「ったくあいつらマジで何処に行ったわけ?」
翼は街中をイラついた形相で歩き回っていた。
履きなれない下駄が足の負担を倍にさせる。
「…なんでこんなところまでリアルに作りあげてるのさ…」
翼は少しため息交じりの声を漏らす。
それもそのはず。
現代のカルチャーショックは都合の悪いところはすべて削除されていたからだ。
それはゲームをする人の体力に合わせ疲れを半減させるシステムであったり、
鎧などで歩きにくいスタイルでも歩きやすいように設定してあったり…
けれど、やっぱり初期のモノである分、凝る視点が現代のゲームとは少し違っているらしく、
このゲームは下駄の重さまで忠実に再現していた。






―ドンッ






「わっ」
「キャッ!」






相変わらずの早歩きで歩いていると、翼は一人の女性とぶつかってしまった。
「…あ、大丈夫?」
少し罰が悪そうに相手の女性の顔を見る。
その瞬間、女性の体から『パチン』という音がした。
それと共に、彼女の口が動き始める。
「大丈夫です。もしかして旅のかたですか?」
「…え?」
あ、多分今のが会話スイッチなんだろうな。
今から…大きいか小さいかは分からないけれど何かしらのイベントが始まるってわけか…
「そうだよ」
翼はそう確信すると、言葉を強く発した。
「そうですか…」
女は少し口を閉じると、何かをインストールするように体を停止させた。
さすが昔のゲーム。現代のように簡単にイベントは発生しない。
そんなことを翼は一人考えながら、そのスイッチが作動するのを待っていた。
「それでは良い情報を差し上げましょう。この町の海岸に行ってみてください」
「海岸?」
「そうです。そこで亀を釣り上げると竜宮城へいけますわ」
「竜宮…城ね」
翼はそうつぶやくと、口元に笑みを浮かべる。
「そこには財宝はあるの?」
「はい?」
女は言葉を返すと、また黙り込んだ。
「…はい。そうですね。そこでは『紅い玉』といわれる世界に一つしかない玉を入手することができるのですよ」
「へぇ…それはいってみないと」
翼は半ば独り言のようにつぶやくと、その女を背に走り始めた。




























「…う…そでしょ?」






は半ば放心状態で悟を見つめる。
悟は誰かに言えたことに気を楽にしたのか、少し落ち着いて見える。
「本当の…ことなんだ。こんなことでウソがいえるほど…俺も落ちぶれてはいないさ」
下唇をかみ締め、切なそうに言葉を漏らす。
「ってことは…」
黒川はハッと顔を外に向けた。
「え?ど、どうしたの?黒川君」
「翼を一人にしておくのはヤバい!」
「な、なんで??」
「あいつがもし竜宮城に行く方法を知ったとしたら…」
「…あ!確実に翼君は…」






―竜宮城に行くに違いない






「悪いけど俺たちはもう…」
「ちょっと待ってくれ!」
黒川が言葉を言いかけたそのとき、悟は言葉を挟んだ。
「なんだ…?」
「…もし君たちに仲間がいるのなら急いだほうがいい」
「分かってるよ。だから今…」
「そうじゃなくて…この竜宮城に行くというイベントは海岸で亀を釣った瞬間に発生するんだ。もしもそうなると…」
「…そうなると…?」
は思わず声を発してしまった。
「…強制的に…竜宮城に行くことになってしまうんだ」
「…え?」
「だったら尚更ヤバイ!」
黒川は声を上げると、の腕を引っ張り部屋の外に飛び出した。
「また来るからそれまでここにいろよ」
彼はそういうと振り返りもせずに走り去っていった。















「…また…来る…か」






部屋にポツンと一言。
宙に浮かぶ声が寂しく消えていく。









「君たちに会えるのは…何年後になるのだろうか?もしかすると僕は…この世界でも生き残れていないかもしれないな」
悟はそうつぶやくと、フッと俯きながらカラ笑いを浮かべた。






