「お前まだ笠井のこと好きだったんだ」



間宮は口の端を持ち上げながら、確かにこういった。







―え!?




声になんてならない…
今、私どんな顔してる?



「なっなんで知って…」
「は?クラスのやつなら、み〜んな知ってるぞ」




うそ…どうして…?
皆知ってたの?




「おまえも懲りないよなぁ…ククク」
「…っ!」
びくっと反応する体。
いつもなら言い返してるはずなのに…
頭の中が混乱してて…
言葉が…言葉が出てこないよ。





「おまえ何回フラれたんだよ?」
「!!」
ますます面白い物を見つけたような間宮の目は光を増していった。
「十回?」
「なっ!!」
間宮に言ってやりたい!
"あんたには関係ない!"って。
でも心が…心が…
まるで糸が絡まりあってダマになってるみたいに言葉が出てこない。
「名札までもらったのかよ?笠井もいい奴すぎるよなぁ」
カァッと赤みを帯びていく顔。
なんで間宮にここまで言われなくちゃいけないの!?
「でもよかったな〜笠井。もうつきまとわれなくなったな」
ポンとからかいながら笠井の肩の上に手をのせる間宮。





「!!?」





もう此処に居たくない!
恥ずかしすぎて死んじゃいたい!







「いらないよ!こんな物!」
私は恥ずかしさのあまり、名札を笠井に投げつけてしまった。
「…っ!」
彼はなんとも言えない顔でこっちを見てる。
おさまりつかない思い。
まるで今まで大切にしてきた想いを全部否定されちゃった気分。
「もう卒業だもんね!?二度と私に会わなくていいもんね!」
「…っ…?」
「どうせ笠井もせいせいしてるんでしょ?」
どうしよう言葉が止まらない。
「あっオレはこれで…」
間宮はさっさと靴を持って何処かへ走り逃げていった。




「…ねえ笠井…友達…だなんて。私は一度も笠井を友達と思ったことなんてなかったよ…」
ポトリと涙が頬を伝う。
「でもそんな日々も今日で終わるね…」
「…」
「相ちゃんと仲良くね」












私は走り出した。
真っ赤な顔で。
涙の止まらない顔で。
右手には朝、バスケ部の後輩からもらった小さな花束。
きっと他の人たちから見れば、卒業式で感動してる女の子に見えるんだろうなぁ…






―もう会わない





違った…
「会わない」じゃなくて「会えない」なんだ。
手にはまだ名札の感触。































―ピンポーン





家に帰って二十分後くらいたったころ。
部屋で泣いてるいる私にお客が来た。
まさか笠井?なんて、期待したけれど、そんなわけない。









─トントン





「はい…?」
「透子だけど…」
「どうぞ…」
真っ赤に泣きはらした私の顔を見て透子のトーンはさらにあがった。
「どうしたの!?」
「透子…」
この後悔一色の思い。
透子に話してもいいのかなぁ?








「…」
「あっ…」
「ん…?」
「一緒にこれ食べよ?」
透子の手にはケーキの箱があった。
「あっごめんね。先に帰っちゃって」
「ううん。別に気にしてないよ」
「…相ちゃんがボタンもらってるところ見ちゃったから?」
「…え?」
「相ちゃんが言ってたから…」
少し曇っていく透子の顔。
「あっちがうの!だからこんなに泣いてるんじゃないんだよ!」
私は必死にフォローの言葉をかけた。
違うの!
違うの!
相ちゃんが原因で私…泣いてるんじゃない。
別に、間宮が私が笠井を好きっているのを知ってたからでもないの。
そうじゃなくて…








「私…笠井に嫌われてたのかな…?」








さっきからずっと回ってる。
間宮の言った言葉が。





"つきまとわれる"






考えれば考えるほど…
暗くなる気持ち。





「ねぇ…これだけ教えて」
「なに?」
「相ちゃんは笠井に…告白してたの?」
「ううん、してないよ」
「笠井は…どう思ってるんだろう…?」
「…ごめん、私にはわかんない…あっほらアップルパイ食べてみて!」
「うん…」






─パクッ





「おいしい…」
「良かった〜」





ほんとにおいしいよ。
甘くて…甘くて…



「ひ…く…ひっく…ひっく…」





私はまた泣き出してしまった。
最悪な卒業式。
笠井…完全に私のこと嫌いになっちゃったね。
せっかくもらった名札も投げちゃったし。
もう友達に戻れない。
もう戻れるわけないよ。
サヨナラ笠井。
うん、もうやめよう。
友達…ごっこは…。
お互い辛いだけだよ。
特に、私にとってはね。







、泣いていいよ」
「…ひっくひっく…」
「もう…終わったんだから」
















卒業式と同時に…私の恋は砕け散った。



もう元に戻ることがないくらい粉々に…