あいつを振り向かせる方法(あいつをふりむかせるほうほう)








私の知ってる木田は不器用で。
何をするのも人の数倍時間がかかる。
顔が怖いといわれては迷子の女の子に泣かれて。
背が高いといわれては体育のバスケのときはいつもゴール下に立たされて。
それでも文句は言わないのが木田で。
そんな木田がいつの間にか好きになってた私。






「ねえ木田君!お願い!また選抜の人たちとの合コンをセッティングして!!」
「ああ、別にいいけど」
「よかったぁ…さっすが木田君



木田が東京選抜のメンバーに選ばれてからというもの、
今までクラスの中でまったくといっていいほど存在感がなかった木田への対応が変わっていった。








「はあ…まったくお人よしなんだから」
「あ、
木田は私が隣にいるのに気づくと、ゆっくりとこちら視線を移動させる。
「これで何回目だっけ?選抜のメンバーとの合コン」
「どうだろうな…四回…ぐらい?」
「よっ四回!?…ったく四回も…よくまぁセッティングしてあげるわよねぇ」
私の呆れた視線を彼はキャッチしてくれなかった。
ただまっすぐと、目の前にある黒板に視線を向ける。
は心の中で『チェッ』とつぶやくと、木田と同じように自分も視線を黒板に移動させる。




"彼と同じ景色が見たいから"




前に誰かがそんなことを言ってた気がする。
そのときは馬鹿にしてたけど、今なら少し分かる気がする。
いつの間に私はこんなやつに恋をしてしまったんだか。











「まぁ桜庭とかすごい乗り気だしな」
「確かに…」
桜庭とは一年のとき、塾が同じだった。
まぁはっきりいっていけ好かないやつだ。
敢えて木田には言ってないけど(ぼそっ)




「次の合コンっていつぐらいにやるの?」
は視線を黒板に向けたまま問いかけた。
「そうだな…次の休みあたりなら大丈夫と思うから多分日曜になると思う」
「ほぅほぅ」
も来る?」
「いや、行かない」
即答した。
「そうか」
別にがっくりした様子もなく木田は答えた。
少し期待をしていた分、ちょっとだけショックだった。




























「なんかさ、木田ってアレだよね。うん、アレだ」
急に独り言を言い出すに、親友の真澄は少し不振な目を向ける。
「アレって何よ?(汗)」
「鈍いってこと」
「ああそういうことね。ってかさ、ちょっと噂で聞いたんだけどね」
「…?何?」
「あのさ、なんか…同じクラスの三原さん、木田君のこと狙ってるらしいよ」
「うえ???なっなんで??だっだって三原さんって普通に木田に合コンの話を持ちかけてる張本人じゃん?」
「さぁ?だって本人が友達に言ってるところを偶然聞いちゃっただけだし」
「ってか…それめちゃくちゃ本当の情報じゃん…(汗)」
なんかすごいブルーな気分なんだけど…
しかも三原さんって結構可愛い、みたいな。









気づいたら私は廊下を全速力で走っていた。





─ガラッ
勢いよくドアを開ける。
意外と音が大きかったせいで、教室にいたいろんな人が一気にこっちに注目してきた。
今更ながら恥ずかしいぞ。
まぁいいや!






「ねえ木田!」
私は木田を見つけると、一目散に木田のほうを目指し走り始めた。
さすがの木田もびっくりしてるや。
あはは(壊れ気味)






「あのさ、私も合コンにいくから!」
「は?なんだよいきなり…」
「いきなりも何もへったくれもないよ!分かったわね!今週の日曜なんでしょ?私、絶対に行くから!」
「あ、ああ」
木田は少し引いていた。
そんなことは関係ない。
三原さんにとられるよりはマシに決まってる!
























