─ペリッ




は勢いよくカレンダーをめくってみた。 
「三月に…なっちゃった…」
そう三月。
ペリッともう一枚めくって見る。





―三月二日入試










明日はとうとう入試の日かぁ。
なんか全然実感がないよ。
本当に私…実力ついてるのかな?





―パンッ!





両手いっぱいの力で自分のホッペタを叩いた。
「大丈夫…大丈夫…」
それはまるで願いのように。




































「今日…みんなピリピリしてるね…」
教室に入って第一声、透子はつぶやいた。
「そう…だね…」
皆は机に向かってひたすら勉強してる。




ドクン…





「私も勉強するね」
不安そうな透子…
頼り気がない背中を見送る私。
透子の志望校は野上高校。
お互い受かれば別々だなぁ。












でも透子ったらうらやましい!
だって野上高校って武蔵森の隣なんだよ!
ってことはいつでも藤代に会えるってこと!
いいよね〜!
え?透子と藤代?
あの二人ね、あの放課後から、めでたくカップルになったんだよ!
そういうのっていいよね!
はぁー…憧れちゃうなぁ。
でもね、本当のところ。
親友としては複雑な心境なんだよね。
今までお互い彼氏なんていなかったからさ、なんか…藤代にとられた気分…かも。
でも本当に良かったよね。

















「私ね、明日入試なんだぁ」
妙に不安そうな、かつ聞き覚えのある声が聞こえた。
隣を見て見ると、やっぱり相ちゃん(疲)
相ちゃんったら明日入試なのに…
でも不安な時の好きな人の存在って…
確かに大きいよね。
相ちゃんの気持ち今はよく分かる。












相ちゃんの志望校…実は私と同じ桜女子!
それを聞いた時、すっごくホッとしたの。
もし笠井と同じ学校だったら…
私、完璧にへこんでたかもしれない。
だめだよね"友達"なのにさ。
入試が終われば、その二日後にはもう卒業式…
本当にあっという間だよ。




















「今日の授業は四限です。明日入試の人は能率よく授業を使って下さいね」








「今日はずっと自習…かあ。だったら笠井、ヒマでしょ?」
クルリと隣を振り返り私は笠井に言った。
「うん。でもヒマそうにしてたら周りの奴らに悪いしね」
推薦で受かってる人たち。
もう二月の下旬には結果が出てたもんね。




「高校の近くに可愛いお店があった」とか
「髪染めようかな〜」とか
「今のうちにダイエット」とか言ってた人がいた。
はっきりいって非常識だよ。
こっちはまだ終わってないのに…。
不安で不安で押しつぶされちゃいそうなのに…。
でも…
笠井は違った。
一般入試の人たちのこと考えてくれてた。
ほんっとに優しいよね。









「今さ、笠井は授業中何してるの?」
「え?んー…中学の勉強の復習とか?」
「へえ〜そうなんだ(尊敬〜)」
も明日…だろ?」
「え?うっうん」







その言葉を聞いた瞬間、私は急に現実に引き戻された気がした。
そうだよ明日なんだ。




急に不安にかられる心。
「頑張ってくるよ!笠井みたいにOKってことになるように…ね」
ひきつった顔がばれないように必死に笑顔を作った。





















































今…何時だろ…?
え!?もう夜の十一時!?
まだ…まだ…課題は残ってるのに。
そうだ!最後の仕上げに模擬テストしよ!






─ペラッ



えっと、ここは…








分からない…?
ここ…最近やったじゃない!
落ち着いて…落ち着いて…
いつもならできるとこじゃん!
なんで…?なんで解けないの?










やだ…
このままじゃ…落ちちゃうよ!
やだ…
恐い…















!電話よ〜!」
一階から母の眠そうな声が飛び交った。






「はっはーい!」
急いで子機にプッシュする。
なんか気持ち悪い汗かいてるよ…私。










「はい?もしもし」
「もしもし…?…?」
「…え?」
電話越しからは聞き覚えのある声…




「かっ笠井!?」
「あっうん」
「どうしたの?急に電話…」
「いやっ今日、様子がおかしかったから…」
「え…?」
気付いてたんだ…笠井。
「やっぱり緊張してるのかなって」
「うん…」
「そうだよなぁ」
「…」
「オレさ、入試の日、が来てくれて本当に嬉しかったんだ」
「…え?」
「実は、すっごい緊張しててさ」
「え?わかんなかった…」
「まぁ元々こーゆー顔だしね」
「やっそういう意味じゃなって…(笑)」
「だから…のお陰っていうのかな」
「ほ…ほっ本当に?」
嬉しい…私…笠井の力になれてたんだ…
迷惑じゃなかったんだ…
「オレも受かったんだしオレの運、分けてあげるよ」
「え…?」
「頑張れよ!」
「…」
「どうした?」
「うっうん。頑張る!」
「あっごめん…いきなり電話して…」
「ううん。嬉しかった…」
「本当に頑張れよ!」
「うん!」
「…」
「笠井ありがとう」
「ん、じゃあオヤスミ」








─カチャッ








電話が切れた後もドキドキがとまらない。
ありがと…笠井。
本当に本当に嬉しい!
好きな人の言葉って偉大だね。
さっきまでは手も震えてたのに。
一気に不安がなくなっちゃったよ。
よーし!もう今日は明日の為に寝よう!









階段を下りて歯磨きをしようとしたら…お母さんったらニヤニヤしてこっちみてるし…
さっきまで眠そうだったのにさ…



「ふふふ…笠井君ってだぁれ?」
「え!?」
…いつのまに彼氏できたのよ?」
「かっ彼氏!?」
彼氏なわけないじゃない!!
もう何度もフラれてるのに…(涙)
「違うよ、友達!」
「ほんとにぃ〜?」
「ホントもホント。私フラれてるんだから。」
「な〜んだ。そうなの」
「そーなの!」
少しガッカリしてるお母さん。
「あんたも高校に入ったら彼氏作りなさいよ〜!」
「あのねぇ〜」
「ったくあんたも透子ちゃんも彼氏の一人や二人…」
「透子…彼氏できたよ」
「え?そうなの!?」
「…」
「あんたも頑張んなさいよ…」
いたずらっぽく憐れそうな顔をするお母さん。
ってか明日入試なんですけど…
入試の心配してよ…(汗)






「今日はもう寝るから!」
「ん?そうね。そうしなさい。」






"オレの運、分けてあげるよ"
笠井の声がリピートする。
あなたの言葉が力になる。
うん、頑張ろう!私。
























その日、私は夢で笠井との出会いを思い返していた。
あの時、あなたに国語の教科書を借りなかったら私達、話すことなかったよね。
席が隣になって…
流れる日々の中に笠井がいることがいつの間にか当たり前になってた。
新しい笠井が見れたら嬉しくて…
何か違う発見があると、それだけで幸せを感じた。




告白して色々あったけど。
もうやめようって何度思ったろう?
でもあなたが好きだから。
これ以上は絶対、絶対に離れたくないの。
二人のちょうどいい歩幅をやっと見つけた気がするから。
あなたはいつもマイペース。
私ばかり焦って早歩きだったのかも。
これから…あなたがいなくなったら…
他に好きな人を見つけるんだろうなあ。
そしてそれなりに恋をして…
今はこんなに笠井を好きなのにね。




何事もなかったような、あなたの顔を見る度になぜか胸が締め付けられて…
涙が止まらなかった。
けど、今は友達に戻れてよかったと思ってる。
本当に心から…











いつかこの想いが思い出に変わる日がくるんだろうな…