「うわぁ…すごい…」
は思わず感嘆の声をあげた。
それもそのはず。
浦島太郎編のカルチャーショックに接続した途端、の服はいつもの海賊の服ではなく、
可愛らしい江戸の町娘の着物へと変身してしまったのである。
「着物なんて七五三以来だぁ」
それと共に浮かび上がるもう一つの感情。
翼君…この格好を見たらどう思うかな…?
多分"似合ってないよ"とか言うのがオチなんだろうけど…ハァッι






「…?」
少し低めの声が後ろから響く。
「黒川君?」
が振り返ると、そこには乱雑な着物を身にまとった柾輝が立っていた。
「…それってもしかして……辻斬り…?」
「…(コクン)」
「…プッ…」
「笑うなよ…(汗)」
「ごっごめん!だってあまりに似合ってるから…」
「誉め言葉になってねーよ…」
少し呆れた視線をぶつけながらも柾輝は不器用に微笑んだ。
「…あれ?翼君は?」
「あぁ翼?アイツなら…ククッ」
「どうしたの??」
黒川君ったら急に笑い始めるんだもん。
一体なんでだろう??






「…」
笑いをこらえながら柾輝は右手を指さした。
「…?」
それに合わせての顔も自然に右を向く。
あっ…あれ……翼君?
でも……あのぉ…(汗)
「着物が桜色…?」
「古いソフトだったから女と間違えられたみたいだぜ」
「…プッ…」
…何笑ってんの?(怒)まさかこの格好を見てじゃないよね?」
「ちっ違います!!ι」
「ふーん…じゃあなんで今笑ったの?」
「そっそれは…あっ黒川君の格好があまりにそれっぽかったから!」
…」
柾輝の冷たい視線がに刺さる。
「ならいいけど…でもまぁ、結構似合ってるんじゃないの?」
「…え?」
の服装!」
「え…///////」
翼君はフッと笑うと、黒川君の方に歩きはじめた。
何だか顔が熱い…
















「それにしてもここ…店が多いな」
「うん。こんな風景…ドラマとかでしか見たことがないや」
目の前に広がる風景は本当に今の日本じゃ考えられないものばかりで。
道の端には出店が風車を売っていたり、たくさんの服を束ねた呉服屋さんがいたり…と、
普通に歩き回りだけでも楽しめる感じがした。









「ねぇ今から何処に行くの?」
「あー…とりあえず地図を…」
服を見に行くよ(冷)」
「「はっはい」」
翼君…よっぽど今の格好が嫌みたいだね(汗)
いつもの倍迫力がある…
はっきりいって怖いよ〜(いつもだけど)














「いらっしゃいませぇ!」
呉服屋の前を通りかかると、一人の老婆が客引きをしていた。
「なぁ翼、ここでいいんじゃないか?」
「…そだね。じゃあ僕は買ってくるからさ、二人は散策にでも行ってきなよ」
「あっうん」
「じゃあ一時間後にまた此処に来るからな」
「分かったよ。まあ遅れるはずはないと思うけど…?(にっこり)」
絶対に遅れません!(ひぇえ〜)」












「ふぅ…よっぽど翼君、今の格好に抵抗があったみたいだね」
「そうだな」
「似合ってたのにねぇ…」
ボソッと呟く。
「お前…それはマジで禁句だぞι」
「分かってる…ι」
二人でそんな会話をしながら、と柾輝は曲がり角に差し掛かった。
その瞬間、






─ドンッ!






「キャッ」
「わっ!」
は一人の中年男性とぶつかってしまった。
「ごっごめんなさい!」
私は急いで起き上がると、私と共に倒れてしまったその人の腕を軽く引っ張った。
「いや、こちらこそスイマセン…」
「悪かったな。うちのメンバーがボーッとしてて」
柾輝は低く腰を下げると、深くその人物の顔を覗き込んだ。
その男は無精髭が生えていて、着ている服もボロボロでまるで乞食のような格好で。
ゲームの中の人間にしてはやけにリアルな感じがした。
「アンタ達…」
男は私と黒川君を見ると目を見開き、声を発した。
「…?」
その意味がわからず首を傾げる
「もしかして…現実の世界から来た人間なのか!?」
「そうです…けど…」
「いっ今は!?一体西暦何年なんだ!?」
ガシッとの腕を掴むと、その男は大きな声を張り上げた。
「に…2100年…です…!」
私は痛いのを思いをこらえ、そう答える。
するとその男は蒼白し、その場に立ち尽くした。
「…あれから…もう20年も過ぎて…しまったのか…」
ガクンと頭を落とし、床に何度も拳を叩きつける。
「…畜生!畜生!」
ドンッドンッという鈍い音が周りに響く。



それでも歩く速度を変えない町の人間たち。
改めて「これはゲームなんだ」と実感する。
それも初期のゲームでしょ?
やっぱりこっちから話し掛けたりしないと、スイッチが発動しない場合がほとんどみたいなの。
でも…この人は違うみたい。







