学校に着くと、真っ先に藤代と透子は、キャッキャッと盛り上がっていた。
まったく…いいねぇ若いもんは。
藤代も透子のことまんざらでもないみたい。
「…」
あーヒマだ!
あんまり一人でいたくないんだよね…。
一人でいると…笠井のこと考えちゃう。
もう諦めるんでしょ?
って言葉が私に突き刺さる。
ふぅー……
そうだ!昨日解けなかった問題を先生に聞きに行こう!
うん。そうしよう。
最近は恋ばっかりだったけど、とりあえず受験生だもんね。
廊下を一人で突き進んでいると、一人の女の子が目に入った。
「あっ…」
体全体で拒否反応を起こしてる感じ…
「…相ちゃん…」
相ちゃんは、私がいることに気が付くと、小走りでやってきた。
彼女は不気味なくらいニヤニヤしてる。
「昨日チョコあげた?」
「え…?」
思わずひきつる私の顔。
昨日の痛みが全身に響く。
「うん…あげたよ」
「へぇ〜…告白したの?」
「え?」
必要以上に瞬きの回数が増える私。
フラれたよ…なんて言えない。
っていうか言いたくない…
「相ちゃんは?」
私は押しつぶされそうな気持ちを必死にこらえた。
「え?えへへ〜まだだよ。けどチョコはあげたんだー☆」
あげたんだ…
うん…相ちゃんの顔見てたら分かる。
幸せいっぱいって感じ。
「笠井君ね、チョコ受け取ってくれたの。すっごくテレてて…あんな彼はじめて見たなぁ」
「へぇ〜そうなんだ」
チクッチクッて針が私の心を刺激する。
「だったら結構いい感じじゃない?」
「え?そうかな?そうだったら嬉しいな!」
「そうだよ〜!」
私は自分の心に幕を下ろして仮面をかぶった。
自分の感情にはフタを閉めて…
「ふふ実はね。卒業までには告白しようと思ってるの」
ニコニコと、太陽みたいな笑顔の相ちゃん。
「…っちは?」
「え?」
そのとき私の心にはまだ彼が好きって感情が全身にめぐった。
―アキラメタクナイ
でも…
私の中で何かがふっきれた音がした。
「私?もう笠井のこと好きじゃないよ。友達?だよ」
これは願い?誓い?
「え?」
いつもに増してパァーと彼女の顔が笑顔に変わっていく。
「だから、私のことは気にしないで」
「うん。よーし!頑張るぞー!」
「頑張れ!応援してるよ!」
「ありがと!じゃーね!」
そういうと、くるりと後ろに振り返り走り去っていった。
幸せそうな背中だなぁ。
もしもバレンタインが私にとって初めての告白だったら…
私も相ちゃんみたいに幸せそうだったかな?
笠井のことは友達…かぁ。
もう戻れないよね。私…もう笠井の顔見れないよ。
大粒の涙が一粒。
廊下に音を立てて落ちる。
枯れ果てたと思っていた涙が一粒流れるとまだ涙は出るんだなって感心しちゃった。
チャイムが鳴るまであと二分。
ギリギリに入ろうかな?
笠井をもう見ないって決めたもんね。
人を好きになるって甘くない。
すっごく辛い。
笠井は相ちゃんの事どう思ってるのかな?
笠井は今…誰のことを考えてるんだろう?
─ガタッ
チャイムぎりぎりに私は机に駆け込んだ。
右側をずっと見ちゃってる私。
左側の笠井―どんな顔してるんだろう?
気になるよ…。
ううん!もう決心したんだもん。
ごめん笠井!
あなたは私のことを友達でも…
私にとってあなたは友達じゃないから…
この世にたった一人の好きな人だから
だからもう話さないね。
この感情が消える日まで。
もし、その日が来たら、もう一度友達になってね。
「おはよ」
左耳から聞こえてきた彼の声。
前ならドキンドキンってしてたのに。
今はズキズキと心に響く。
「あっ佐野さん!この問題って」
私は右側の席で勉強している佐野さんに無理やり話し掛けた。
笠井の言葉…かき消されていく。
これでいいんだよ…
笠井のこと避けてたら、きっと忘れられるはずだよね?
横目で笠井を見た。
相変わらずボーッとしてる。
私の行動に何の疑問も抱かないのかな?
そうだよね。
そりゃそうだ。
そうだよ…アイツにとって私はただのクラスメイトで…
うん、そうだよ…
「笠井君〜!」
バレンタイン以来、相ちゃんは周囲を気にする様子も無く3―4に来るようになった。
今日で四日目。
彼女が笠井にアプローチして四日。
私と笠井が話さなくなって四日。
二日目まではね。
笠井、挨拶してくれてたの。
でも今はもうしてくれない。
自業自得だって分かってる。
それに最初はね。
相ちゃんと話す時、無表情だったのにさ。
最近は時々笑顔をこぼすの。
二人の距離が縮まっていく。
私との距離は広がる一方。
わざと左手でほおづえをついたりして避けてる私。
こんなに忘れようと思って。
話し掛けなくて。
顔も見てないのに。
想いは募るばかり。
想えば想うほど、ほど遠く。
行動を起こせば全てが空回り。
伝えたかった思い。
伝えきれなかった思い。
全てが目の前のハードルに変わる。
─ブワッ
突然カーテンが舞い強い風が教室へ入ってきた。
―パサッ…
その時、私の机の上にあったプリントが、笠井の席の横へヒラリと落ちた。
「「あ…」」
二人の声がそろった瞬間…
思わず私の視線は笠井へと移る。
彼もゆっくりとこちらを振り向く。
「…」
じっと真っ直ぐに見てくる彼の目。
そらせない私。
久しぶりに笠井の顔を見た。
時間は一秒…一秒過ぎていく。
どうして?
どうして見てくるの?
お願いだからこれ以上こっちを見ないで。
私のこと友達としか思えないのなら。
友達以上に見れないのなら。
その目で見ないで。
彼の鋭い目が、私をとらえる。
なんだか心まで吸い込まれそうだよ。
まるで金縛りにあってるみたい。
私…笠井が…
─ガタンッ!
そんな気持ちをかき消すように、私は大きな音をたてイスを動かした。
うつむいたままプリントを拾う。
全然嫌いになれてないよ。
それどころか前より好きになってる。