『行く決意を固められましたか?』
「ああ、大丈夫だよ」
『全員で何名のご参加ですか?』
「三人で」
『…はい。それでは案内いたします。竜宮城へ』
東 方 異 聞
~ 風 の 彩 ~
質問にすべて答えた後、先ほどの立体映像の女性は少し嬉しそうな声で言った。
『それでは目を閉じてください。そして竜宮城へ行く方はこの亀の甲羅に触れてください』
「…」
三人とも黙って、静かに甲羅に手を乗せていく。
全員の手が重なった瞬間…
―ブァッ!!
周りに光が立ちこめ、一瞬にして三人の姿は海岸からなくなってしまった。
「…?」
ゆっくりと目を開くと、そこは青い世界
目の前には魚がゆらゆらと泳いでいたり水の流れに逆らわない海藻類がゆっくりと揺らいでいた。
もしかしてここは…海の中??
そして目の前には…
「うわ…っ…す…っごい」
思わず感嘆の声を上げる。
なぜなら三人の目の前には絵本で見たままの竜宮城があったからだ。
赤と白で彩られたお城。それは絵本でしか見たことがなかった夢の世界。
そんな竜宮城に浸っていると、目の前の門から、「ガチャッ」と音が響いた。
目を向けると、そこには…
「あ…」
髪の毛が長くて、とてもキレイな顔立ちをしている女性。
けれどそれは見覚えのあるものだった。
なぜならそれは先ほど亀の甲羅に映し出された女性だったからだ。
「いらっしゃいませ」
長い睫毛が白い肌に影となって現れる。
声は透き通るように綺麗で何度も聞いても癒されるような…
スラッと伸びた手足が美しい着物から見え隠れしている。
「…」
一瞬、思わず見入ってしまう三人組。
「それでは中にどうぞ」
女性は右手を差し出すと、私たちを中へ案内してくれた。
あたりをキョロキョロと見渡してみると、綺麗な女性が多くって。
思わずは感嘆のため息をつく。
「…申し送れました。私の名前は『乙姫』と申します」
乙姫はそういうと、こちらを振り返り、ニコリと微笑んだ。
…あれ?
とても、うん。とても綺麗な人なんだけど。
綺麗な…人なんだけど…なんだかとても寂しそうで儚げで…
気のせいかな…?
はそう思いながらも、少し遅れていた歩幅を頑張ってみんなに合わせた。
「それではこちらのほうが宴の会場となりますので、ここでしばらくお待ち下さ…」
「あのさ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「何でしょう?」
「ここに“紅い玉”っていう財宝があるんだろ?それ、どこにあるのか教えてよ」
「“紅い玉”?」
乙姫はそうつぶやくと、首をかしげ、不思議そうな顔をした。
「…申し訳ございません。そのようなものはこちらには…」
「…え?」
翼の顔が豹変する。
眉間にしわを寄せて、驚きを隠しきれない表情で乙姫を見つめる。
「それがどうかされたのですか?」
「いや、ガセならいいんだけど」
「そうですか。なら良いのですが…」
「…」
「それでは私は宴の準備がございますので失礼いたします」
乙姫はそういうと、私たちを会場において、外に出て行ってしまった。
広い部屋に三人だけ残されてしまった私たち。
「…」
ただ驚きの中で身を埋める。
「乙姫だけ違ったね」
「…え?」
翼君がいきなり言葉を発した。
「どういうことだ?」
「このゲームで人と接触するとき、必ずって言っていいほど会話のスイッチ音が聞こえてただろ?」
「あ…そういえば…」
「いままで気づかなかったわけ?まったくいい身分だよね(ハァ)」
「ご、ごめん(汗)」
「でも…」
「でも?」
「乙姫にはその音が聞こえなかった」
「…え?」
「本当に生きている人間みたいな感じだったし、僕の質問にも考えて答えてただろ?」
「なるほど…」
と、広い宴会場で会話をしていると…
─ガチャッ!!
乱暴にドアを開く音があたりに響いた。
「!?」
たちも一斉に音のほうを見つめる。
すると、そこには…
「ったくふざけんじゃねぇよ!なんでねぇんだよ!」
「まぁまぁ三上先輩。いいじゃないッスか!こうやって宴を開いてくれるって言ってるわけだし!」
「ケッ。俺はお前みたいに子供じゃねぇんだよ」
「俺は子供じゃないッス!撤回してくださいっ!」
そこには、さっきまで一緒にいた三上と藤代の姿があった。
「ちょっと三上」
「…あ?椎名じゃねぇか。やっぱり先についてたんだな」
「いや、そうじゃなくって」
「なんだよ」
「何がないのさ?」
「は?」
「今、言ってただろ?なんでないのかって」
「あぁ、さっき町でぶつかった女に言われたんだよ」
「何を?」
「貴方が一番ほしがっている『水の時計』が竜宮城にあるってよ」
「水の時計…?」
「俺が説明するよ」
藤代はピョンと二人の間を割って入ってきた。
「武蔵森で今カルチャーショックがすげーブームになっててその中で『水の時計』っていうアイテムを
一番先に見つめた奴が食堂半年分無料で食えるって企画を皆で立てたんだよ」
「へぇーそれで『水の時計』…ね」
「そ。そりゃ乗らないわけにはいかないだろ?」
にっこりと微笑んで藤代君はこっちを見た。
「けどよ、さっき乙姫に聞いたんだけど、ないって言われたんだよな」
「そうなんだよ!なんか聞いたこともない…とか」
「…」
二人の言葉に、翼は何かを考え始めた。
「どうしたの翼君?」
「…ん?いや、なんかちょっとおかしくない?」
「…え?」
「だって僕たちと三上、この竜宮城に来た理由が一緒だなんてさ」
「…そういえば…」
さっき確かに翼君も乙姫に聞いてたよね?
紅い玉は何処にあるのかって。
でも彼女は首をかしげて「知らない」って言ってた。
それはまったく三上先輩と藤代君のパターンと同じ…
「もしかしたらこの竜宮城にはもっと深い何かがあるのかもしれないね」
「…え?」
翼君はそういうと、笑みを浮かべた。
まるでクイズに挑戦する子供のように…