「う〜ん…」
大きく背伸びをする私。
こんなに目覚めがいいのは久しぶり。
自分でもびっくりするくらいスッキリしてる。
時計の針は六時十分を指している。
六時二十分にセットしていた時計は、たちまち用無しになってしまった。
「もう起きよっと」
笠井のお陰かな?
今すごく落ち着いてる自分が居る…
夢で見た優しい笠井の笑顔。
普段は無愛想だから、夢で見れるなんて結構貴重かも(笑)
よーし!今日は頑張ろう!
「はぁ〜ここかぁ…」
ドキドキしながら志望校を見つめる。
色んな制服に身を包んだ人がいっぱいいる…
さすがに女子高…一人も男子がいないよ。
「!中に入ろ?」
「あっうん」
やっぱり一人で行くのは不安だからね。
今、隣にいるのは…同じクラスの高木麻衣ちゃん。
ポニーテールで背も高め。
体育会系っていうのかな?
絶対に女子高に入ったらモテるんだろうなって思う。
『あと十分後に入試を実施しますので。 生徒は教室に入ってください』
緊張感のある高い声が放送で流れた。
「じゃっ!私向こうだから行くね」
「あっうん。お互い全力を尽くそうね!」
「うん!」
軽く手を振った私は自分の席へと移動した。
「っち!」
「あ…相ちゃん」
いつもより不安そうな相ちゃん。
普段見せる笑顔も今日は無い。
「いよいよだね」
「そうだね…。これが終わったらもう…」
「…ん?」
「笠井君に会えなくなっちゃう〜!」
…一番大切な日にも好きな人のことを考えてるなんて…
ある意味尊敬に値するよ…(疲)
「あっそろそろだよ!」
試験官と思われるスーツ姿の男の人が入ってきた。
「相ちゃん!頑張ろうね!」
「えっあっうん!」
彼女は最後に少し強がりともいえる笑顔をみせてくれた。
問題用紙が各列に配られていった。
静かな教室の中で紙の音と時計の音が妙に耳につく。
は軽くまぶたを閉じ…息を軽く吸った。
"オレの運を分けてあげるよ"
うん、ありがと笠井。
今は笠井の言葉がすごい支えだよ。
お守りがわりの言葉。
しっかりと心に刻み込んだから。
『用意…始め!』
「ふぅーやっと終わったね…」
帰り道、麻衣はポツリと呟いた。
「うん…疲れたぁ…」
「でも…なんか全然実感ないんだよね」
「え?」
「このテストで一ヵ月後の私の未来が決まるなんて…」
「うん…確かに…」
「受かってたらいいね」
「お互いにね!」
少しぎこちない会話。
緊張疲れと開放感でなんだか頭の中が整理できない。
「卒業式の次の日にはもう発表かぁ〜」
「早いねぇ…結果出るの」
そっか…
今日が終わって二日過ごせば…
もう卒業式なんだ。
「麻衣はボタンとかもらうの?」
「え?何よいきなり」
「ん…ちょっと…」
「ん〜私の場合は後輩にスカーフとか名札とかあげる約束してるよ」
「え?女の子に?」
「そうだよ」
「あっそういえば私も二年の時にもらったことあるかも…」
「でしょ?運動系の部活ってそういうの多いよね?」
「そうだね」
「…」
「…はさ、笠井にもらうの?」
「えぇえ!」
突然の麻衣の言葉に私は少し戸惑う。
「欲しいけど…フラれてるしね…」
「関係ないんじゃない?そういうの?」
「…え?」
「最後なんだし、もらわなきゃ損だよ」
麻衣の強い言葉…
なんか、すっごく説得力ある…
うん、もらっちゃおうかな…
最後だし、記念だし。
もう…会えないんだし。