今はただ、願うことは二つだけ。
あの二人が『卓也』のようになってしまわないこと。
そして『僕』のようにもなってしまわないこと。
たったこれだけなのに。






今は叶うことのほうが無理なような気がしてたまらない…






































「ここが海岸だね」



翼は一人、村はずれに見える海岸に立っていた。
そこには白い砂浜が広がり、辺りには漁師と思われる人が集まっている。
パッと見たところ、現実世界の人は見当たらない。
多分このゲームが出来た当初はプレイヤー達で溢れかえってたんだろうな…
そう思うと、妙に冷静になっていく自分を感じた。
「さてと、あいつらと会う前に亀を釣っておこうかな」
翼は舌をペロッと出すと、少し腕まくりをはじめる。
そして、ゆっくりと『釣り用具屋』と書かれたお店へ歩き始めた。










































「ねえ黒川君!翼君…一体何処に行っちゃったのかなぁ?」
「さぁな…(汗)」
さっき翼君と別れた呉服屋さんで、
私たちは呉服屋の店員から…






『シイナ ツバサ様よりメッセージを預かっております。買い物に行ってくるそうです』






っていう何とも機械チックなメッセージを聞いて、今に至る。
ちなみに今は何処に向かえばいいのかも分からずずっと走りっぱなし。
街の人たちは避けようとする気配もないから。
こっちが全部避けて歩かなくちゃいけない。
ぶつかったりしたら村人の会話スイッチが入っちゃってその場から離れられなくなっちゃうんだよ。
なんか、すごくこういうところが昔のゲームって感じだよね?
でも本当に翼君何処に行っちゃったんだろう??
…うーん??…あ…!もしかして…






「ねえ黒川君!」
「何だ?」
「浦島太郎で亀に出会うっていったら…もしかして翼君…もう海岸に行ったんじゃ…」
「…あ!その可能性が高いな!スピード上げるぞ!!」
「え??」
ちょっと待って!
これが私の中では最高速度なんですけど(滝汗)
って言ってる間にも黒川君はどんどんスピードを上げて…
あっという間に姿が見えなくなってしまった。






…ひ…酷い(涙)






「…どうしよう…」
走ってるはいるものの、困惑の表情を隠しきれない
と次の瞬間、






―ガシッ!






「…え!?」
急に肩をつかまれたは急いで後ろを振り返る。
すると、そこには…
「あなたは…」
「やっぱりじゃねーか」
「あ、ちゃんじゃん!偶然だねーv」
「三上先輩?藤代君??」
見覚えのある姿。
サッカーの練習試合で何度も対戦したことがある相手。
三上先輩と藤代君。
二人ともやっぱり江戸時代っぽく格好は着物を着ている。
「お前一人で何やってんの?」
「いや、一人じゃないんですど…」
「もしかして迷子になったってか?」
ニヤニヤしながら三上が問う。
「…迷子じゃない…です」
少し唇を尖らせながらは言葉を返した。
図星な分あまり強く言い返せない。
「…あ、三上先輩と藤代君は何処に今から行くつもりだったんですか?」
「俺たち?俺たちは今から海岸に行くんだよ」
「…え?海岸?」
「そ。竜宮城に行ったら俺がずっと欲しかったもんがもらえるらしいからな」
「でも…な、なんでこのゲーム…」
翼君が言ってたよね?
これは初回のゲームでほとんど人の手に渡ってない…みたいなことを。
なのになんで三上先輩と藤代君が…?
「なんで俺たちがこのゲームに参加してるかって聞きたいのかよ?」
「…!?」
「めっちゃくちゃ顔に書いてあるって!そうッスよねー!三上先輩」
「(しばし藤代を睨みつける目)…このゲームの入手ぐらいこの俺に任せたらすぐに手に入るんだよ」
三上は少し小ばかにしたように笑って、
「お前は何処に向かってんだよ」
と、言葉を振りかけた。
「えっと……あ!」
は、早く翼君に会いに行かなくちゃ!
「急いで海岸に行って黒川君と翼君に会わないと…」
は事の重大さにようやく気づいて、顔が強張る。
「じゃあ急ごうぜ!俺たちもついていくし」
「藤代君…」
「チッ。あいつらと来たのかよ。まあ仕方がねーな。俺たちがついていってやるよ」
「…三上先輩」








心強い仲間に出会い、は少し落ち着きを取り戻した。