って張り切ったものの、合コン当日。
今更ながら『行きたくない』っていう気持ちでいっぱいになってる。
矛盾だらけもいいとこだな自分。
私はとりあえず最近買ったばかりの服を合わせると、待ち合わせ場所に向かった。
そういえば木田の私服を見るのは初めてで。
少し胸の辺りがドキドキしてる。
あぁ…こんなことならもっといい服を選べばよかったとか。
ファッション雑誌を手本にしておけばよかったとか。
たくさん後悔してるけど、戻る暇もなくって。
私はただトボトボと歩いていた。
















目的地まであと少し。
ちょびっとだけ視線をうえに上げてみる。
「…あ」
そこには木田がいた。
待ち合わせ時間五分前。
あいかわらず律儀なやつで。
そんなところに私の胸は無意味にときめく。







「ちぃーっす…」
私は少し顔をうつむきながら手を上げた。
「意外に早かったな」
「どーも」
なんか照れる。
私服の木田とか初めてだし、なんか全然顔が見れないよ。
そっとゆっくり顔をあげるんだけど。
恥ずかしくてあと一歩のところで顔をうずめてしまう。










「あっ二人とも早いね」
「!」
聞き覚えのある高い声。
「三原さん…」
「確かさんって合コン初めてだよね?」
少しウェーブがかかった髪の毛はフワフワと風に揺れて。
白いフワフワのスカートをはいて。
化粧をしているせいかいつもよりもはるかに女の子っぽい。
それに比べて私は…。
「…」
はショーウィンドーに写る自分の姿を見て、ため息をついた。
「あのさ、さん」
「…何?」
「あのね、話があるんだけど…」
「だから何?」
「私ね、木田君のことが好きなの。だから…できれば少しだけ二人にしてもらえないかなぁ…なんて」
「え?もしかして…告白とかするつもりなの…?」
不安で胸が高鳴った。
思わず目が見開く。
「うん。こういうのは早い方がいいんじゃないかなって思うんだよね」
彼女はニコッと笑いかけた。
胸が痛かった。
心の中で何度も何度も声が響いた。





、お前には勝ち目ないよって…




なんだか気分が悪い…




「いい…よ」
「え!?ありがとう!」
「………」









胸にたまった何かがグァングァンと音を立てて崩れるような気がして。
私は吐き気を催した。






「私、ちょっと抜けるね」









一言残して。
私はトイレに直行した。



気分は低下。
吐く直前。
トイレは運悪く、公園の男女兼用。
マジ冴えない。




後ろを振り返っても当然のことながら誰もいない。



なんで追いかけてくれないのよ。
って追いかけてくるわけないっつーの。
はぁ……木田の馬鹿。
気づけよアホ。
なんで私がこんなに辛い思いをしてるのに気づかないのさ。





気づけ。
気づくな。
気づけ。
気づくな。





二つの感情がグルグル回って、どんどん気持ちが悪くなる。




「う゛…」




は口を押さえると、トイレの便器に口を近づけた。



…最近寝不足だったもんなぁ。
朝は木田に普通に振舞えるか不安で仕方がなくて。
お昼はほかの女の子が木田に話しかけるんじゃないかって気になって。
放課後になればすぐ木田は運動場へ走り去り。
合宿といっては二、三日いなくなる。








そのたびに、彼がどんどん遠くなっていく気がしていた。









「大丈夫か?!」
背中をやさしくさする人を背後に感じながら、はゆっくりと顔を回した。
「…え?なっなんで木田がここにいる……う゛っ」
やばい。まただ。
また逆流って感じ…
「吐けるなら全部吐いておけよ」
「う、うん」
好きな人にゲロを見られるってどうなんだろう…(汗)
「大丈夫か?」
「…う゛…う゛ん゛」








彼の手が背中に触れると胸がドキンとした。
こんな状態でも私は彼を好きなのだと全身神経が知らせてて、涙が出そうになった。








「……き」
「え?」
「す…き」
…?」
「好き…なの。私、木田のことが好きなの」




全部吐き出してしまえ。
きれいなもの、汚いもの関係なく。
私のこの感情が汚いか綺麗かなんて分からないけれど。
全部吐き出してしまいたくなった。











「だから合コンも組んであげてほしくないし」
「…うん」
「三原さんとも付き合ってほしくない」
「…は?三原さん??」
「告白されたんでしょ…?」
「情報はぇーな(汗)」
「まぁね」
「断ったぞ…」
「え?」
「俺、好きな人がいるからって」
「はっ??木田好きな人いんの!?」
「気づいてなかったのか?」
「何が??」
「俺が自分から挨拶するのってだけだぞ」




「…は!?」





赤面して驚きのあまり吐き気がおさまってしまった私と…
少し照れながら背中をさすってくれる木田。






二人が顔を真っ赤にさせながら公衆トイレから出てくるのは、あと数分後のこと…だとか。