「どうしたんですか?」
「俺は…現実世界の人間なんだ」
「え?」
「ちゃんと家族もいた…それなのに…」
「…?」
男は突然、大粒の涙を流し始めた。
「なあオッサン」
「…?」
涙を手の甲で拭いながらこちらを見上げる。
「俺達まだ時間に余裕があるからよ、話があるならちゃんとした部屋の中ででも話そうぜ」
少し呆れたような、心配そうな…そんな顔つきをしながら柾輝は彼を立たせた。
「あっあぁ…」
「黒川君…」
黒川君の優しさって凄いと思う。
さり気ない優しさ…って言うか…
人の痛みを分かってあげられてるって言うか…
私もいつも…こんな黒川君に助けられたっけ?
「…?行くぞ?」
「えっ?あっうん!」












そして私達はその男の家へと案内された。
彼の家は『家』と呼ぶにはほど遠く、まるで廃墟と化した小屋だった。
今にも崩れ落ちてきそうな瓦。
私は恐る恐る部屋に上がった。



「…あんたさ、何者なんだ?」
部屋に上がり、すぐ柾輝は低い声で問い掛けた。
すると、男はビクッと体を震わせ口を開いた。
「俺は…2000年にゲームに参加した者だ…」
「…え?」
「おいおい…冗談はよせよ。もう100年経ってるじゃねーか。お前見たところまだ三十代ぐらいだろ?」
「それは…竜宮城に行っていたから…」
「「…え?」」
思わずと柾輝の声は重なる。
だが、そんなことにも構わずに、男は言葉を発した。
「…気付かなかったんだ…現実の世界と竜宮城の世界との時差がこんなにあるなんて…」
「…ちょっと待てよ…」
「どういう…ことですか?」
「君達…一刻も早くこの世界から出て行った方がいい…






僕みたくなりたくないのなら…」























「ったくあいつら何してるわけ?一時間後って行ったのに全然来る気配がないじゃないか!(マジギレ)
どうせあの二人のことだから地図とか買ってないと思うし…買い物にでも行こうかな……ねぇ其処のオバサン」
「はい?なんでしょう?」
「僕、今から買い物に行くから、さっき連れてた二人が来たらすぐに戻るからって伝えてくれない?」
「はい、かしこまりましたぁ」
「じゃ行くか…」









翼が『あいつら帰ってきたらどうしてやろうかな(怒)』と思っている頃、二人は騒然としていたのだった。









「僕の過去を聞くかい…?」
「…あ、ああ」
「あっ私も…」









「僕がこのゲームに参加したのは十四歳ぐらいの時だった…」






『やっと出たな!カルチャーショック!あーマジでやるのが楽しみだぜ!』
『僕もだよ!親に頼み込んでようやく買ってもらったんだもんなぁ…』
『じゃあ悟!帰ったらすぐにゲームに取り掛かれよ!』
『分かってるよ卓也!お前もだぞ』
『あぁ!』






「僕の名前は…大場悟…もう忘れてしまう直前だったな」
誰からも呼ばれなくなってしまったから…






僕は浮かれていたんだ。
新しく買ったゲームに夢中で。
明日の宿題よりも、今日の部活よりも。
何よりも一番にこのゲームがしたくて。






そしてこのゲームの世界に参加した。









「けど…まさかこんなことになるとはね…」
「こんな…こと?」
「君達も知ってると思うけど、浦島太郎の話、分かるだろ?」
「え?ええ。最後…おじいさんになってしまったとさって言う…」
「そう。竜宮城に行ったが為に時間が流れてしまったってことさ」
「もしかしてアンタ…」
「君、察しがいいね。そう。僕は竜宮城に行ったんだよ。
そこでは楽しく時間を過ごしたさ…今まで味わったことがないぐらいに…ね」
「…」
「本当に…数日間ぐらいだった…そろそろ学校に行かなくちゃヤバイと思ってゲームの世界から脱出したんだ、
友人の卓也と。でも、現実の世界は2080年になっていた…」
「………え?」
「当たり前のことだけど…母さんも父さんも…もう亡くなってたよ…」
「…ウソ…」
は空いた口が塞がらなかった。
「その時分かったんだ。もう現実の世界では生きていけないって…だから僕は20年もの時間をこの…仮想世界で過ごした…」






「あの…」
「なんだい…?」
「友人の…友人の卓也さんって人はどうなったんですか…?」
「卓也…かい?」
"卓也"…その名前を囁くと、悟は悲しげな表情になり、涙を浮かべた。



「そんな世界に嫌気が差して…現実世界で自殺を図ったんだ…」



「…え?」



「もう彼は20年前に…死んでしまった」


















ねぇ翼君。
このゲームの内容はヘビィだって言ってたよね?
今なら分かる気がする。
このゲーム…すごいことになってるよ。
目の前にいる人がウソをついてるようには見えないから。
だから翼君。早く出よう?
このゲームは相当ヤバイみたいだよ。