「〜透子ちゃんが来たわよー!」
「あっあと一分!一分待って〜〜!」
何一つ変わらない会話。
今日はとうとう卒業式。
この日常も、今日でお別れかぁ。
「ごめん!透子!」
「いいって。」
にこやかに笑う透子。
「…なんか信じられないね」
「え?」
「もう卒業だなんて…」
「ほんっと。早かったね…」
つい最近中学に入学したと思ってたのにもう卒業なんて…
「ねえ!帰りに家に来なよ。」
「え?」
「うちのお母さんがアップルパイ作ってくれてたから、食べていかない?」
「ホントに?じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかな!」
「…ねぇ…」
「ん?なぁに?」
「私達高校が離れても友達でいようね!」
「え?そんなの当たり前じゃない!」
「本当に?良かったぁ〜」
「私、透子みたいな友達はこの先一生できないと思ってるからね!」
「うん。私も…」
透子の台詞に私は少し涙が出た。
バカだなぁ透子ったら。
私と透子の付き合いももう十年目だよ!
一番近くにいた親友。
離れたからってこの友情が壊れるわけないじゃない。
きっとこの先も。
「おはよー」
教室を開けると、いつもと同じ空気。
まあ受験も終わったしね。
みんな開放感に満ちてるって感じ。
「おはよ笠井」
「おはよ」
「…」
何か話さなきゃ…
これで最後なんだし…
「」
「え?なに?」
「とオレって、話すようになってまだ二ヶ月しかたってないんだよな…」
「…そういえば…」
なんか変な感じ。
笠井とはもうずっと前から知り合いのような…そんな気がする。
二ヶ月の間…本当に色々あったよね。
友達になって。
恋をして。
フラれて。
ライバルがでてきて。
話さなくなって。
そして…また友達に戻って。
「笠井、これからも友達だよね?」
「ああ。当たり前だよ」
えへへ。
心が軽くなっていくよ。
ボタン…欲しいなぁ。
もらってもいい…よね?
よーし!卒業式が終わったら聞いてみよう!
『それじゃ皆さん、三年間お疲れ様でした』
「起立!気をつけ!礼!」
最後の挨拶も終わって、急にクラスはガヤガヤと騒ぎ出す。
よし!私も笠井に…
って、あれ?笠井ったらもういない!!
うそ!もう帰っちゃったのかな?
ボタン欲しいのに…。
とりあえず探しに行こう!
今ならまだ間に合うかもしれない…。
階段を下りてちょうど下駄箱にさしかかったときだった。
そこには笠井と思われる後姿がの視界に入った。
良かった〜まだ学校に居たんだ〜!!
…あれ…?あれは…相ちゃん…?
笠井の目の前に…
嬉しそうに第二ボタンをもらってる相ちゃんの姿。
テレくさそうな笠井…
やだ…先越されちゃったんだ…
どうしよう…引き返せないよ…
「あ!っち!」
こぼれそうなほどの笑顔で手を振る相ちゃん。
走りながらこちらに近寄ってくる…
「えへへ…もらっちゃった…」
テレくさそうに相ちゃんはボタンを私の目の前に差し出した。
笠井の第二ボタン…私ももらおうって決めてたのに…
言葉が出ない…
「もう諦めたんだよね?っちは?」
「え…?」
「前に"友達"って言ってたもんね?」
"友達"
冷めていく気持ち。
「じゃあねっち!」
「…」
何も言い返せない私。
そして一歩…二歩と
だんだんと笠井に近寄る。
「か…笠井…」
私の声に反応する笠井。
「ボタン…あげちゃったんだね」
「…え?」
急にハッとする彼。
「もほしかったの?」
冗談混じりの声で言う彼に、私は必死に反抗してる。
「えっやだ!そっそんなわけ…」
すると、彼は私の手を急に持ち上げた。
「手、開けて」
私は彼の言葉のまま手を開いた。
すると彼は、ギュッと何かを押し込み、また手を固く握らせた。
「え?」
「これあげるよ」
手の中には何だか角っぽい物体。
ゆっくり慎重に手を開いてみる。
「え…これ…」
そこには"笠井"と書かれた四角い名札。
「あっありがとう」
うそっ!夢みたい…すっごく嬉しいよ!
笠井から貰えるなんて…
「あれ?笠井」
低い声に、急に現実に戻された気がした。
視線の先には…。
げっ…クラスで一番陰気な間宮だ。
やだなぁ。嫌な奴に見られちゃったなぁ。
「あ、だ」
「なによ間宮…」
「おまえまだ笠井のこと好きだったんだ?」
「…え?」
今…間宮はなんて言った?