
この胸の痛みも、この涙の数も。
その全てが今は私が笠井を好きだったっていう証拠になってる。
あと少しで家を出なきゃね。
麻衣との待ち合わせまであと一時間。
それまでには目の腫れも心の腫れもひいてるといいな。
─パタパタパタ
「ごめん遅れた!」
申し訳なさそうな麻衣の顔。
「いいよいいよ!遅れたっていっても三分くらいなんだし」
いつもよりボサボサ頭の麻衣。
ちょっと表情も暗い気がする。
「大丈夫?麻衣…」
「え!?平気平気…」
そうだよ…今日は合格発表なんだ…
もし…どっちかが落ちてたらどうなるんだろう?
ダメダメ!
こんなこと考えてちゃ。
精一杯の努力はした。
笠井だって応援してくれた。
大丈夫、きっと大丈夫だから。
「ねぇ」
「ん?なぁに?」
「…笠井にボタンとかもらったの?」
「…え…?」
─ズキッ
また心の傷が荒れだす。
私は横に首を振った。
「…そっか…」
彼女はそれ以上は何も言わなかった。
優しいな麻衣は。
透子とは違う優しさを持ってる。
「…着いたね…」
「うん…」
ゴクリとつばを飲む二人。
桜女子は緊張に包まれていた。
「まだ張り出されてないね」
ホッとしてるような麻衣の声。
私も少しホッとした。
えっと受験番号は…241…
占いの中に『受験番号が3で割り切れたら合格』だなんて書いてある本があった。
241を3で…
わ…割り切れないし…
別に占いを気にしてるわけじゃないけど…
ちょっと気になっちゃうよ。
緊張する〜〜!!
─ガラガラガラ
皆の緊張感が最高に達しているとき、
桜女子の先生と思われる二人が合格発表の紙が貼ってあるボードを運んできた。
「来たよ!」
いつになく強張ってる麻衣。
一斉に生徒がボードに向かって歩き出す。
「行こ」
私がそう言うと麻衣はうなずいた。
たくさんの人たちの列。
ボードから4番目あたりで私と麻衣は受験番号をチェックする。
241…241…241…
ドキドキする。
心臓の音が自分にも聞こえるくらい緊張してる。
231…232…235…236…
ボソボソと頭の中でつぶやく私。
237…238…240……241…
―え!?
「あ、あったぁ…」
思わず受験票を握り締める私。
手には一粒の涙。
はっと気付き隣の麻衣を見た。
麻衣の顔…呆然としてる。
どうだったんだろう…?
「〜」
彼女はいつになく気の抜けた声だった。
「あっあったぁ〜!」
「やっやったー!!」
二人の顔から笑みがこぼれる。
抱きしめる手にもつい力がはいっちゃう。
いつもは強そうな麻衣にも涙が光る。
「本当に良かった〜」
もう言葉がそれしかでてこないよ。
麻衣にはもう暗い顔は一つもなかった。
やっとスッキリしたぁ!
受験がようやく終わった気分。
…そういえば。
相ちゃん見てない…よね?
どうしたんだろ?
もう帰っちゃったのかな?
…受かったのかな?
「相ちゃんどうだったのかなぁ?」
「え?相ちゃんって相田さん?」
「うん。今日見てないからさ…。」
「…さっき見たけど…滑ってたぽいよ」
「え!?」
「なんか泣いてたし…」
「そうなんだ…」
相ちゃんダメだったんだ…
ふと、私の目には…いつもニコニコと笑っている相ちゃんの姿が浮かんだ。
「それじゃ、今度は入学式で!」
「うん、バイバーイ」
桜上水を出て、麻衣と別れ家路へと向かう。
あっお母さんに早く報告しなくちゃ。
きっと心配してるよね。
やばい!やばい!急いで帰ろっと。
そういえば透子はどうだったのかな?
帰ったら電話してみなくちゃね。
ん?
あれ?
あれれれ?
家まであと数十メートルという時、家の前に誰かが立っていることに気づいた。
なんだか見たことがあるシルエット。
って、あれは…かっ笠井だ!
なっなんで!?なんで!?
なんで笠井が…私の家に…
彼の顔を見た瞬間…
昨日のことを思い出した。
─ズキンッ
心が悲痛に叫ぶ。
体中はひび割れそうなくらい振動を起してる。
私に気付いた笠井が私の元まで走ってくるのが分かった。
「どうだった?」
「え…?」
「合格発表だよ!合格発表」
「え…うっうん。大丈夫…だった…」
「そっか」
「何か用…?」
「いや、これだけ…聞きたくて」
「…え?」
「じゃあな」
「えっちょっと、まっ待ってよ!」
思わず引き止めちゃった私。
「ん?」
「い…いつから…私を待っててくれたの?」
「え…?」
「…」
「一時…くらいから…」
いっ一時!?
ってことは笠井は一時間私を外で待ってたの?
「バッバカ!何考えてるのよ!」
すっごく嬉しい…けど…けど…
「寒かったでしょ!これ使って!」
私は今まで持っていたカイロを笠井に手渡した。
予想以上に冷たい笠井の手。
「風邪でもひいたらどうするの!?」
「ん、ああ。ごめん」
「「…」」
「…昨日…ゴメン…ね」
私は思い出したくなかったことを口にした。
「ん…ああ、間宮はよくからんでくるから…」
「そうじゃなくて…」
「え?」
「今まで…」
「…」
「今までしつこくしちゃってゴメンね」
「…」
何も言わない彼。
難しい顔してる。
でも私はいつもよりスラスラ言葉が出てくる気がする。
「でもね、もうちゃんと、ちゃんと笠井のこと忘れるから!」
「…」
「だから次会う時は…」
ぐっと詰まりそうな声。
次、会う時、か…。あるのかな?そんな日…
「お互い…笑顔で、友達で、ね?」
文法がバラバラになる言葉。
「…ああ」
すると、笠井は急に手に持っていた鞄の中を探り出した。
「…?」
「これ…早いけどホワイトデー」
「え?」
彼の手にはお店で施された可愛い包みがあった。
「え…?」
「バレンタインのお返し…」
「…あっありがとう!」
ちゃんと覚えてくれてたんだ…
「…ん…じゃ」
「えっうん。バイバイ…」
元来た道を帰っていく笠井。
なんだかもどかしい。
「笠井!」
びっくりして振り返る彼。
「高校!お互い頑張っていこうね!」
「ああ!もな」
手を大きく振る。
彼の背中が見えなくなるまで…
これが最後だから。
本当に本当の最後。
サヨナラ笠井。
大好きだった人…
「さよなら」
ちょうど彼の背中が見えなくなったとき、小さな粉雪が私に降り注いだ。
「雪だ…」
もう降らないって思ってた…
だってもう三月だよ?
まるで…二人のそれぞれの道を祝福してるみたいだね。