笠井を避けて一週間がたっちゃった。
今では相ちゃんが話し掛けてるのを見ても心の傷口はあまり悲鳴をあげなくなった。
最近の私、勉強ばっかりしてるや…
でもね、勉強ばかりしてたらこれでいいのかな?って思ってきたの。
もう卒業まで二週間あるかないか・・・
気まずいからって
私がフラれたからって
友達以下になって離れるのもいやだな…って思ってきたんだ。
それだったら彼にとって一番の女友達になりたいよ。
自分の欲しかったのものは…
―笠井の気持ち
叶わない願いだったけど。
一番近いものは手に入れたい…
笠井と恋人になれなくてもいいから…
せめて友達に戻りたいよ。
もう私より相ちゃんのほうがいいって思ってるかもしれない。
相ちゃんに惹かれてるかもしれない。
相ちゃんのこと好きかもしれない。
でも…
女友達のポジションは失いたくない。
ワガママだなぁ私。
一週間も避けておきながら…
でも決めたから…
もう笠井を避けたりなんてしない。
明日は推薦の発表日。
そう、笠井の合格発表の日。
息を大きく吸って、胸を張って歩く。
─カタン
いつもより静かめに座る私。
隣には笠井竹巳。
私は誰にも気づかれぬよう、もう一度息を吸い込んだ。
「笠井、おはよう」
一週間ぶりの挨拶。
向こうは心なしか驚いてる?
「どうだった?」
「え?」
「推薦よ推薦!」
「あ、ああ!大丈夫だったよ」
「え?本当に!!」
「うっ…うん」
「スゴーイスゴーイ!!」
すごいなぁ笠井…合格したんだぁ。
なんか、私のことみたいに嬉しいなぁ。
顔からは自然と笑みがこぼれる。
ん?あれれ?
笠井のブレザーの袖…白くなってるや。
チョークの粉かな?
「ねえここ汚れてるよ」
そう言い私は笠井の左腕を持ち上げて素早くはらった。
「あっ!」
あいたたた…
何してるんだろう私。
普通に袖に触っちゃったよ。
でも、今の感じ。
まるで告白する前のような…
なんだか…嬉しい…。
この調子で友達に戻れるかな?
うん、きっと大丈夫!
胸のつっかえが、スーッと取れた感じ。
やっとモヤモヤが晴れたね。
あぁ…こんなに嬉しいのは何日ぶりだろう?
「ありがとう」
笠井はぎこちなくお礼の言葉を発した。
まあ今まで無視してきた奴がいきなり話し掛けてきたらびっくりするよね(汗)
「よかった…」
聞こえるか聞こえないか…
灯火が消え入るような、そんな声。
ごめん笠井…
聞こえちゃったよ。
「よかった」って…どういう意味?
でも、私たち元に戻れたんだよね?
きっとそうだよね…?
「!ごめん!先帰ってて〜!」
「え〜。どうしたの?」
「え?えっと…ね。藤代君が用があるから残ってくれって…」
「え!?それって…うそー!!」
真っ赤になっていく透子の顔。
元が白いだけにゆでタコみたい。
放課後の教室っていったら…
それはもう告白しかないよね!
いいな〜透子…。私も…そういうふうになりたかったなぁ。
今さら悔やんでも仕方ない!未練くさいぞ!
クヨクヨしてるのは私らしくないよ!
「はぁー辛い〜…」
帰宅中、独り言を言いながら坂に差し掛かったときだった。
あれ?
私のちょこっと先にいる、なんかのほほんとして歩いてるのは…
……
笠井だ〜!!
「笠井〜」
「あっ」
彼は私の声に気がつくと、ゆっくりと振り向く。
笠井は前と同じくウインドブレーカーを着ていた。
きっとまたランニングでもしてたんだろうなぁ。
「…」
「何?」
「いや…樋口いないから…またケンカ?」
「やだっ!もうそんなの仲直りしちゃったよ〜」
「そうなんだ。よかったね」
「…。あのさ、大げさに聞こえるかもしれないけどね」
「ん?」
「前ね、ホントに笠井に相談してよかったよ。笠井の言葉で私、透子に電話かける勇気が湧いたんだもん」
「そっか…」
「まっ今日、透子がいないワケわね…フフ…」
「何?」
「これよこれ!」
と私はニヤニヤして親指を立てて見せた。
「マジ!?」
「うん。それも藤代と!」
「…ふ〜ん」
「あれ?リアクション薄いね。」
「あ〜だって誠二、オレに言ってたもん」
「え?本当に!?」
「うん、相談とかされたし」
「男同士でもそんな話するんだね〜」
ってことは藤代は…私が笠井を好きって知ってるかもね…
「あっそーいえば…」
「ん?」
「最初の3―4の皆と会った時の事って覚えてる?」
「あぁ〜。は印象に残ってるよ」
「…え!?」
「自己紹介の時にさ、3―4のです≠チて言っただろ?(笑)」
「なんで?普通じゃない?」
「みんな…てゆーかクラス中、皆3―4なのに…」
「え!?うそ!そんなこと言ったっけ?」
「うん言った」
「だからだぁ…皆やけに笑ってたのは(涙)
あ…そういえばさ、なんで笠井は武蔵森の高等部にしたの?やっぱりサッカーが強いから??」
「え?んー…」
「…?」
「本当はさ、もうサッカーは中学でやめようと思ってたんだ」
「…え?」
「でも…前に渋沢キャプテンと三上先輩が中等部の方に顔を出してくれた時に
『後悔すると思うなら続けろ』って言ってくれたんだ。それで…やっぱり続けられるだけ続けてみたいと思った…」
「そっかー…そうだよね。高等部の方には渋沢先輩や三上先輩、それに藤代とかもいるしね」
「まぁレギュラーにはなれないかもしれないけど、ね」
笠井は少し照れたような顔をして笑った。
サッカーのことなんて全然分かんない私だって知ってるんだよ。
笠井が一年の時から一軍だったってこと。
それなのに全然自慢しなくって。
あっそっか…こういう人なんだ。
威張らないし、飾らない。
笠井と出会えたってことが。
笠井を好きになれたことが。
私の幸せだなぁ。
「いいなぁ〜」
「え?」
「私…そんな理由じゃないよ…志望校」
「そういえばはなんで桜女子なの?」
「うっうん…あそこって総合学科でしょ?だから、いろんな教科を勉強できると思ったから。」
「そっか…なんか変な感じだよなぁ…」
「え?」
「今オレ達、普通に会話してるけど、この冬が明ければ別々だもんな」
「…そうだよね。何か春ってスタートって感じがするけど、同時に卒業って感じだもんね」
―出会いは別れの為にある
…か。
今考えればその通りだね。
このまま別れて…
私は他に好きな人を見つけて…
……
笠井よりも好きな人…なんて、見つかるのかな?
嫌いにもなれない。
好きって表現も出来ない。
―だから友達として